嬉々戸奇々に関する報告(前)
嬉々戸奇々(ききときき)は特にその必要もないのに、トイレに行くのをずっと我慢していた。
これ以上我慢できないという段階になってようやく腰を上げ、部屋を出る。
ギリギリまで我慢してからするのが最高なのよなどと思いながらトイレのドアノブを掴もうとしたとき、タイミングよくドアが開いて中から女の子が出てきた。
【参考画像▽家のトイレで鉢合う嬉々戸奇々と女の子】
女の子は、奇々と同じ顔、同じ髪型、同じ服装をしていた。
奇々はその子を見たとき、すぐに『この子は自分だ』と分かった。しかし自分がふたりいるのは変である。だから彼女は相手も間違いなく嬉々戸奇々なのかどうかを調べることにした。
「あの、私が今、何を考えてるか分かる?」
「たぶん私と同じことだよね」
奇々の身体には、あまり人に言いたくない箇所に小さなホクロがある。そのホクロの位置を「せーの」で言い合うと、答えは一致した。
更に念のため、『いちばん好きなおにぎりの具』が同じかどうかを確認することで、ふたりはお互いが自分であることを確信しあった。
「私がトイレに入ろうとしたら、あなたがトイレから出てきた」
「私が出ようとしたら、あなたがドアの前にいたんだよ」
「あなたはちょっとだけ未来の私なのかな」
「あなたがちょっとだけ過去の私なのかも」
「あの、とりあえず私おしっこしていいかな。もれそう」
「あ、そうだよね。急いで急いで」
過去の奇々?が用を足し終えスッキリしてドアを開くと、まだ未来の奇々?がドアの前で立っていた。
「トイレ入ってるあいだに、あなたは消えちゃうかなぁと思ったのに」
「私はあなたがトイレの中で消えちゃうかなぁと思ったよ」
「うーむ」
ふたりはキッチンに行き、鍋でポトフか何かの材料を煮込んでいる母親に状況を説明することにした。
「ママ、ちょっと見て~。私、なんか増えちゃった」
「あら。ホントねぇ」
「ん?ママあんまり驚かないね」
「ママも昔、増えたことあるからね。中学のときだったかな。大丈夫よ、その内フッと片っぽ消えるから。たまにあるのよ」
母親はそう言うと再び視線を鍋に戻し、灰汁を丁寧に取りはじめた。
奇々と奇々は「たまにあるんだって」「ないない」などと話しながら自分の部屋に戻り、仕方ないのでどちらかがフッと消えるまで、いっしょに過ごすことにした。
(続く)




