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手
登校中。瀬中かゆみは『手』を見つけた。
それは電柱の陰に落ちていて、五本の指がそれぞれミミズのようにうねうねと動いていた。
かゆみは怖くなり、走って逃げた。
学校に着き、友だちに手のことを話すと「オモチャでしょそれ」と笑われ、かゆみは気が抜けた。
確かに玩具としか思えないだろう。本物の人の手なら、手だけなのに指があんな風に動くはずがない。そういう玩具がどこかで売られているのかもしれないし。
かゆみは背中を掻きながら、お金を乗せるとお化けとか猫の手とかが箱から出てきてお金を持っていく貯金箱を想像していた。
夜にはもう、彼女は手のことなどすっかり忘れていた。家族みんなで食事をとってテレビを観て、後は風呂に入って寝るだけだ。
「お風呂入ってきまーす」
服を脱ぐ。背中を掻く。バスルームに入ってシャワーを出す。シャワーが程よく温かくなるのを待ってから体にあてる。背中を掻く。




