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堂夏ちよこに関する報告
あれは何年も前のことだったけど、と堂夏ちよこは思う。
その日、駅前にある洋菓子店で彼女はドーナッツを買った。クジ引きイベントをしていたので一枚クジを引いたら、ジャンボドーナッツが当たった。
大きすぎて入る袋がなかったので浮き輪のように輪のなかに入って持ち上げて、そのまま歩いて家に帰った。チョコが溶けて服も体もチョコまみれになってしまった。
ちよこには昔そんな事があったという記憶がぼんやりとあるのだが、両親に聞いても「知らない」と言う。
昔みた夢を現実に起きたことと勘違いしたのだろうと父親に笑われても、彼女はなにも言い返せなかった。自分でも嘘みたいな出来事だったと思うからだ。
しかしちよこにはそのときのジャンボドーナッツが重かったことや、溶けたチョコレートのぬめり感や甘い香りの記憶がある。
「あれは夢だったのかなぁ、でもぜったい運んだんだよなぁ」と思いながら、ちよこは今日のおやつのドーナッツを頬張る。
リアルな夢もあれば、夢みたいな現実もある。本当はどうだったのかは、もう誰にもわからない。




