是苦保しいなに関する報告
なにかを見たり聴いたりしたとき、懐かしい昔の記憶をとつぜん思い出すことがある。
追憶の引き金。
是苦保しいなにとっての引き金は、自販機の釣銭口だった。
なんとなく自販機の釣銭口をチラリと見たとき、急に数年前の記憶がしいなの脳内で再生された。
ある日。まだ幼かったころのしいなは、自販機の釣銭口に取り残されていたお釣り八五〇円を見つける。そのお金をスカートのポケットにしまい、何を買おうかしら、モナカでも買おうかしらなどと考えながらスキップして家に帰る。
「自販機でお釣りを拾ったよ。これでモナカ買っていい?」
キッチンで夕食の準備をしていた母親にそう聞くと「自販機のお釣りを取るのは泥棒さんのすることよ。大変、早くおまわりさんに捕まえてもらわなくちゃ」と言われ、しいなは手を無理矢理引っ張られて近所の派出所まで連れていかれる。
母親が警官に「この子が泥棒をしました。捕まえてください」などと言っている。警官が腰につけている警棒や手錠をカチャカチャと鳴らしながら、しいなを見下ろす。自分はとても悪いことをしてしまったのだと思ったしいなは、お巡りさんに泣いて謝る。
帰りに母親が買ってくれたモナカを、しいなは泣きながら食べる。
心のなかに封印されていた懐かしい記憶。
「あのときのモナカ、しょっぱかったなぁ」
子どもは毎日たくさんの経験をし、それを忘れながら成長する。だけど忘れた記憶は消えたのではなく、ちゃんと心のどこかに残っている。
思い出は大切な宝もの。普段は鍵がかけられて心のどこかに、厳重に保管されている。
追憶の引き金が、たまにそれを呼び覚ます。




