馬間弐なるみに関する報告
馬間弐なるみの両親は共働きをしており、なるみは母親が帰ってくるまで同居している祖父とふたりで過ごす。
「あのね、ママはわたしが生まれたときにママになったんだって」
「そうじゃな。なるみが生まれてあの女はママになった」
「わたしもいつかママになるの?」
「なんじゃ、なるみはママになりたいのか」
「うん」
そんな会話をしながら過ごし、彼女は少し昼寝をした。
夕方。目を覚ましたなるみは、ママになっていた。
足元にたまごが転がっていた。それを見た彼女は、自分が寝ながらたまごを産んだのだと思った。割らないようにそっと手のひらに乗せると、たまごは温かかった。
なるみが昼寝している間に、祖父が悪戯で置いたゆでたまごだ。
なるみは頭から毛布を被ってストーブの前に座り、小さな手で優しく包んでたまごを一心に温めた。額には汗が浮いていた。
仕事から帰ってきたなるみの母親はすぐに娘の様子がおかしいことに気付き、声をかける。
「なるみどうしたの。寒いの?」
「おかえりママ。わたしさっき、ママになったの」
なるみの母親は義父の部屋に乗り込んだ。
「ちょっとお義父さん、ホンットああいうことされると困るんですよ」「何ゆえもがき困るのか」「もがいてません。とにかく、娘に変な悪戯をしないでくださいよ。どうするんですかあのたまご。あれは生たまごですかゆでたまごですか」「ゆでだったらどうするのかね?」「知りませんよそんなこと。ああどうしよう」
母親はとりあえず夫の帰りを待つことにした。夕食の準備をしなければならない。ずっとストーブの前で汗をかき続けている娘には、たまにミネラルウォーターを飲ませた。
一ヶ月後。なるみはひよこのママになっていた。あの日の夜、話を聞いたなるみの父親が、農家をしている親戚の家まで行って鶏の有精卵をもらってきて、なるみが学校に行っている間にたまごをすり替えた。
ひよこはなるみの愛情を浴びながら元気に育っている。なぜ自分が産んだたまごからひよこが孵ったのか、なるみは疑問に思わない。なるみの母親と祖父の仲はあいかわらず良くない。




