丸井たまよに関する報告
丸井たまよは、生まれたときから玉だった。
直径九センチの玉として生まれ、十年間で三十七センチにまで成長した。玉の表面は全体が肌であり、触れると温かくて柔らかく、産毛なども確認できる。全体的に鮮やかな桜色を帯びており、健康に成長していることが窺える。
口がないので話すことはできない。栄養補給は基本的に点滴で行うが、ミネラルウォーターなどを肌にかけてやってもある程度は成分を吸収する。呼吸は皮膚呼吸によって、排泄は発汗によって行っている。
彼女が意識を持っていると断言できるのは、彼女は意識的に身体をぷるぷると震わせることができるからだ。身体を撫でてやると玉全体をぽよんぽよんと震わせてくすぐったがるし、空気の振動で音を検知できるらしく「たまよ」と呼べばぷるんと反応する。父親が冗談で彼女に向かって「おたま」と呼ぶとブルッと身体を震わせて怒ったりもする。
よく車椅子に乗せられて母親と共に散歩にでかける。彼女は散歩が好きらしく、なぜか雨の日を特に好んだ。母親がそう感じているだけなのかもしれなかったが、彼女の好き嫌いを感じるたびに母親は嬉しくなった。
先日、丸井たまよの写真集が発売されることが決まった。出版社から彼女を被写体にした写真集を出したいと言われたとき、両親は娘を見せ物にすることに嫌悪感を覚えたが、断るまえに自分たちが死んだ後のことを考え、話し合った。もちろん娘のために貯金はしている。しかし、もし娘が仕事を持ち、自分で稼げるようになるのなら。それは両親にとって夢のような可能性だった。
彼女は現在、川や海、山や草原などの自然を背景にした写真をカメラマンに撮ってもらう毎日を送っている。
最近の彼女を見ているととても生き生きとしているように感じるのは気のせいだろうか。
彼女はこれからどんな経験をして、どんな素敵な大人になるのだろう。




