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甘久茂くるなに関する報告
甘久茂くるなは下校中、雨に追いかけられた。
彼女は雨と曇りの境界線のぎりぎり曇り側のほうにいて、まだなんとか濡れずに済んでいた。しかし雨は後ろからゆっくりと近付いてくる。
走って逃げたがそれでも雨に追いつかれた。背負っていたランドセルが濡れ、通学帽と靴が濡れ、いよいよ彼女自身が湿りはじめたころ、やっと家へと到着した。
「ママっ、雨が追ってきた!」
リビングで煎餅を食べていた母親はなんとなく娘の言いたいことを理解し、とりあえず雨に降られた娘のために着替えとミルクココアを用意した。
着替えたあと、リビングでココアを飲みながら彼女はずっと窓越しに雨を見ていた。さきほど追ってきた雨が、もしかしたら移動をやめて自分の家にだけ雨をいつまでも降らせ続ける気なのではないかと不安がっている。
三十分後に雨は止み、雨を降らせた雨雲は虹を残してどこかに消えた。




