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トリオ  作者: 毘沙門天
2/2

追憶

 俺は高校3年生の頃恋をした。正直今思えばあれは恋だったのかどうかはわからない。

でも当時の俺は恋だと錯覚していた。

「颯太!上から客引いてきて!!任せた!!」

樹に俺は言われ店から学校のエントランスに行き正面の階段を登り上へ行く。

2階に着いたところで蓮が地元の友達と集まっているのを見つけた。

「おい蓮さぼんなよ、樹みんなとずっと焼きそば焼いてるぞ。助けたってよ。」

「ごめんごめん、たまたま地元の奴らが来ててさ、話してたんよ。」

「こんにちは!!れんれんの友達です!」

これが聖奈との出会いだった。

とても元気で明るく周りのムードメーカーというようなクラスに1人は確実にいるタイプの人間だ。

「こんにちはー、蓮借りていい?下もうぐっちゃぐちゃでさ、こいつがすっぽかしたせいでもう壊滅的なんよ。」

「全然いいよ!行ってこいれんれん!お前の仕事は下にある!」

おかしな子だと思いながらそれと一緒に最初は仲良くなれなさそうなタイプな人間だと思った。

「わかったよ、下行けばいいんだろ?何からやればいい?」

「とりあえず焼きそばと玉せん、いったん落ち着いたら客引きな。」

「わかった。まかせろ。」

料理が得意だった蓮はこういうことはものすごく向いている。

蓮とは同じイタリアンレストランのバイトで俺はフロアスタッフ、蓮はキッチンスタッフをやっている。

2人とも1年の最初から一緒に入ったため、仕事に関してはお互いに信頼を置いている。

「れんれんかっこいいねぇ。」

聖奈が言う。

「あいつ人付き合いは苦手だけど仕事はできるからな。」

「颯太君だっけか、れんれんから連絡先聞いとくね!よかったら今後は仲良くしてください。れんれんの数少ない友達さんなので。」

そう言い残し聖奈はどこかへ居なくなった。

へんなやつに絡まれたと思いながら俺は客引きを続けることにした。


俺はさらに上へ向かい3年生のクラスのある4階に向かった。

教室に入り自分の席に戻って外の熱気で汗ばんだクラスTシャツを着替えた。

そして教室を出た時また、知らない子に話しかけられた。

「樹先輩のクラスの人ですか?」

「そうですけど、どうかしました?」

「樹先輩の後輩の咲って言います。焼きそばのところまで案内してもらえません?」

「全然いいですよ、俺も今客引きしてる途中だから好都合。」

階段を降り外の屋台の並びへ向かう。

死にそうな顔をした樹が焼きそばを焼きながら待っていた。

「遅いって!どうせ教室でクラTでも着替えてたんだろ!マジでこっちやばいから!!」

「悪い悪い、咲ちゃんって後輩連れてきたよ。」

「おー!咲ちゃん!来てくれたんだ!ありがとう!」

「あ、先輩に会いに来たんじゃないんで、そんなに喜ばないでください。颯太先輩を見てみたかっただけなので。」

「え、俺?」

急なこと過ぎてびっくりした。何が起きてるのか分からなかった。

「樹先輩から親が離婚して母子家庭になって自分で学費を払って頑張って高校に通ってるすごい奴がいるって聞いてて一回会ってみたかったんです。」

「あ、そう言うことね、はじめまして花宮颯太です。」

「なんだよ咲ちゃん、俺に会いに来たんじゃなかったのかよ。残念。」

「私1ミリも樹先輩には興味ないので。」

樹が残念そうに焼きそばを焼きに戻った。

「樹へんなこと言ってなかった?」

「全然言ってないですよ。私先輩の話もっと聞きたいです。」

今までこんなにも女の子の方からぐいぐい来られたことがなかったため正直戸惑っている。

「大丈夫だよ。とりあえず文化祭のこともあるしまた別日に遊びにでも行こうよ。」

「ほんとですか!嬉しいです!楽しみにしてるんで絶対忘れないでくださいね!」

へんな子だなと思いながら連絡先を交換し文化祭の仕事に俺は戻った。

 文化祭も無事成功を収め、俺らの焼きそばと玉せんは文化祭歴代最高額の売り上げを叩き出した。

片付けをし、帰り道自宅の最寄りに着くとそこには聖奈がいた。

「聖奈ちゃん?だよね?」

「あ!颯太君!颯太君も最寄りのここなの?」

「そうだよ!あれ?蓮の地元だったら全然違う方面じゃない?」

「私高校入る前に引っ越したんだよね、だから今はこっちが最寄り。」

「そうだったんだ、びっくりした。」

「れんれんから聞いたんだけどさ、颯太君って片親なんだよね。すごいよね自分で学費払って、尊敬する。」

さっきまで明るかった聖奈が少し暗い。

「なんかあったの?さっきより暗くない?」

「んー、ちょっとその辺で話さない?」

そう言い俺らは駅を出て近くの公園へ向かい、ベンチに座った。

「実はさ、好きな人がいるんだ。高校の先輩だった人で今は大学生。でもさっきフラれちゃった。」

「そうだったんだ、それで暗かったのか。」

「私も片親なんだ。お母さんが昔風俗嬢で、私はお客さんとの子供。でも誰が父親かわかんないからお父さんの顔は見たことないんだよね、それでさ、その話を好きな人にしたんだけど受け入れられないって。」

自分よりも過酷な状況の同級生に会うことが普通に生活していたらあまりなかったため、驚いたと共に同情した。

そして俺は何故か周りには明るくして楽しませているのに、自分は辛さを1人で抱え込んでいる聖奈を少しでも幸せな気持ちにしてあげたいと思ってしまった。

「私さ自分がこんな状況だから昔は暗かったの。でも私が暗いと自分の周りも暗くなってくじゃん?だから私だけでも無理に明るく振る舞っていようって思った。そしたら周りだけでも幸せな気持ちになれるだろうから。親があんなだから私は幸せになっちゃいけないのかな。」

「そんなの関係ないだろ!誰にでも幸せになる権利はあるって。親のエゴに振り回されるなんて俺は真っ平御免だ。俺もそうだ。親父が中3で捕まってからお母さん1人で俺を育ててくれてる。そんなことで弱きになるなよ。そんなんだったら俺が聖奈を少しでも幸せだと思わせてやるよ!」

自分でも勝手に口に出てしまって驚いた。だがよく考え直してもこの言葉自体は本心に違いなかった。

「ありがとう。でもごめんねまだ先輩への気持ちが整理ついてないんだ。でもさ、本当に気持ちは嬉しいよ。こんなこと言ってもらえたの初めてだったからさ。本当にありがとう。今日はもう遅いし帰ろう。」

自分で言っておいて恥ずかしくなった。少なくとも今俺はフラれた。

その事実だけが残り。次第に俺は聖奈が好きなのかもしれないと思うようになった。

 文化祭から数日後メールが届いた。咲ちゃんからだった。

ここ数日は聖奈のことで頭がいっぱいで咲ちゃんのことを忘れていた。

俺は咲ちゃんと次の土曜日の夜に会うことになった。

土曜日になり駅で待ち合わせをしていると文化祭の日よりおしゃれをしてとても綺麗な咲ちゃんが来た。正直咲ちゃんは相当な美人だ。

「颯太先輩こんにちは!絶対私に遊ぼうって言ったの忘れてましたよね?」

自分では聖奈のことで咲ちゃんが頭になかったため図星だと思いながらもそんなことないよと答えた。

「今日は私がおすすめのご飯を一緒に食べに行ってもらいます!」

「そうか、楽しみにしてるね。」

どこか上の空になりながらも今日を楽しもうと思った。

咲ちゃんは家が金持ちで所謂お嬢様というやつだった。苦学生をこんな高級レストランに連れて行くか?と少し疑念を抱きながらレストランへ向かった。

「先輩ここ私の家の系列のレストランなんでなんでも楽しんでください!」

あ、そう言うことか。色々と理解した。

「先輩は学費とか全部自分で払ってるんですよね?私めっちゃ尊敬してるんです。うちはありがたいことに周りと比べて少し裕福でて流石に親に払ってもらってますけど、だからといって私が先輩の状況でもそんなに頑張れないと思うんです。」

「そっか、それはありがとう。シンプルに自分の頑張りを認めてもらえて褒めてもらえるのは嬉しいよ。」

「私頑張ることができる人、頑張ってる人が大好きなんです。それで言ったら樹先輩は論外です。部活もやめてチャランポランですし。」

「そんなこと言ってやるなよ。あいつはあいつなりに頑張って生きてるんだから。」

「先輩って優しいんですね。そう言うところもいいなって思います。」

「ありがとう。」

こんな時でも俺は聖奈のことを考えていた。失礼なことは分かっていてもふと頭に浮かんでしまっていた。

「先輩?大丈夫ですか?具合でも悪いんですか?」

「いや!ごめんなんでもない。」

「何かあったんですか?」

このままの感じを続けても失礼だと思ったから俺は正直に話すことを決めた。

「俺さ好きな人がいてさ、この前フラれたんだよね。一目惚れだったし、言ったら自分と同じような境遇で同情みたいなものでもあったからそんなに傷ついてるわけでもないんだけどさ、ずっと頭から離れなくて。」

「先輩って本当に優しいんですね。」

「そうか?こうやって一緒にご飯来てるのに他の人のことを考えてるようなやつだぞ?」

「私は先輩のそんなところもいいなって思います。普通の人だったらこんな馬鹿正直に話してもくれないです。」

「そっか、なんかありがとうね。少しは自分に自信でたよ。」

「あの、先輩。その好きになる相手私じゃダメですか?」

俺は一瞬聞き間違えかとも思った。突然のこと過ぎて焦りも隠せなかった。

「え?なんて?」

「私じゃその人の代わりになれないですか?先輩がその人を幸せにしたいって思うように、私も頑張ってる先輩を幸せにしたいって思います。頑張ってる先輩の話を樹先輩に聞いた時からずっと気になってました。そしたら会ったらこんなに優しい人で、頑張ってる人の隣にいると私ももっと頑張れるんです。私じゃダメですかね?」

焦りながらも確かに聖奈の気持ちの整理を待ち続けて辛い思いをし続けるのと、咲ちゃんの隣で幸せになるのだと咲ちゃんの隣で幸せでいた方がメリットになると思った。

それと同時に決断をメリットデメリットでしか判断できない自分にとても幻滅した。

「俺が咲ちゃんのことを本気で好きになれるかわからないし、それでも俺の隣にいてくれるのであれば、俺なんかで良ければ。

「颯太先輩だからいいんです。」

このようにして俺は咲ちゃんと付き合うことになった。

正直咲ちゃんと俺の関係は順風満帆だった。お互いにお互いのことを思い合い、早くも半年が過ぎた。

その時一通のメールが届きそれから咲ちゃんとの関係は一変した。

聖奈からのメールだった。今度会えないと一言だけだった。

正直心配で仕方なかった。

俺は咲に伝え、会うことにした。

「久しぶり。元気してた?」

「一応元気してたよ。颯太君は?」

「俺も一応。」

「急なんだけどさ。どうしよう。私颯太君のこと好きになっちゃってた。あの日からさ、私のことを初めて理解してくれて、私の存在と幸せになる権利を認めてくれて、正直ずっと考えてた。」

少し予想はしていた。何かあることは。

このパターンも想像していなかったわけではない。

ただ考え得る中で最悪のパターンだった。

咲と付き合い始めてから咲への想いにはじめてブレが生じた。

それと同時に聖奈への想いは同情ではなく本当に好きだったんだとも理解した。

しかし、俺は聖奈との道は選ばなかった。

「ごめん。あれから俺さ、彼女が出来たんだ。俺のことをおもってくれて、価値観の差とかはあるけど俺の頑張りも認めてくれてそれで自分も頑張ってて、正直モチベーションになってる。でも聖奈への想いが同情とかじゃなくて本当に好きだったんだってことを今気づいた。もっと早く知れてればな、待ってりゃよかった。俺なんかのことを少しでも好きだって思ってくれてありがとう。ただ、俺は聖奈とは今は付き合えない。」

そう言って泣いている聖奈を家に送り届け俺は帰った。

その2ヶ月後俺は咲と別れたこんな気持ちで先と付き合うことが心苦しくなったからだ。

咲は全力で止めてくれたが、俺はこれ以上辛いことを考えたくなかった。

そしてその頃には聖奈には新しい彼氏が出来てしまっていた。

聖奈との想いは何度もすれ違い、次第に薄れていった。

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