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第七十話 最高の恋

 季節がめぐり、春がまたやってきた。俺と愛はいよいよ高校三年生になった。


 今日は屋上で、愛と昼食をとることになった。


 いつも通りに、昼休みのチャイムが鳴り、みんなが俺の席に集まってくると、愛はみんなに一礼して、「今日はいつきくんと2人で屋上で食べたいの」と言って、俺を屋上に連れ出した。


 芽依は相変わらずに悔しそうに爪を噛んでいたのがなぜか懐かしい。


「どうした? また2人きりでご飯食べようって」


「たまにはいつきくんとまたこうやって屋上で食べたいから」


 そういって、愛は1()()の弁当を開いて、お箸でおかずを摘んで、俺に食べさせてくれた。もちろん、1つの弁当箱に2人分が入っている。


 みんなで食べる時は2つの弁当を用意してるから、今日は最初から俺と2人きりで昼食をするつもりなのが見て取れる。


「はい、働いたから、給料ちょうだい〜」


 愛は箸を置いて急かしてくる。


「はいはい、10円ね」


 俺は財布から10円玉を取り出すと、愛は丁寧にそれを綺麗なポーチに入れた。


「ポーチ買ったの?」


「うん、家のケースにも入り切らなくなったから、10円玉を入れるためのケースを新しく買ったついでに、これも買ったの。この中にも何枚かの10円玉を入れて、家にいないときでもいつきくんとの思い出を感じれるから」


「そう言われると照れるな」


「照れるって? もう、私にあんなことしといて?」


「あんなことって?」


「なんでここでとぼけるのかなー」


「だって人目あるし、それに、恥ずかしくて言えることじゃないじゃん」


「言えないのにするんだー」


「もう、今日の愛って意地悪すぎるよ」


 俺がそういうと、愛はクスクスと笑った。ほんとに天使みたい。


「あと1年で、私たち、バラバラになっちゃうね……」


「そうだね、でも、きっとみんな卒業してもまた集まるだろう! だから寂しがらなくていいよ! 芽依とか結月に会いたくなったら俺ん家に来ればいいし、はるととれん、葵に会いたくなったら俺集まるように呼ぶからさ」


 愛の寂しそうな顔を見かねて、俺は必死に思いついた言葉で愛を慰める。


「そうだね、またみんなで一緒に遊びたいね」


「うん、絶対できるよ!」


「ありがとうね、いつきくん。その、ボーナス貰ってもいい?」


「ボーナス?」


 次の瞬間、愛の唇が俺の唇を覆って、暖かい感触が伝わってきた。


「卵焼きの味、えへへ」


 ボーナスが卵焼きの味ってブラック企業にもほどがある。


 そう思って、俺は牛乳パックを飲み干して、今度は自分から愛の唇を奪った。


「これなら少しは甘いだろう」


 周りの人はみんな羨ましそうにこっちを見る。なんせ、あの()()がキスをしているのだから。


「うん、少し甘い、えへへ」


 思えば、最初は罰ゲームで嘘告白をした。そして、それに頷いた愛はなにか企んでるのではないかと疑った。


 気づいたら、俺は本気で愛を好きになった。振り向かせようと恋愛本を読み漁って実践した。


 結月とのことで、愛にやつあたりした。全てが終わったと思った時に、葵が俺を呼び覚ました。


 愛に謝りに行って、はじめて見た愛の表情が愛しかった。そして、フラットな口調で意地悪してくる愛が新鮮で可愛らしかった。


 長いようで、短い。海に行ったり、ハロウィンパーティーをしたり、クリスマスは2人でデートをして、そこで愛と俺の出会いと愛のトラウマを知った。


 愛がいるから、俺のトラウマは徐々に癒されて消えていった。だから、今度は俺が愛のトラウマをなんとかしたいと思った。


 みんなで奔走して、愛の同級生だった人達に声をかけて、愛へのメッセージを録音した。


 それを聞いた愛は文句を言いながら泣いていた。そして、俺らが大切だって言ってくれた。


 俺らは決して大人みないにかっこいい恋をしてる訳じゃないけど、子供、高校生なりに精一杯頑張ったと思う。


「日給10円で俺の彼女にならないか」


 そんなふざけた告白で、俺と愛は結ばれた。


「いつきくん」


「うん?」


「ありがとうね」


「どうしたの?」


「家に帰って、ケースに入ってる10円玉を見て、とても暖かい気持ちになるの。それは全部いつきくんが私にくれた思い出。いつきくんに雇われてよかった」


「そんな、俺はただ罰ゲームで……」


 愛は俺の言葉を遮って、言葉を続けた。


「私はいつきくんの雇われの彼女?」


「そうだね、これからずっと、毎日10円玉を支払わなきゃいけないだろう?」


「うん」


「将来10円玉だけで家が買えそうだな」


「うふふ、そんなことはしないよ。私の大事な思い出なんだから」


「ありがとう、そう言ってくれて」


「だから……」


「だから?」


「いつかは私を雇われの嫁にしてね?」


 とっさに出た愛の言葉に、俺は反応できなかった。


「いや?」


「じゃ、俺を雇い主の夫にしてくれる?」


「うん!」


 多分、これは俺にできる最高の返しだと思う。


「そのときって、10円玉をどこに置けばいいのかな」


「押し入れ丸ごと使うつもりよ?」


「そんな! 子供が出来たら、なんて説明したらいいんだよ」


「もう出来ちゃったりしてー」


「えっ? 俺はきちんとしてるはずだよね……」


「冗談だよ〜 そこはちゃんとしようね」


「うん!」


「『日給10円で俺の彼女にならないか』か」


「どうしたの? そのセリフは俺の黒歴史なんだよね……」


「違うよ? 最高の告白だったの!」


「そうかな?」


「そうよ」


 これから先、なにがあっても、俺は愛と一緒にいる。そう誓った。


 これは俺にとって最低の告白で、愛にとって最高の告白から始まった最高の恋の物語。

ご愛読ありがとうございました。『日給10円』の本編はこれにて完結します。今後after story〜を10話掲載する予定です。

もしドキドキして頂けたら、ブクマや評価して頂けたら、作者の励みになります。


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