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第六十二話 夏休みと海

 俺らは葵に朝5時に電話で起こされて、みんなして眠たそうな顔で駅前に集まった。


 とくに芽依と結月の目の下のくまが酷い。多分この2人は楽しみで眠れなかったと思う。小学生の遠足と同じ感じなのだろう。


「では、みなさん、今日から1泊2日の海になるのですが、くれぐれも日焼けしないように気をつけてください!」


 葵は教科書を拡声器みたいに回して、細くなった側に口を当てて、俺らに向けて大声で喋りだした。


 多分、葵が1番楽しみにしてるのだろう。


 愛、芽依、結月が可愛いワンピースかフリルの付いてるトップスを着てるのに対して、葵ははるととれんみたいにTシャツに短パンといった格好だ。


 ほんと、葵って男なんじゃないかと思ってしまう。


「ねえ、いつきくん、似合うかしら?」


「いっき、どう? 可愛い?」


「いつきくん、その、お義母さんが買ってくれた服なんだけど、どうかな……?」


 これをご飯に例えると、唐揚げ、ハンバーグとトンカツを一緒に口に突っ込まれてるようなもんだ。


「3人とも可愛いよ」


 だが、正直、唐揚げ、ハンバーグとトンカツを一緒に食べると、味がわからなくなるものだ。俺は実際3人とも可愛いしか感想が出てこない。


「なんで彼女が1番可愛いって言わないのかなー」


「気持ちがこもってない!」


「お兄さん、そんないい加減な言い方はやめて?」


 とたんに、3人の機嫌が悪くなった。愛は意地悪モード、芽依は通常運転ながらギアチェンジ、結月は愛しげな義妹モードに入った。


 頭が痛くなった。濃いのをいっぺんに食べたせいか、胃もたれがする。あくまで例えの話だけど。


「勘弁してくれ……」


 俺はそう言ってさっさと改札口の中に逃げ込んだ。





 海に着くと、俺らは同時に口をポカーンと開いた。なんと美しい光景だ。


 青い海の上に日差しがまるで星砂のように白く点滅し、砂と海の間では、温度差によって、景色が少し歪んで見える。


 海の中で家族やカップルが水を掛け合ったり、ビーチボールを投げあったりして、いかにも夏という感じだ。


 実際、俺とはると、れんは下に既に水着を履いてるから、短パンを脱ぐと、それで準備OKなのだが、女の子たちと葵は女子更衣室に入っていった。


 葵はなんで女子更衣室に入れるのだろうと一瞬本気で疑問に思った。


 俺ら男子がパラソルとレジャーシートを設置し終わると同じタイミングで、女子たちが戻ってきた。


 絶対わざとこのタイミングに帰ってきたのだろうと思ってしまうくらいレジャーシートを開き終わるのとほぼ同時に女子たちが話しながら戻ってきたから。


 愛はピンク色のリボンビキニで、引き締まったくびれとへそが丸見えでとても綺麗。


 芽依は白いつなぎビキニで、前からはワンピースにしか見えないが、その胸は自分の存在を強調するかのようにずっしりと構えている。


 結月は水色のフレアビキニで、胸の上にフリルが垂れてて、清純系美少女と言った感じ。


 葵はグレーのボーイレッグで、上にシャツを羽織っているから、ノーコメント……


 なんで女性の水着の名前がこんなに詳しいのかって? 水着を買うのに付き合わされたからだ。そのときの女性の店員さんの視線を思い出すだけで頭を掻きむしりたくなる。


 おまけに、色々な水着を4人で試着して、俺に感想を求めてきたから、俺は店員さんに冷ややかな目で見られながら、語彙力を総動員して、褒めたたえた。


 多分店員さんにジゴロかなにかと思われただろう。


 だから4人は今回は俺に可愛い? ってだけ聞いてきて、俺は可愛いと返したら、今度ははるととれんに詳しい感想を求めた。愛を除いて。


 愛はレジャーシートの上にうつ伏せになって、俺を手招きした。


 俺はなんのことだろうと思いながら、愛のところに行くと、急になにかを渡された。


「塗って?」


 どうやら、俺が渡されたのは日焼け止めのようだ。


「恥ずかしいんだけど?」


「彼女が黒ギャルになってもいいのかなー」


 はい、出た。愛の意地悪モード。


「日焼けしてもギャルにはならないと思うけどね」


「日焼けしたら、速攻でクラブに行ってギャルの勉強してこようかなー」


「俺はどちかかというと清純派が好きなんだよね」


「じゃ、何も言わずに塗って?」


「はい……」


 俺は日焼け止めを開いて、手に垂らして、ムラができないように両手を擦ると、愛は右手を背中に回して、水着の紐を解いた。


 テンプレじゃテンプレだけど、横から愛の乳房が丸見えになって、俺は慌てて手を当てて隠した。とたんに柔らかくて暖かい感触が手のひらに広まった。他の男に愛の胸見られたくないからだ。


 なんだかんだ言って、俺も独占欲が強いのかも。


「気持ちぃっー」


「変なこと言わないで? 恥ずかしいから……」


 俺が懇願すると、愛は不思議そうに俺を見つめた。


「もう聞き慣れてるんじゃないの?」


「ごめん、恥ずかしくて思い出したくない……」


 俺がそういうと、愛はますます調子づいてきた。


「もっとまんべんなく塗ってよ〜 変なとこだけ焼けたら嫌かなー」


 そう言って俺の手を引いて、自分の胸に当てた。


「きゃっ!」


「それは女の子がいうセリフかなー」


「だって、人の前で……」


「何度も触ったでしょう?」


「お願い、そこだけリアルに言わないで……」


 多分、他の人からしたら、俺の顔は日焼けで酷く赤くなっているのだろう。


 日焼けじゃなくてごめん……


「姫宮さんだけずるい!」


「お兄さん、私もお願いしてもいい?」


「いつきに任せるのは嫌だけど、はるととれんよりはマシかな」


 気づいたら、残りの3人も日焼け止めを持って俺の前に立っていた。という訳で、俺は恥ずかしさで死んでしまうんじゃないかと思いながら4人に日焼け止めを塗っていった。


 一言でいうと、重労働である……


 はるととれんは羨ましそうに見ているが、代われるものなら代わって欲しい。でも、愛だけはだめだから……

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