第三十七話 芽依の気持ちⅢ
はるとと途中で分かれて、私といっきは家に帰った。
家に帰ったとたん、お母さんが怒鳴ってきた。
「学校サボってどこに行ってたの!」
「まあまあ、お母さん、そんなに怒らなくても……」
「お父さんはいつも甘やかすから、今日みたいなことになるんだから!」
「ごめんなさい……」
「しかもあんたっていつも……」
お母さんの怒りの標的は私からお父さんに代わって、それからは、お父さんが一方的にお母さんに怒られている。
もう、私に用はないのだろうと、私は自分の部屋に戻った。学校を一日さぼっただけでも、こんなに怒られたのだから、はるとは今頃もっと大変だろうな……
今回の件で、私はある決意をした。いっきに告白をすると。
もし、ちゃんと気持ちを伝えていないまま、いっきがいなくなったら、それこそ一生後悔してもしきれないだろう。
そう思って、私は机の下に貯めていた小石を手に取った。これってほんとに便利だよね。ちっちゃいときは恐れ知らずでいっきの窓をたたいてたんだけど、今考えたら、もし落ちたら怖いなって思っちゃった。まあ、二階だし、落ちても大したけがはしないだろうけど、そうなったらいっきを心配させてしまう。
筆箱の近くにある箱から、絆創膏を一枚取り出して、私は窓を開けて、小石をいっきの窓にぶつけた。
開かないな……と思って、私はもう一個小石を投げた。ちょうど、投げたあとに、いっきが窓を開いたから、小石がいっきにぶつかるんじゃないかなと思ったら、いっきは額に教科書を当ててるから、それが身代わりとなって小石の衝撃を吸収した。
「もう、せっかく絆創膏買ったのに」
思わず文句が零れ落ちた。コンビニの絆創膏は馬鹿にできないくらい高いんだから。
「まあ、とりあえずもらっとくよ」
私は手を伸ばして、絆創膏をいっきに渡した。
「ちゃんと使ってね!」
「いや、けがはしたくないかな」
「じゃ、なんでもらったのさ!」
「記念? 今日も芽依の小石でけがしなかった的な?」
いっきって天然だろう。なに言ってるのかさっぱりだ。
「ところで、どうしたの?」
いっきに聞かれて、私は慌てていっきを呼んだ理由を思い出す。告白するためだった。
いざいっきの顔を見ると、さっきまでの決意が嘘のように消えてく。
「うーん、なんというか……」
「うわーっ、蚊に刺された、かゆい」
そういえば、もう七月だから、窓を開けてたら蚊に刺されるよね。いっきが涙目で蚊に刺された指を見つめて、私に用があるなら早く言って? みたいな目で訴えてきた。
私だって早く言いたいよ……でも心の準備ってものが……それに蚊に刺されたのはいっきの血液がうまいせいだもん。私のせいじゃないもん。私は刺されてないのはなによりの証拠だもん。
「あのな、いっき」
「うん?」
「いっきに言いたいことがあるんだ」
「うん」
「好き……」
「えっ? なんて言った?」
気づいたら、私の声がものすごくちっちゃくなって、いっきが聞き返してもおかしくないくらい。
「私、有栖芽依は秋月樹のことが大好きなの!」
勇気を振り絞って、私はやっと言えた。
「えっ? それって……」
「幼馴染とか関係なく、いっきのお嫁さんになりたいという意味の好きなの」
いっきはかなり驚いたみたい。
「……」
「小さいときからずっといっきが好きで、いっきのお嫁さんになるのが夢だったの」
「……」
「でも、ほら、中三のときにいっきが夢咲さんと付き合ったじゃん」
「……」
「その前に告白したらよかったってすごい後悔したの」
「……」
「高校に入って、いっきが元気になったら告白しようと思ったのに……」
気づいたら、私はとめどなく自分の気持ちをいっきに打ち明けた。いっきはただ私の話を聞いてくれてる。一生懸命に、一字一句を取りこぼさないように聞いてくれてる。
「でも、そのときにいっきが罰ゲームで姫宮さんを彼女として雇い始めたじゃん。それ聞いたとき、いっきはおかしくなったんじゃないかなと思ったよ。夢咲さんのことがあったのに、そんなことするなんて……」
「……」
「もう、私には一生告白できないのかなって思ったけど、今回のはるとのことで決心したの。いっきに好きって伝えるって」
「芽依」
「うん?」
「すごくうれしい」
「こっちは恥ずかしいよ!」
「俺もね、芽依のことが好きだったかも」
「かもってなによ!」
「だってほら、幼馴染だから、異性としての好きかどうか分からないじゃん」
「私はそれが怖くて告白できなかったの」
「ごめん。じゃ、言い直すね」
「うん」
「芽依のことが好き」
「幼馴染として?」
「それもあるけど、異性としても好きだよ」
「私のどこが好きなの?」
「天然なところ」
「だから私は天然じゃないし……」
「あとね、すごくかわいくて、でもふと見たら綺麗な顔をしているなって」
「そ、そんなこと思ってたのか!」
いっきの言葉で、私はますます恥ずかしくなった。かわいいとか綺麗とか、今まで告白してきた人にも言われたけど、いっきから言われると、それはまた別の言葉のように聞こえる。
「いつもわがままいうけど、気遣いもちゃんとできるし」
「そんなにわがまま言ったのかな」
「言ったよ。それに明るくて結月の時にたくさん救われたよ」
「ごめん」
「なんで謝るの? 感謝してるよ」
「それでそれで?」
いっきの次の言葉が待ち遠しい。
「胸も大きくなったし」
「……」
「いや、俺も男の子だからさ、どうしても気になるよ」
「いっきのバカ!」
みんなして私の胸ばかり見るもん……でもいっきに言われて、少しうれしかった。




