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第三十四話 奇襲

 俺らは散り散りとなって家に帰っていった。だれもが暗い顔をしてことの重大さを理解している。


 はるとが行方不明になった事実はみんなの心の池に石を投げたのだろう。それが波となって、また心に押し寄せる。


 俺は芽依の手を引いて家に帰った。姫宮も芽依のことを心配してか、今日は素直に引き下がった。


 俺は芽依が家に入ったのを見届けて、自分の家に入った。


 このことが馬鹿げているとは思わない。人間関係をはっきりさせることが出来るならちゃんと意味はある。俺と同じ轍を踏まないためにも……


 もし、俺は結月の本心を知ることが出来たら、こんなに傷つくこともなかっただろう……


 だからはるとのためにも、芽依がどんな気持ちを抱いてるのを知る必要がある。





 ドンドンと小石を窓にぶつけられてる音がした。俺は辞書を額に当ててゆっくりと窓を開いた。案の定一個の小石が辞書にぶつかって、俺の部屋に転がり落ちた。


「これじゃ絆創膏用意した意味ないじゃん」


「念には念をね」


「いっきはさ……」


「なに?」


「なんかおかしい」


 芽依は俺の心をぎゅっとさせた。


「おかしいのかな」


「なんかいつものいっきじゃない」


 ほんとに幼馴染の芽依を騙せないな……


「いつものいっきならはるとが行方不明になったらもっとパニクってたはずだってなんとなくそう思ったから」


「……」


「なんで黙るの?」


「いや、少し考え事」


「ふーん」


「芽依ってはるとのことどう思ってるの?」


「嫌いじゃないよ」


「いや、そういうことじゃなくて、恋愛感情があるかどうかってこと」


「分かんない」


「じゃ、なんではるとにパンツ見せたの?」


「なんでそれを知って……!」


「だって、芽依っていつもスパッツ履いたりしてるのに、たまにはるとが芽依のスカートをめくる時スパッツ履いてなかったから」


「誰から聞いたの?」


「はると」


「あのバカ!」


「どうしてなの? 好きだから?」


「欲求不満かな……」


 芽依の言葉に俺は思わずに耳を疑った。俺の知らないところで、芽依はこんなにエロい子に育ったの?


「だってしょうがないもん! 私処女だし!」


 いや、知らないし……


「それで欲を満たしてるの……?」


「いや、見られて興奮するとかじゃなくて、はるとの顔が真っ赤になるのが面白くて、なんか自分が女の子として見られてるなって」


「女の子として見られてなかったの?」


「どこの誰かさんにね……」


「それにしてもね……」


「じゃ、いっきが抱いてよ!」


「え?」


「いっきが抱いてくれたらもうそんなことしない!」


「ごめん、芽依が何を言ってるのか分からない」


「やっぱり今のなし……」


 芽依は我に返ったのか、自分が恥ずかしいことを言いまくったのを思い出して、顔が真っ赤になった。


「幼馴染からこんな赤裸々な話を聞かされるとは思わなかったよ……」


「うっ」


「いや、まさか芽依も思春期の女の子になったな」


「ぐっ」


「あと処女だなんてびっくりしたよ」


「もういいでしょう! やめてー!」


 悲鳴にも似たような声を発した芽依だった。


「あっ、ごめん、つい」


「だから忘れてってば!」


「努力する」


「いっきのバカ! デリカシーがない!」


「自分から話してきたじゃん?」


「だからって掘り返す必要ないじゃん!」


「確かに、ごめん……」


「分かったならいいよ!」


 芽依は勝ち誇った顔になって腕を組んだ。


「ねえ、いっきってやっぱりなにか知ってる?」


「はるとのこと?」


「うん」


「芽依はどうしたいの?」


 事情が事情だけに俺は質問で返すしかなかった。


「いっきに聞かれて、改めて思ったの。私ははるとのことどう思ってるのか知りたい……」


「はるとが行方不明になった今でも分からないの?」


「分からない。いや、はっきりしないの」


「もし、俺がはるとの居場所を知っていると言ったら?」


「いっき、知ってるの?」


 芽依は真剣な目で俺を見つめた。


「はるとに会いに行く?」


「うん!」


 本来なら、はるとに芽依の様子を伝えて、どうするかははるとに任せたほうが良かったが、芽依が今でも自分の気持ちが分からないなら、もはや2人を会わせるしかない。はるとの行動で賽は投げられたから、あとどう転ぶかは二人次第。


 少なくとも、はるとの行動は芽依の心を波立たせた。あとは芽依がはるとに会って、自分の気持ちを確かめるだけ。きっと、それでなにかがはっきりするだろう。


「明日学校をサボっても行く?」


「行く!」


「心当たりがあるだけで、はるとがいるかどうかは分からないよ」


「それでも行く」


 はるとの居場所を知っているとはっきり言ったら、はるとの行動は無意味になってしまうから。だから心当たりがあるだけに留めておいた。


「少し長旅になるよ」


「弁当作るよ」


「分かった」


「はるとに会って、自分の気持ちを知りたいの!」


「うん」





 窓を閉めて、俺は姫宮に電話を掛けた。


「姫宮?」


『いつもより早いね』


「あっ、話があって早くかけたんだ」


『有栖さんのことでしょう?』


 驚いた。姫宮は俺の行動を全て把握しているような気がした。


「うん、明日はるとがいるかもしれない場所に芽依をつれていく」


『うん、いつきくんならそうすると思った』


「あれ、驚かないの?」


『はるとくんといつきくんとの計画でしょう?』


「えっ?」


 俺は驚きを隠せなかった。芽依にすら分からなかったのに、姫宮は当然のように言い切った。


『ずっといつきくんを見ているから』


 なぜかこの言葉が暖かくて、心をまさぐっていく。


「ありがとう、明日は学校サボる」


『うん、また勉強教えるわ』


「ありがとう」


『ありがとうしか言えないのかしら?』


「ごめん」


『うふふ』


 なぜか姫宮は笑った。





 翌日、俺は芽依と学校に行かずに、新幹線に乗っていた。

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