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第三十三話 芽依の気持ちⅠ

 はるとのことは嫌いじゃない。


 中学校から、いっきと一緒に昼ご飯食べてたら、はるととれんも一緒に食べるようになった。


 いっきはれんとはるとが軽口を叩きあって、私もたまにそれに参加するのは楽しかった。四人で一緒にいるのは何気ない日常の一部となった。


 私はいっきが好きだった。だから、はるとを異性として認識することはあんまりなかった。どちらかというと親友みたいな感じが続いた。中二までは……


 ある日、私ははるとに校舎裏に呼び出された。はるとがなにか面白いことでも思ついたのかなと思いながら付いていったら、はるとは真剣な顔をしていた。


 とっさにはるとの言おうとしていることが分かった。ほかに告白してきた男の子と同じ顔しているから。


 でも、はるとのことだから、嘘告白してドッキリしかけてくるかもしれない。


「芽依、好きだよ」


「うん」


 私は次の言葉を待った。ドッキリなのか、本当の告白なのかを見極めようとした。だが、そこに沈黙が続いた。


「はると?」


 私に呼ばれて、はるとは「はい!」と答えた。少し呆れた。自分から好きって言っといて、これでまるで私がはるとに話があるみたいじゃない。


「続きは?」


「続き?」


 えっ? 好きだけ言うつもりなの? 私にどうしろっていうの? はるとってもしかして天然なの?


「じゃ、私を好きなのは分かったから、もう帰ってもいい?」


 なんとなく意地悪なことを言ってみた。


「いや、その……」


 はるとが慌てふためいてるところが面白い。ドッキリにしては演技うますぎる。


「なに?」


「答えは?」


「なにも聞かれてないよ?」


 はるとの反応が面白くて、ますますいじめたくなった。


「確かに……」


 もう、これじゃ告白じゃなくてただの茶番だよ……


「いっきとれんが隠れて見ているだろう」


「いや、いっきは芽依を待っているし、れんは私を待っているから、二人とも教室だよ?」


 すくなくともドッキリじゃないんだ……真剣な告白ならもっとシャキッとしてほしいな……


「いつまで待たせるつもりなの?」


「だから、芽依が答えてくれたら……」


 話は平行線のままだ。


「もう、付き合ってほしいってことだろう?」


「そういうこと!」


 はるとのどや顔がむかつく。自分から言えないのに、私が言ったら、それだ! みたいに言ってくるんだもん。


「答えはノーだ!」


「なんで?」


「いっきが好きだから」


「それは知ってる」


「えっ?」


 はるとはそれを知らないと思っていた。いや、私以外、だれもそれを知らないと思っていた。


「芽依を見てたら誰だって分かるよ?」


 誰でも分かるものじゃない。私の友達はみんな好きな人いる? って聞いてくるし、告白してくる男子に好きな人がいると答えたら誰? って聞いてくる。


 だから、驚きだった。はるとはちゃんと私のことを見ててくれているんだ……


「それが分かってて告白してきたの?」


「うん」


 今だけ男らしいじゃん。なんか心の中に分からない感情が芽生えた。


「でも、だめ」


「なんで?」


「だめなものはだめ」


「じゃ、これから芽依にどう接すればいいの?」


「いつも通りでいいじゃない?」


「えっ?」


「別に振ってないし」


「保留ってこと?」


「そうでもない」


「なにそれ」


 オーケイしなかった理由はわかるが、きっぱりと断らなかった理由は分からなかった。私はいっきが好きなのに、なんではるとをきっぱり断れなかったのだろう……





 それから、私は普通にはるとに接しようとしたけど、無理だった。だって、はるとをいじめると反応が面白いんだもん。


 いじわるをしていたら保留にされてるとも思われないし、気まずくない。


 はるとにちょくちょくときつい言葉を浴びせたら、はるとは子犬みたいにしょぼくれるし。私って性格悪いのかな……


 なんとなくいっきにこのことを話すきっかけがなくて、一週間の下校中にやっと切り出せた。


 けど、いっきは気づいてくれない。私はいっきが好きだから振ったのに、いっきはなんで? って聞いてくる。


 幼馴染ってつらい立場だって理解した。普通の女の子が弁当をいっきに作ったら、いっきは間違いなくそれが恋だと気づくだろう。ただ、私がそれをやっているけど、いっきは幼馴染が単に世話を焼いてくれてるとしか思っていないのだろう。


 私が悪いのは知っている。ちゃんといっきに気持ちを伝えなかったから。私はなにをしても、いっきにとっては家族みたいな絆があるからしていると思われてるだろう。


 いっきだけじゃない、だれも私の気持ちに気づいてなかった。女友達も、れんも、親ですら、私たちを仲のいい兄弟みたいだなっていうんだもん。


 それほど、幼馴染という立場、私が本心を隠していることが私がいっきを好きという事実を隠蔽している。


 でも、はるとは当たり前のように気づいてくれた。見てれば分かるって。それははるとが一生懸命に私を見ているから分かるもので、ほかの人、いっきにだって分からなかった。


 だから、私の中に、はるとに対して特別な感情があった。好きではないが、離れたくないという感情。





 私にきつい対応されるのが慣れたのか、はるとはしばらくして、ちょっかいを出してくるようになった。


 私の弁当のおかずを取ったり、いっきのいないところで私のスカートをめくったり、おまけに体育のあとに私のタオルを奪って匂いを嗅いだりした。ほんとに変態だわ。


 でも、嫌じゃなかった。嫌々なふりして、私は弁当を少しはるとにあげたり、スカートをめくってくるであろう日はスパッツを履いてなかったり、体育の後はタオルに香水かけたりした。私もある意味変態かもしれない。


 好きじゃないけど、はるととこんなやり取りしてるのが楽しくてたまらなかった。


 いっきは罰ゲームで姫宮さんと付き合ったあとは、余計はるとがちょっかいかけてくれるのが救いだった。はるとだけは私をちゃんと見てくれてるって思えた。


 葵に聞かれたことはあった。いっきじゃなくてはるとじゃだめなんかって。葵は知らない。中学校も小学校も一緒じゃなかったから。


 葵の知っているいっきは夢咲さんのことでたくさん傷ついて変わり果てたいっきだ。昔のいっきは誰よりも優しかった。


 私が池に突き飛ばしたときも、私が池に落ちないように支えてくれた。小学校から中学校毎日私の悩みやくだらない話に付き合ってくれた。


 多分、単に優しいという理由じゃない。私のいっきへの気持ちは長年育まれてきたもので、だから、簡単に変われない。


 これからもいっきとはると、れん、葵、そして、姫宮さんとずっと一緒にいるのかなって思ってた。


 少しずつ優しさが戻ったいっき。私だけを見てくれるはると。下品だけど面白いれん。女の子なのに男の子みたいな葵。そして、私と一緒でいっきが大好きな姫宮さん。


 しかし、はるとがいなくなった……


 私の何気ない日常が壊れた……考えたこともなかった……はるとがいないだけで、こんなにつらいだなんて……


 私の心は激しく疼いた……

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