第一章:桜花女子中学校潜入編⑤
村田から連絡を受け、闘技場に向かっていた。
【了解。】
と、ラインに返信をする。
【ありがとうございます。とりあえず状況を送ります。】
村田から返事が来た。
そして、その後、村田からスクリーンショットが大量に送られてきた。
その画像には、昨日アデーレと最初に洞窟で遭遇した時、勝手にログアウトして、アデーレを放置した集団が居る。そして、村田こと、マラータとアデーレはその集団に囲まれていたのだ。
然もなんということだ、課金杖のおかげなのかはわからないが、レベルも昨日遭遇した時も遥かに上がっていて、僕と村田よりは下の数値だったが、その差は1~2ぐらいになっていた。レベルはお互いに40弱というところか。
チャットの内容を見た。
【アデーレ、私たちと狩りに行きましょう。】
【いいえ、マラータさんと狩りに行きます。】
【すみません、マラータさん、アデーレは元々、ギルド、『フレーダーマウス』の召使いなのです。】
とのことで、村田が怒り狂って反論する。
【召使い?そんなこと、奴隷のような扱いじゃないか。】
そのようなことが続く、そして、アデーレも、村田と一緒に、狩りに行きたいと主張する。
【そう、彼女はシェーンブラウで預かっているんだ、さっさと失せろ。】
村田が、チャットに投げる。
【失せる気ないんですけど、つか、おっさん何?なんか用?アデーレに用があるんだったら、堂々と勝負しなさいよ。】
と、勝負を仕掛けられたので、闘技場へ向かったのだという。
闘技場。他のメンバーと勝負することができる機能が、このゲームには存在し、フィールドや、様々なダンジョンで、バトルをしてもいいが、一番オーソドックスに、正々堂々バトルするのはこの闘技場が一番の基本だ。むしろ、このような対戦機能で、一番最初にリリースされたのが、この闘技場だという。他の場所でのバトル、バトル以外の、例えばコイン集めなどの対戦は、ある程度ルールに制限があるのだが、この闘技場は対戦の仕方、バトルのルールを柔軟に決めることができ、通信対戦と言えば闘技場が基本なのだ。
アデーレが欲しかったら私たちに勝て、と言われ、乗った勝負だったが、昨日の集団、つまり『フレーダーマウス』の勝負を仕掛けたルールは、1チーム最大6人の勝ち抜き戦方式で、チームのメンバー全員が倒れたら負けというルールに設定されたようだ。そして、課金アイテムの使用はナシ。道具や、回復アイテムの使用もナシ。しかもアデーレを掛けた戦いと題したので、アデーレ以外で参加する。
つまり、今、村田1人 対 フレーダーマウス6人というわけだ。
1対6なんと卑怯なやり方だ。レベルは村田の方が高いが、それでも1~2しか違わない。それを6人と、且つ回復アイテムも使えない状態で、対戦するとなると村田の圧倒的不利になる。
急いで僕は闘技場に向かった。そして、通信対戦に参加した。
【To:マラータさん>来たぜ。参加するよ、おれも。】
僕は、村田にチャットを送った。
【To:クロワールさん>ありがとうございます。お屋形様。】
【To:クロワールさん>ありがとうございます。】
アデーレも僕に対してチャットをくれた。
行くぞ、負けられない。だがこれでも戦力的に不利だ。と思ったその時。
【To:クロワールさん、マラータさん>こんな圧倒的不利な勝負、見てられません。しかも大切なメンバーをかけた闘いだなんて。】
【To:クロワールさん、マラータさん>回復アイテムは使えなくても、回復呪文は使えます。私の回復呪文を使ってください。】
ん?誰だろう?
見るとそこには、2人の勇気あるユーザが現れた。エリックという剣士と、マリアという白魔道士だ。エリックの方は、長い髪にいかにも強そうな剣士を匂わせる外見。確かに、僕の好きなゲームにこういう強い剣士がいたよなという感じだ。マリアの方は、いかにも教会に仕えるシスターのような雰囲気で、白いガウンに胸にロザリオを下げていた。しかし、レベルは僕たちよりも15低い、25。強そうなヴィジュアルだが、果たして勝てるのかとも思った。
しかしそれでも、当たり前ではあるが、居ないよりはありがたい。
僕と村田は、それぞれお礼のチャットを流した。アデーレもありがとう、とチャットで言った。
1人目。僕たちのチーム、シェーンブラウからはマリアが参戦。やはりレベルの差があり、大ダメージを受けたものの、回復呪文でしぶとく耐え、負けてしまったが、相手の体力を半分まで減らすことができた。
エリックに交代し、1人目の続きから行う。なんと、2人がかりではあったが、エリックの体力がギリギリの状態になった時、1人目を倒すことができた。
相手が2人目に交代した時、エリックはギリギリの体力をゼロにされ、戦闘不能に。
僕、クロワールの番。村田に教えてもらった技術を生かしてやる。そして、今日、この瞬間だけは、聖騎士クロワールと名乗りたい。
聖騎士のように、思う存分、戦った。剣を振り、小さめの盾を防御にしながら、相手攻撃のダメージを最小限に抑えていく。僕は、キーボードを叩きまくった。行け、行け、行くんだ。
僕は相手の2人目を倒すことに成功した。
それを素直に喜んだ。しかし、HPはもう、3分の1しか残っていなかった。相手チームはあと4人、行けるところまで行って、村田に託すしかなかった。
それでも僕は全力で戦った。
そして、僕は力尽きてしまった。相手の3人目の体力が半分まで減らしたところで、僕は力尽きてしまった。
僕のチームは残りは村田しかいない。村田、いや、大戦士マラータ。見せてくれ。僕は祈った。
戦士と持っている斧の長所を十分に生かした戦いだった。
高い攻撃力で、相手にどんどん大ダメージを与えていく、HPも残り半分しかなかったからだろうか、相手チーム、フレーダーマウスの3人目をいとも簡単に撃破した。
しかし、後3人残っている。残り3人と村田は戦えるのだろうか。
その時、相手チームが順番を変えてきた。
出てきたのは、このチームの、フレーダーマウスのボスであろう、人物、つまりキャラクターだ。黒魔道士のクラスを名乗っている。
その黒魔道士は、いかにもきれいな青い杖を持っていた。大戦士マラータが、黒魔道士に突撃したその時。黒魔道士が杖を振った。
黒魔道士を中心に、大津波が現れる、然も、第一波だけでなく、第二波、第三波と連続で現れる。
村田のHPは一気にゼロになり力尽きてしまった。
ああ、苦手なところを付かれたか。戦士は魔法体制が弱いのだ。
しかしもっと重要な問題がある。そう、その杖だ。昨日のアデーレの魔法を見ていたからわかる。この杖の雰囲気でわかる。課金アイテムの使用はナシのルールのはずだ。
【おい、課金アイテムだろそれ、反則だ。ずるいぞ。】
僕は尽かさずチャットした。村田もすぐに反応し、同情。
【そうだ、全然約束が違う。】
【はあ、自分でモンスターを倒して、稼いで、買ったんですけどー。何スカ?おっさん達?アデーレはおっさん達よりも、私たち友達と付き合ってる方がずっと楽しいのよ。】
と、フレーダーマウスの黒魔道士に突き返される。
【違う。アデーレは、そのマラータさんという人と一緒に狩りを楽しそうにやっていた。】
エリック、がチャットする。
【はあ、急に来て何言いだすの?部外者は黙ってろ。悪を助けたおバカ剣士さん。】
とさらに暴言。そして。
【アデーレは約束通り頂いていくね。そして・・・・。】
【死ねよ、失せろよ。変人なおっさん達。】
と捨て台詞を吐き、アデーレを無理やり、フレーダーマウスのパーティに加えさせた。
僕らからは、『アデーレがパーティから外れました』としか表示されないが、強制的にパーティに加えさせ、外させたのが目に見えてわかった。
しかし、僕は冷静だった。
確か、村田は健康診断で、早退するんだよな。明日。
それと同時に僕のスマホがなった、ラインの通知だ。誰からラインが来たかは想像できる。
【畜生、なんなんだよ。あいつら、女子中学生が、大人相手に。】
【何とか言ってやってくださいよ。お屋形様。】
【お屋形様ああああ。】
村田からのラインの通知からさっきからうるさく響く。
【To:エリックさん、マリアさん>
今日は、ありがとうございました。また後日、相談させていただく、そして、お礼させていただきたく思います。とりあえず今日は僕はこのゲームから落ちることにします。】
と、状況を見て加わってくれた2人にお礼のチャットをした。
【To:クロワールさん>
こちらこそ、ありがとうございます。またよろしくお願いいたします。】
エリックから、チャットが来た。このチャットの内容を確認して、僕はゲームをログアウトして、終了した。
さらにラインの通知がひっきりなしに鳴っていた。
【お屋形様、何でログアウトするんですか。】
【今すぐ追いましょうよ。】
このメッセージの後、村田からのラインは、色々なキャラクターの怒りのスタンプが、次々と押されていく。
【落ち着け、村田。】
それでも村田の怒りのスタンプラッシュは止まらない。
【落ち着くんだ。】
ビシッというような内容のスタンプを送信する。
【俺たちは負けた。今は負けを認めよう。】
さらにメッセージを送信する。
【しかしあいつら、反則したんすよ。お屋形様も見てたでしょう。】
【見たよ。だが今おれたちが動けば、さらに火に油を注ぐことになる。】
僕は、落ち着いて、メッセージを送信した。
【どうするんすか。】
村田からの質問に対しても、落ち着いて返信をすることができた。
【僕に作戦がある。急で申し訳ないが、明日その作戦を実行する。とにかく、お前がやらなければならないことは2つ。
・明日、健康診断が終了したら、大至急僕に連絡すること。
・今日のアデーレとのチャットの内容を見返すこと、特に今日、どんないじめを受けたか確認しておくこと。
よろしくお願いします。】
そう村田に返信した。
【了解っす。】
村田から、返事が返ってきた。
明日の夕方、例のタピオカドリンクの店にあの集団が再び現れてくれ。あの集団の一番背の小さい、胸に赤いリボンをしている子、この子こそアデーレであってくれ。
僕は、それに賭けていた。それに賭けるしかなかった。
この賭けは成功してほしい。いや、成功させてみせる。僕は願った。