第一章:桜花女子中学校潜入編②
僕らは、アデーレと共に、ハルジオンの町へ行った。
【To:アデーレさん>その杖を買った武器屋まで案内してくれませんか。】
【To:マラータさん>はい。】
アデーレに案内された武器屋は、やはり、この町の二つある武器屋のうちの、高級なたたずまいをしている武器屋だった。
そして、杖の値段を確認する。30万ゴールド。僕は顔色が真っ青になった。まさかの30万ゴールド。
案の定、アデーレから話を聞けば、先ほどのパーティの仲間から、この杖を買わされたという、無理やり課金されて買ったそうだ。つまり、ゲームを始めた時点で、3万課金したことになる。課金のやり方、そして、スマホからログインさせて、スマホの支払方法の登録の仕方も丁寧に習ったそうだ。
【To:クロワールさん>お屋形様、大変です。この杖、今売られている杖の中で、攻撃力は一番高い杖ですが、水属性しかありません。】
さらに僕は真っ青になる。さっきこの杖から発動したのは雷の魔法。しかもモンスターを瞬殺できるほどの威力の雷の魔法。おそらく村田も画面の向こうで、真っ青な顔をしているだろう。
と、いうことは。さらにこの町の鍛冶屋へ行ったということだ。
【To:アデーレさん>この杖を買って、さらに何かやりませんでしたか?そのさらに何かした場所へ連れて行ってくれませんか?】
震える指で、僕はキーボードをたたいた。
アデーレは僕たちを鍛冶屋へ案内した。そして、雷の属性付与の錬成を行ったのだ。おそらく雷属性を最高値まで高めたのだろう。お値段20万ゴールド、さらに2万円を課金した。
アデーレのパーティの連中は、現実の彼女から合計5万円を騙し取り、挙句の果てに経験値を稼ぎ、そのままバックレたということだ。そして、何もできないアデーレを取りのこし、自滅させて、リセットし、何も残らないように仕組んだのだ。
陰湿な『いじめ』を目の前で見た。白昼堂々の犯行。
【To:アデーレさん>さっきのパーティの人達はどんな関係?ラインも持っているということだから、ネット上で知り合った人ではないよね?】
【To:クロワールさん>はい。学校の部活の友達です。】
僕は、心臓がバクバクした。まさか、まさか。
【To:アデーレさん>学校って?何の学校?】
のどを鳴らす。行きを飲む、一瞬の沈黙、周りの音も聞こえない。
【To:クロワールさん>はい。同じ中学校の水泳部の友達です。】
「おなじ、ちゅうがっこうの、すいえいぶのともだちです。」
僕は、ゆっくり、ゆっくり声に出してこの文字を呼んだ。何度も、何度も繰り返して、音読した。
かなりの時間が経過している気がした。
音読する声が、次第に大きくなる、そして次第に早くなる。
女子中学生が5万円騙し取られるいじめ、だと!!
女子中学生にとって5万円はかなりの大金だ。いや、僕からしてみても、かなりの大金だ。
村田からのラインが来ていた。
【お屋形様、大変だ。】、【お屋形様】、【お屋形様、メッセージ見てますか?】
村田も同じことを感じたのだろう、すぐさまメッセージをラインに送っていた。
【ああ、とりあえず、このアデーレという子を僕たちのギルドで引き取った方がいいかと。】
村田も同意見だった。今度、そのパーティにアデーレが誘われたとき、そのパーティの連中を見たとき、僕たちもサポートできるようにしておきたかった。
そう、いじめをほっとけなかった。
【To:アデーレさん>とりあえず、僕たちのギルドに入ってください。そして、ギルドの本部に行きましょう。話はそこからで。】
ハルジオンの町、西の郊外、ぼろい民家が僕たちのギルド本部だ。
中に入らせ、テーブルに座らせ、話を聞くことにした。
どうやって切り出そうかと思ったのだが、事実をそのまま伝えることにした。
【To:アデーレさん>単刀直入に言うと、君は、同じ学校の友達から、さっき、お金を騙し取られたのです。一種のいじめだと思うんだけど・・・・。】
【To:マラータさん>そうなんですか。そんな・・・。】
【To:マラータさん>いくらくらいですか?】
【To:アデーレさん>僕らが見た限り、少なくとも5万円は騙し取られているよ。】
【To:マラータさん>5万円ですか。そんな。今まで500円くらいだったのに・・・・。こんなお金今までなかったのに・・・・。】
今まで、ということが気になった。まさか。
【To:アデーレさん>他にもあったのですか?】
彼女は、正直に話してくれた、100円くらいのジュース驕らされたり、ノートをおごらされ、学校の出席番号の近い彼女の友達からはテストのカンニングをされたり、宿題を写させられたり、ことあるごとに、お金を要求していたのだそう。
何時しか、通い始めた中学の友達は、お金でしか信用してもらえないものだと思い込むようになったという。友達がいないと思うことが怖かったらしい。
【To:アデーレさん>先生に相談したの?】
【To:クロワールさん>担任の先生と水泳部の顧問の先生に相談したけれど、そんなの微々たるお金でしょ。ここは、私立の進学校。勉強すればいくらでも君の損した分のお金が返ってくるよ。さあ、勉強、勉強。勉強していれば変な問題は起きないんだよ。勉強以外で変な問題を起こさないでくれよな。と返されました。】
なんということだ。最悪な教師だ。実際に起きた事実を言っているのに。
まだ、微々たるお金だからよかった。その後だった。
【To:クロワールさん>去年の新人戦から、水泳リレーの選手に選ばれて。キャプテンがリレーの選手に選ばれなかったことをきっかけに、エスカレートしていきました。物が無くなったりして。そして、私の学校は中高一貫校なので・・・・。】
【To:アデーレさん>高校の水泳部員も一緒に君のことをいじめるようになった。】
僕は、彼女のそれに続く言葉を想像して書いた。
【To:クロワールさん>はい。】
やはりそうかと僕は思う。
【To:クロワールさん>そして、今月。中学3年生に進級したばかりの最初の大会で。私がリレーのスタートに失敗して、失格になったせいで・・・・。さらにエスカレートして、暴行受けるようになりました。でも、自分のせいだし、つながっていたいし、助けてほしいけれど。】
4月の末。僕は、一人の少女の悲しみを見た。
何が会社をクビになっただよ。もっと頑張っている人がいるではないかと僕は思った。
【To:アデーレさん>よし!!君のために僕が力になろう。まずはこのゲームを一緒に鍛えよう。今、おそらく、スマホからログインしているよね。パソコンで、ログインができそうならパソコンでログインしよう。そっちの方がやりやすい。俺たち待っているから。】
村田の提案に共感した。どうやら、本当の友達ということを彼は教えたいらしい。
ありがとうございます、というチャットが流れて、いったん彼女はログアウトして、10分くらい経過したところで、再び現れた。おそらくパソコンから、ログインし直したのだろう。
【To:アデーレさん>君をこのギルド、シェーンブラウのメンバーとして迎えます。】
ギルドの所属は掛け持ちも認められている。むしろ掛け持ちしている人から、自分のギルドに仕事の依頼が来たりする場合があるので、有利になることが多い。だから村田はこう付け加えた。
【To:アデーレさん>大丈夫、奴らのギルドやパーティに加わることになっても俺たちが味方してあげるよ。】
村田と、僕と、そしてアデーレで狩りに行くことにした。マラータこと村田は彼女に防具を買ってあげた。魔女の帽子、水色のフリフリのワンピースはてもかわいいものだ。
そして、先ほど、アデーレと遭遇した洞窟に再び出向き、彼女の持っている課金杖をせっかくだからと思って、使い、次々と魔物を倒して行った。
彼女のレベルは一気に上がっていき、僕らと同じくらいのレベルまで成長していた。
村田とのチャットは楽しい会話ばかりで、彼女も先ほどのしんみりした空気とは少し一変したのだろう。楽しそうであった。
やがて、時刻は夜に差し掛かったころ、村田も明日は仕事であること、彼女も明日は学校であることから、お開きになった。
【To:マラータさん>ありがとうございました。あの、お礼やお金は必要ですか。】
【To:アデーレさん>そんなのはいらないよ、本当の友達というのはお金では買えないんだ。僕たちは今日、友達になったから。いつでも相談においで。】
その通りだ、と僕は思った。彼女はお礼を言ってログアウトしていった。
僕と村田も同時にログアウトした。
そして、僕は床に就いた。休日のゲーム疲れを癒すかのように。
さて、明日から何しよう。とりあえず、村田の言った通り、YouTubeだな。
そうおもって、彼女のことを心配しつつ、寝ることにした。