第一章:桜花女子中学校潜入編①
『アルヴァマー大陸物語』を始めたこの週末、僕は村田にみっちり、狩りのやり方を教えてもらい、モンスターの戦闘の仕方、レベルの効率的な上げ方、チャットの仕方、その他、このオンラインゲームのやり方について、教えてもらっていた。
金曜日の帰りは、二人で飲んだ直後ということもあり、さわりだけ教えてもらい、この週末にあたる、土日をゲームに返上するかのように、とことんやりこんだ。
ネトゲ廃人が確定する。これが、ネトゲ廃人へのカウントダウンなのか。と僕は思う。
すっかりやりこんだおかげで、僕のレベルは、30に、村田は35に上がっていた。普通、ここまでレベルを上げるのは難しいのだが、村田のおかげで、レベル30くらいの人が行くようなダンジョンを冒険したので、村田が倒した分の経験値も僕に振り分けてもらえることになった仕組みだ。
【いいっすか、強い人と狩りに行って、強い魔物がいるダンジョンに入れば経験値がかなりもらえるんですよ。】
と村田はチャットで教えてくれた。チャットの使い方も慣れてきた。
ただ、強い人は簡単に一緒に仲間になってもらえないことが多いのだとか。村田もずっとソロプレイをしていたようだった。
日曜日も午後に差し掛かったころ、村田がチャットで提案してきた。
【では、お待ちかねギルドを作りましょう。ぱちぱち。】
との内容だった。
【ギルド、というと。】
【一緒に活動する仲間ですよ。ギルドメンバーで基本的にはパーティを組むんです。自分でギルドを作れますし、大きなギルドに参加してもいいです。ただ、大きなギルドに入るにはかなりハードルが高いので。僕は、お屋形様とギルドを作りたいです。】
おお、そうなのか。
【ええ、ここで女の子と沢山出会いましょう。僕も銀行で、出張や転勤が多いんですわ。やはり、ずっと付き合うにはネットの中でないと。お屋形様もこれからはネットでリア充になりましょうよ。】
なるほど、そういう狙いか。まあ、良いだろう。村田と行動するのがやはり気が合う。本来であれば、オンラインなので、ネット上で知り合っても、実際にはあったこともないような知らない人とも出会って、行動するのだが、やはりギルドに一人でも知っている人がいると心強い。
【ただし、お屋形様。このネトゲにも、女の子のキャラクターでプレイしている、男の人もいますし、逆もあります。いろいろ注意して、ギルドメンバーに入門の許可を出したり、パーティー参加の許可を申請しましょう。】
なるほど、以前学んだ、ブログを通しての出会い系とほぼ同じ手口か。面白い。そう思った。
【では、ギルドの名前を考えてください。】村田から、チャットが来た。
いくつか候補が出た。何かクラッシックの曲や、日本語のタイトルの曲などをもじって名前ができないか・・・・。
クラッシックの曲の一つが出てきた。それをもじって、『シェーンブラウ』という名前が出てきた。
【シェーンブラウ、でどうでしょう。】
【カッコいいですね。それで行きましょう。】
おそらく、村田はギルドの名前は出て来ていなかったのだろう、いや、考える気がなかったのだろう。まあ、良いだろうこれで村田に恩返しができた。
ギルドの拠点はハルジオンの町の西の郊外付近にすることにした。ぼろい民家を一つ立てる。クエストや仕事がたくさんこなせるようになる、仲間がたくさん加入するようになるとだんだんとぼろい民家から、大規模の商業施設の外観へと、ステップアップできるらしい。しかもギルドメンバーなら無料で利用できるという仕組みだ。最初はぼろい民家にぼろい宿屋しかないが、それで十分だ。宿屋なら体力の回復ができる。初めからギルドを建てたほうがよかったのではと思ったが、最初のステップとして、5000ゴールドがいるらしい。5百円課金すればという話になるのだが、僕たちはモンスターを倒しまくって、ギルド設立の最初のステップを手に入れることにした。
そして、僕の装備も新しくした。外見のコスチュームを変える。
青のハットに羽の付いた帽子をかぶり、青いコートのような上着を着て、ズボンとブーツをはいた、旅の騎士のような格好に変えてみた。
【さすがはお屋形様らしいです。】と村田からチャットをもらった。
ギルドの名前ができて、僕の装備を整えたところで、
【まだ日曜日の午後です。夜ではない時間帯です。ラスト一狩り行きますか。】とのことだったので、僕と村田は、ダンジョンへ向かうことにした。
レベルが30前後くらいの人がいく、ハルジオンの北の洞窟へ行くことにした。村田に教えてもらった復習だ。
村田と共に最深部へもぐっていく。
すると、5~6人くらいの集団パーティを見つけた。レベルはそれぞれ平均して15くらい。こんなレベルの人が行くようなところではないのだがなあ。普通であれば、レベル40くらいの人が一人いて、その人が仲間をサポートするのが普通なのだが・・・・。僕が村田にサポートしてもらったように・・・・・。
しかも一人は、レベル1。貧弱な装備の外見をしている。始めたばっかりで、このダンジョンに行くのか・・・・。しかしよく見ると、持っている武器の杖だけはいかにも強そうだ。
案の定、このパーティは弱かったのだろう。周りをあっさり敵のモンスターに囲まれてしまった。
僕と、村田は、その光景を、このパーティの背後から観察している。
すると、レベル1の貧弱な装備をしているキャラクターが持っている杖を振り回した。
とんでもない威力の雷がモンスターにヒットし、一気に玉砕。このパーティのレベルが、3段階以上上がっていく。レベル1の貧弱な装備のキャラクターに関しては、一気に10まで上がっていた。
そして、他のキャラクターはレベルが上がったと同時に、画面から消えてしまった。どうやらゲームからログアウトしたらしい。その、最初はレベル1で、とんでもない雷の魔法を使ったキャラクターが一人、取り残されてしまった。その子は一人、迷っている様子だった。
【話しかけてみます。お屋形様。おそらくその子、初心者です。】
【やってみましょう。】
そういって、僕らはそのキャラクターにチャットで声を掛けた。このキャラクターは女の子で、貧弱な装備をしている。上はただの布のシャツ、下は古いズボンだろう。しかし、持っている杖だけは高級感あふれるような強い杖だった。
職業は黒魔道士で、名前はアデーレとある。
確か、近くに複数いて、複数で会話する場合は、【To:○○さん>】とつけるんだよな。
実際は、キャラクターをクリックすれば、【To:○○さん>】とつくのだが、実際にやってみた。
【To:アデーレさん>こんにちは。何かありましたか。】
【To:クロワールさん>あの・・・・。みんなどこへ行ったかわかりますか。】
アデーレさんからの返信はこうだった。
みんながログアウトしていったことを知らないのか。つまり、ゲームを終了したということを。村田も同じようなことを思っていたようで。
【To:アデーレさん>みんなログアウトしたんです。つまりゲームを終了したのです。とりあえず、アデーレさんも画面右下に表示されている、ログアウトのボタンをクリックしてください。そして、選択肢がいくつか出ますので、全て『はい』、もしくは『OK』を必ず押して、もう一度ログインしてください。ログイン後、ここからやり直すことができます。】
【To:マラータさん>わかりました。やってみます。】
ゲームを終了するときに、必ず『はい』を押す。これでセーブが完了する。僕も村田こと、マラータに教えてもらった。基本的にオートセーブがなされるが、パーティ全員が死滅場合に限り、最後にログアウトした場所に戻されてしまうのだ。
つまり、このアデーレという女の子の場合、先ほどの戦闘後、パーティ全員がログアウトしてしまったため、現在パーティはアデーレただ一人。つまり、アデーレがこのダンジョンでHPが0になり、死滅してしまえば、先ほど稼いだ経験値も、装備している武器もすべて水の泡となる。
アデーレは一度ログアウトし、再びログインして、ここに現れた。僕と村田は彼女のステータスがログアウト前のものと同じになっていることが分かった。
すぐにアデーレを僕、クロワールと、村田、マラータのパーティに加える。
【To:マラータさん>あの・・・、ありがとうございました。】
【To:アデーレさん>いえいえ、先ほどの仲間の方に、ログアウトのやり方を教えてもらっていなかったのですか?見るからに、アルタイを始めたのは先ほどの仲間の方々の方が先のようですが。】
【To:マラータさん>いえ、敵を倒したら勝手に消えてしまいました。ありがとね。とチャットして。さっきの仲間の子たちのラインも持っているのですが、急に画面から消えたので、どうしたの?と聞いていたのですが、さっきまで頻繁に教えてくれていたのに、そのラインが急に途絶えてしまって・・・・。】
どうやら、先ほどのパーティに見捨てられたらしい。一体どういうことなのか。
【To:アデーレさん>そうなんだ、ところで、教えてくれたって何を教えてくれたの?】
【To:マラータさん>武器の装備の仕方、武器屋の行き方、魔法の使い方とかです。】
村田はどうやら、武器の装備の仕方、武器屋の行き方、そのパーティの仲間が教えた内容を疑っているようだった。チャットの内容を僕も見ていたので、村田と同じ可能性を僕も疑っていた。
この数日このゲームを長時間やりこんだからわかる、経験者の村田から教えてもらったからわかる。
アデーレの持っているこのやたらと強い杖の入手経路が。
【To:アデーレさん>この武器はどこのお店で買いましたか?】
【To:マラータさん>ハルジオンで買いました。】
【To:アデーレさん>では、ハルジオンの町に戻りましょう。付いてきてください。】
【To:クロワールさん>申し訳ない、お屋形様、戻りましょう。】
【To:マラータさん>了解。僕もこの子をほっとけない。】
【To:クロワールさん>それでこそ、お屋形様です。】
そう思って、アデーレを連れて、ハルジオンの町へ向かった。