男の娘は疑われます
翌日、早速出勤して煙寿は事務課と広報課に挨拶をした。
支部長と異能犯罪対策課を除く全員が非戦闘員で、一期に事務課で二期に広報課を募集したらしい。
支部長は力に自信があるらしく、その面を後回しにしたら後悔するくらいに忙しくなったそうだ。
そんな失敗談は置いておいて煙寿は自身が所属する異能犯罪対策課の部屋に入って挨拶した。
「皆さん、おはようございます」
そう言いながら席に着くと全員が「おはよう」とだけ返してパソコンに向かった。
色々とやらないことは多いみたいだし、ホワイトボードに10時から実戦訓練と書かれてるからこれしかやることがないらしい。
仕方なく煙寿もパソコンに向かった。
現時刻は9時28分で、タイミングを見て咲彦が煙寿に尋ねた。
「ねぇ、煙寿さん。あなた昨日の爆破事件の現場にいたそうですわね。どうして居合わせられたんですの?」
咲彦は強いと思えない煙寿が星零なのが納得いかないらしい。
それで何か潰すネタをと思ってこれを怪しいんでるようだ。
それに煙寿は呆れながら答えた。
「運悪く自宅のマンションのそばで起きただけです。ムカついたから全力で恐怖を与えてやりましたよ」
パソコンに向かいながらそう答えると、今度は目の前の闇広の方から疑問が飛んできた。
「そっちに答えるのならこっちも答えてくーださい。昨日スーパー若葉のそばの路地裏で倒れてる男性が発見されまーした」
これを聞いて煙寿は心の中でこいつはやばいと思った。
それを表情に出さないので彼は続けた。
「状況的に最初は別の犯罪者に襲われた思いまーしたが、男性は的確に足を狙われるだけで見逃されてまーした。しかもその顔をよく見たらひったくりの常習犯でーした。どう言うことでしょ?」
この意図は分からないが煙寿が答える前に咲彦が疑問を闇広に投げかけた。
「あら、なんでそんなに詳しいのかしら?」
そう聞くと一旦闇広は咲彦の方を向いて答えた。
「現場のすぐ近くに住んでるから行っただけでーす」
それを聞いて咲彦はふーんと言うだけだったが、煙寿は内心「あぶねぇ!」と焦っていた。
そこに闇広は目をしっかりと煙寿に向けて再度質問をした。
「で、煙寿さーんよ。犯罪未遂でも異能犯罪者に変わらないから一般なら手を出さないでーすよね。でも、こっち側なら動きかねないでーす。つまり、あんたがやったんじゃ無いかと思うんでーす。そこんところどうなんでーすか?」
この質問にしっかり答えようと煙寿は少しだけ心を落ち着かせた。
それからしっかりと相手を見つめて答えた。
「私の能力は反転だからそんなこと出来ないのですよ。相手を反転で地面に叩きつけることなら出来ますけど」
そう答えると闇広はじっと目を見つめた。
それから笑って謝った。
「ごめんごめん。確かに無理だーよね。でも、知り合いにそういうのがいればできるかなって思ったんでーすよね」
明るくそう言うので煙寿はつられて言ってしまった。
言ってはいけないことを。
「いるわけないですよ。誰も見てない路地裏にそっと攻撃できるような知り合いなんて」
これを言い切ったところでハッとなった。
現場の近くにいたなんて一言も言わなかったのに『誰も見てない路地裏』なんて表現が出るのはおかしい。
それには挨拶以外に何も話してない真昼ですら疑いの目を向けてきた。
これにすぐに反論しないといけない思った煙寿はすぐに言った。
「いや、昨日は夕飯の買い出しに行って路地裏を確認したから誰も見ないんだなって思ったんですよ!それなら誰かが言い合いしてたら珍しくて見られるのかなってね!」
苦しいがいい言い訳がすぐに思いつかなかったんだからこれくらいでも仕方ない。
でも、全員が確かにと思ってくれた。
これで疑いが一応晴れたが煙寿は「ここの連中の頭は大丈夫か?」と思ってしまった。
しばらくして真昼はボソッと独り言を呟いた。
「SNSの目撃情報で純白の天使が上がってるな。たった2件だから信憑性は薄いが、彼が数ヶ月ぶりに動き始めたのか?」
その話を聞いた3人が真昼のパソコンを覗いた。
そこには証拠写真はないが2人の目撃情報が映されていた。
その内容を確認した煙寿は少しだけ不安に感じた。
それに気づかずに他の2人は別々なことを言う。
「嘘だと思いますわ。あの方が誰かの手柄になるようなことはしないはずですもの」
「俺も嘘だと思いまーす。あの人なら犯罪者は完全に身動きを奪ってから身柄を渡すはずでーす」
2人は勝手な妄想で本物より大きな存在にしてるようだ。
それを真昼と煙寿は苦笑いで受けて止めた。
それにしても、なぜ真昼はこのタイミングでSNSを開いたのだろうか。