男の娘と天使です
自宅のマンションに着くと急いで304号室を目指して走った。
この時、私は目を輝かせもうすぐ会えるあの人のところに向かっている。
会いたい。私の天使に。
そう思って走っていると、私の部屋から大きな輝きを感じ取った。
「あぁ、待っててね。私の天使」
後少しのところで私はそう言うとドアに走って行った。
そしてすぐに鍵を取り出してドアを開けると、13歳の子供が18歳の私めがけて飛び込んできた。
「おかえり!」
上に乗った状態でその男の子が笑顔で迎えてくれた。
それに私も笑顔で返した。
「ただいま!」
中に入って私は着たままの制服の上着をこの子に見せた。
「うわぁ!それって僕と同じ星零の制服じゃん!」
「やっぱり気づくよね!」
「そりゃそうだよ!入隊から毎日見てたもん!」
ここで笑顔だった男の子は目を閉じた微笑み顔でそっと言った。
「今の僕にそれを着る資格はない。でも、僕を拾って男の娘として目覚めさしてくれたエンジュには感謝してるんだ。そんな君がそれを着てくれてありがとう」
いつもならこんな話をしないのに今日はしてくれた。
いつもの子供っぽい彼とのギャップでかなり萌える。
だから、私はそっと抱きしめて耳元で言った。
「いや、天使が居たから私は自分の本性を出してこの仕事を目指せたんだよ。こちらこそありがとう。大好きだよ!私の天使!」
そこで私は可愛い服を着る天使にキスをした。
気持ち悪いと思われるかもしれないけど、可愛いは正義なんだよ!
ちなみに、さっきの輝きという表現は彼の能力によるものだ。
ここで言ったのはいつもように彼が不意打ちで攻撃をしてきたからだ。
「おっ、やっぱり最近は当たらないね」
「警戒してるからね。光の刃なんて反転すれば散るんだからもう当たらないよ」
抱きついてても私達はいつもこうしてお互いに腕が鈍らないように攻撃を仕掛けるようにしている。
元々私を鍛えてくれていたのはこの天使なんだ。
光の操作の能力はかなり習得難易度が高いので発症しても使える人は少ない。
それをこの天使は完璧に扱いこなして大抵の相手に負けない強さを得ている。
そんな彼に奇跡的な出会えた私は今や恋人と師弟の関係で一緒に暮らしている。
「私は幸せ者だね。自分の素晴らしさに気づけた。それに今じゃ幸せまで手に入れてるんだから」
しみじみとしてそう言っていると、彼が光を足にを纏って足を振り上げて蹴ろうとした。
「その自覚は素晴らしい!でも、この家にいる間は癒しの補給と警戒を同時に維持しろと言ってるよ!さもなくば手加減なしの一撃でその体をボロボロにしてやる!」
この空気を一瞬で断ち切るその一撃は、まるで落雷の如き衝撃を与えた。
私はいつも油断するとこれを見せつけられる。
そして、それから一瞬の油断が命取りの仕事を選んだことも痛感させられる。
こんな隙は私にあっても小さな天使には無い。
いつも隙をついても油断してないからかすりもしない。
これが経験の差なのだと思わざるを得ない。
彼は振り上げた足を下ろすと私に説教を始めた。
「今は師匠として言わしてもらう。あそこは緩いように見えて、実際はキツい職場だ。発症したての異能者は力加減を知らずに能力をぶっ放すケースが多い。そんな奴の前だけ気を張ればいいわけじゃ無い。内部の奴が裏切って襲ってくる場合もあるから油断は命取りになる。より一層の警戒をしないと今後は生き残れないかも知れない。敵意にはすぐに反応しろ。遅れれば死ぬと思え。だから、今後は警戒が緩めば攻撃くると考えとけ。分かったら夕飯の買い出しに行くぞ」
彼はまくし立てるように説教と伝えたいことを言い終えるとさっさと出かける準備を始めた。
「あっ、はい」
私は少しだけ彼の二面?三面?の顔に戸惑いつつ上着を脱いで出かける支度を始めた。
買い出しはいつも私がしてるんだけど、今日は珍しく彼も付いてくる。
てか、積極的に今日は前を歩いてる。
「あっ、そっか。あたしは異能省に入ったからカードが証明になるんだっけ」
「そうだよ。それがあるから今日は僕も出ることにしたんだ。疑われても隊員がそばにいればどうにかなるからね」
やっぱり年下なのに大人みたいだ。
しかも、これで最初の星零に選ばれた元精鋭なのだから下手なことも言えない。
怒らせればまた蹴りが目の前を通過するよ。
「さて、今夜は何かな?」
「今夜はハンバーグにします。天使は育ち盛りだからね」
この人といると日常も油断できない。
今みたいな質問にはすぐに答えないと師匠モードになって腹パンをされる可能性があるから。
でも、本当にこの人のお陰で強くなれたから感謝してる。
そんなことを考えながら歩いていると物音がした。
「うわぁぁぁぁぁ!」
次の瞬間には男性の叫び声が響いた。
それで私は嫌な予感がしたので聞いてみることにした。
「えっと今のは?」
「路地裏に未遂だけど異能犯罪者がいたよ。おそらく能力を使ったひったくりだね」
一瞬横を通っただけで気づくなんて本当に師匠はやばい人だよ。
しかもいつの間にか光の刃を投げてるなんて、それに気づけない私はまだまだだ。
そうやって反省してるうちにスーパーに到着した。
入ってから15分で2人は買い物袋を手にして出てきた。
この時は2人して恋人状態なので平和に終わった。
ただ、師匠兼恋人の天使の強さにまだ追いつけないと劣等感を抱いてしまったので完全に平和ではない。
それでも異能省神奈川支部の誰よりも幸せなのは確かだ。
今日は色々な経験を身に染みさせて、眠るまで普通に警戒して過ごして終わった。