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攻略難易度が高すぎて挫けそうです  作者: 灯月 更夜
第三章 鳴らないアルペジオ
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3-3 おしのびというやつ(1)

 リリはまずそそくさと大聖堂を飛び出すと、どんどんとやってくる人の波を避けて、横目に見えている庭の方へと飛び込んだ。

 今日はもうオサボリ決定だ。


「ふ、ふくっ。ふくくっ。傑作だにゃ。リリが蒙昧なふりをしてるだけとか、酷い仕打ちを策謀したとか、何をどうしたらそうなるにゃッ」

 ふくっ。ふくくくっ、と今なお笑いやまずに、いつも以上にベチベチと振り回されるキリエの尻尾が、容赦なくリリを叩く。

「ちょっと、キリエさん。さっきから笑いすぎじゃない?」

「褒めてるんだニャ。リリ、やれば出来る子にゃ。リリがキレたら悪質なのと、普段なぁんにも考えてないのは、ちゃんと皆に伝わったにゃ」

 自分で言いながらまた自分の言葉に、ぷすぷすと笑い声をあげるキリエに、ハァ、と仕方のなさそうなため息をあげた。

 まったく、人の気も知らないで。呑気なんだから。

「あーもー、ぜーんぶ面倒くさい! こういう時はパァっと、楽しく好きなことをやりましょう、キリエさん!」

「リリ、ついさっきゼノに大人しくしているようにとか言われてたにゃ」

「いいんです、キリエさん。これはとっても面倒くさいことを言うアンブロシアへの制裁であり、とっても面倒くさいことを押し付けたスレンおじ様への意趣返しなんです!」


 とはいえ聖堂内では見つかる可能性もある。離れた方が良いだろうか。

 そう人気のない庭をふらふらっとあても無く歩いたところで、奥に大聖堂と似た造りの、しかし一回り小さな聖堂と、付属の四角い建物が目に入った。あれが小聖堂と、国教庁とかいう教会関連のお役所が入っている建物だろうか。だったらゼノは今そちらにいるはず。

「よし、あっちは避けよう」

「リリは一体何処に行くつもりにゃ?」

 いっそミサが始まるまでゼノの傍にいて、ミサが始まる頃に一緒に戻れば万事解決。なんてのが、今のリリの一番真っ当な選択肢なんだろう。でも正直、今日はもうあそこに戻る気がちっともしない。このままどこかでオサボリしようと思う。

 そのためには。

「まずはこの一目で身バレしそうな格好をどうにかしないと……」


「あれ、お嬢様?」

 そこに実に良いタイミングで、聞き覚えのある声がしたものだから、ペラリとベールを後ろに掻き揚げて振り返る。

 見ると、大きな籠を抱えたハルと教会の下働きの恰好をした女性が一人、こちらに向かって来ていた。

「あら、ハル? どうして教会に?」

「旦那様から急ぎの仕事があるとのご連絡があって、お屋敷の針子は総動員です。お嬢様こそ、こんなところでどうなさったんですか?」

 ハルが籠を下げてくれたので中を見てみると、手のひらサイズの色とりどりの小袋が沢山詰まっていた。何に使うのかは知らないが、父とゼノが話していた授与品とやらを入れる袋だろうか。

「ちょっと訳あって、身を隠そうとしているところなの。取りあえずこの恰好をなんとかしたいんだけど、ドレスを隠せる布か何か持ってない?」

「うーん……手持ちのものは全部裁断してしまいました」

 特に理由も聞かずに呑気に首を傾げるハルの隣で、「あの」と、下働きの恰好のお姉さんが口を開いた。

「クインツ騎士爵家の長女ジーナと申します。神聖なるご家門に連なる高貴なる御方とお見受けいたしますが、私が口を挟むことをお許しを戴けますでしょうか」

「あら。クインツ……ということは、ハルのお姉様?」

「あ、そうだ。お嬢様、こちら、姉のジーナです。お姉様、こちらは私がお仕えしているアリストフォーゼ辺境伯家のリリお嬢様です。姉は夫が大聖堂付の護衛騎士なので、その縁で時折教会の手伝いをしているんですよ。こう見えて、恐妻(きょうさい)です」

 そう軽々しい口を利くハルに、「貴女、そんな調子で大丈夫なの?」と、ジーナは顔を歪めた。でも大丈夫、問題ない。リリはちっとも気にしない。

「ハルには刺繍や針仕事でとっても良いお仕事をしてもらっているわ」

「それは大変恐れ入ります」

「それで、ジーナ。何かいい案でもありましたか?」

「なくも……ないかとは思ったのですが、ただ、よもや教公猊下の姫君にお勧めするには少々忍びなくも……」

「ちっとも構わないわよ?」

 そう首を傾げるリリに、ジーナは少し苦笑を溢して、チラリとハルを見やった。

 この妹の軽口が許されるわけだ、と、納得したのかもしれない。

「多少周囲の目を誤魔化す程度で宜しければ、教会に、シスター達が外出する際に用いる外套の類がございます。そちらなど如何でしょう」

「なるほど! それって、私が借りても大丈夫かしら?」

「この世界のありとあらゆる教会とそれに属する物は、姫様の所有物でございます」

 う、うん。まぁそういうことになるのか? なんかスケールが大きすぎてピンとこないけど、つまり外套くらい貸してくれるよ、ってことかな。

「宜しければ私が借りて参りましょうか?」

「お願いしますわ」

 よし。取りあえずこれでドレスの方は何とかなるか。

 とはいえこのままふらふら庭を散策していたら、ドレスを誤魔化したところで誰かしらに見つかるだろうし、かといって忙しい教会に面倒をかけて、どこかの建物の部屋を借りるのも気が引ける。

 さて。これからどうしよう?

 家に帰る? うーん。今帰ったらぜったいユリー達にどやされるよね……。

 かといって他に行く場所も無いし。

 ってことはもう、選択肢は一つしかないよね? ないですよね? ていうかこれはもう、乙女ゲーム定番のイベントですよね?!


  ①聖堂内で息をひそめる。

  ②家に帰る。

  ③おしのびで町を散策する。


 はい、③一択ですよね!

 ビバ、町! ビバ、おしのび! 何それ、楽しすぎる! よし、町に行こう!


「ハルは、外に辻馬車が並んでるはずだから、一つ、小聖堂の前の方に呼んでもらえる?」

「辻馬車ですか? お嬢様、ミサにはご参加なされないんですか?」

「訳あって欠席することになったのよ」

「お屋敷にお戻りになるのでしたら、家の馬車をお呼びしますよ? 何なら、教会には旦那様が日常お使いの馬車もあるはずですから……」

「それは駄目!」

「はい?」

「えーっと、ほら、そろそろ国王様もいらっしゃるし、家紋のついた馬車で家に引き返す所なんて見られたらよくないでしょう? ひっそりこっそり抜け出さないと!」

「あぁ。お嬢様ほどのご家紋を背負うと、色々と気にしないといけなくて大変なのですね」

 それはまったく同意見だけど、呆気なく丸め込まれてくれるハルはハルで、すごく心配になる。まぁ、都合がいいから何も言わないけどさ。

「ではお呼びしてまいります」

 そう小聖堂の脇で別れてからぱっとハルが飛んでゆくのと同時に、聖堂の中の方に外套を取りに行っていたジーナが戻ってきた。

 ジーナが持ってきたのは、浅紫の裏地の着いた長い黒のクロークで、リリの背丈にぴったりのものを選んでくれたらしく、肩に羽織ると、ちょうど(くるぶし)ほどの丈だった。

 少し厚手の生地で、羽織って首元でリボンを結べばいいというだけの簡単な構造をしており、後ろには大きなフードが付いているのが、少し可愛い。

 生憎と今日のリリのドレスは、ガウンの裾がだらりと長くて地面に少し余るほどだったため、綺麗には隠れてない。長い袖も、折角クロークの両脇に手を出すための開口部があるのに、邪魔だ。一応目くらましにはなったけど。うん、よし。あとでガウンは脱ぎ捨てよう。

 そうしている内にも、ハルが辻馬車を連れて戻って来たので、ご苦労様、と呼びかけて、キリエを抱きかかえたまま、御者の開けてくれた扉から乗り込んだ。


「行き先はお屋敷で宜しかったでしょうか」

 少し緊張した面差しでそう語りかける御者に、よもやハルの目の前で『いえ、町の方に!』とかは言えないので、「ええ」と頷いておく。

「ではハル。私は先に戻りますね。ゼノに会ったら、『リリの欠席はおじ様方のせいです』と伝えておいてね」

「はい。あの、はい?」

 よもやリリの帰宅が独断だとは思っていなかったのだろう。キョトンとした顔をしていたけれど、馬車に乗ってしまえばもうこちらが勝ちだ。


「じゃあ。お夕飯までには帰りまーす」


 そうひらひらっと手を振るリリに、「え。えっ。お嬢様?!」と素っ頓狂なハルの声がしていた気がしたけれど、ガラガラと動き出した馬車に追いつけるはずも無く。

 そうしてリリは、無事に大聖堂を脱出したのである。




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