2-4 綿花祭(1)
恋愛ゲームにおいて、攻略対象の好感度を上げるには、とにかくすべてのイベントというイベントにおいて攻略対象、ないし攻略対象が現れそうな場所を選択しまくるのが何よりのセオリーだ。
正直質の良くないゲームだと、『え、ちょっとヒロイン、いい加減に同じ場所行き過ぎ。なのに“偶然ですね”って、それでいいの?!』と失笑する破目になるのだが、当然現実でこれをやったら失笑どころでは済まされないだろうと思う。
世間はそれを、ストーカーという。
それでも目下、リリ・クラウベル・アリストフォーゼにとって、放課後はすべて生徒会室一択であり、イベントにおいても勇気を振り絞って攻略対象を選択肢に選ぶこと、ないし攻略対象が現れそうなポイント<生徒会室>を選択することが必須なのは百も承知している。
しているが。
「でも休日に仕事って無いわ! 休日は自由に過ごすべきだと思うのよ!」
そうぐっ、と意気込んで一つの部屋の前に佇んだその足元で、つい先程まで散々にリリをなじっていたキリエが、深い深いため息を吐いた。
「リリ、やる気あるにゃ?」
「あるわよ。でも折角のお休み。折角の町に出られるチャンスに、選択肢①生徒会室だけはない。絶対にない」
キリエだって、相変わらず部屋でゴロゴロして一日過ごすのと、町で美味しいものを買ってもらうのと、どっちがいい? なんて言ったら、キリエもピタリと口を噤んで大人しくお座り体制で目の前の扉を見た。
廊下に並んだ何の変哲もない汎用性の高い扉。
一体どの扉を叩くのかは、きっとゲームにおいてとても重要なことだけれど、リリが選んだ扉はこれ。
①二階の中央(攻略対象の部屋)……であろうはずも無く。
「エマさーん。今いいですかー?」
コンコンと叩いて呼びかけた選択肢④一階南棟の一〇四号室に、間もなく、落ち着いた小ぶりなフリルのあしらわれた部屋着にショールを羽織ったエマが顔を出した。
レアスチル、頂きました。
「あら、こんばんわ、リリ様。どうしました?」
珍しいですね、なんて言いながら部屋に招こうとしてくれたエマには、すぐ済むからここで大丈夫、と留める。
「綿花祭の日のことなんですが……」
良く考えたら町に出かけることしか頭に無くて、自分から友人を買い物に誘うなんて、ほとんど人生初体験じゃないのだろうか。
あれ。今更だけど、これ大丈夫? と、いきなり不安になったリリが口ごもると、すかさずエマが、ニコリと微笑んで言葉を引き継いだ。
「もしかして、リリ様は町に行かれるんですか?」
「え、っと……そうしようかなと」
「私も町に行きたかったんです。宜しかったら、ご一緒致しませんか?」
くぅ。もうエマちゃん、ハグして撫でまわしてやりたい。
なんていい子。なんていい子すぎるんだ!
「よろこんでっ!」
学生の外出が許可されいるといっても、このカレッジに在籍する学生は大半が貴族階級。それも、それなりの家柄の子女子息だ。だから学校側も、一人きりでの外出は許可できず、必ず二名以上。可能ならば女子だけでの外出も避けて欲しいというのが本音で、届出も二名以上の連名で出さねばならない決まりがある。
だからここでエマに断られたら、他に頼る術など思いつかないリリは、前期の花祭りの時同様、外出する楽しそうな学生を横目に、部屋に引き籠るしかなかった。
それを思うと、エマ様はもはや救世主である。
「あの、でも私とで良かった? ノマ様とか、他にお約束はなかった?」
「ええ、むしろ私からお声を掛けようかと思っていたところだったので、切り出していただいて、私も安心してお誘いできました。それに……」
クスと笑ったエマは、少しばかり斜め向かいの姉の部屋を見やると、肩をすくめて。
「前期はお姉様に付き合ったのですが、荷物持ちにされて大変だったんです。リリ様のおかげで、断る理由ができました」
なるほど。人助けにもなったわけか、と、リリも肩をすくめてしまった。
ノマ様には悪いけれど、そういうことなら遠慮なくエマと出かけさせてもらうことにしよう。
「じゃあ、エマ。そういうことで。詳細はまた後日に」
「学生の外出申請関連は私が受付を担当していますから、出しておきますね」
うむ。誰にも知られずにするっと申請ができてしまうだなんて、すばらしい。
生徒会入って良かった。
そうニコニコしながら手を振って扉の前を離れたら。
「今多分、ろくでもない事考えてるにゃ」
そう突っ込んだお猫様のさめざめとした声色に、聞こえなかったふりをした。
【キリエさんの攻略ノート】
①リリをたしなめて攻略対象に誘導する。
②大人しく目をつむってリリと町へ行く。
③目いっぱい媚を売って美味しい物をご馳走してもらう。
>リリ、ここは慎重に選ぶべきだにゃぁぁ(よだれ)。




