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攻略難易度が高すぎて挫けそうです  作者: 灯月 更夜
第二章 好感度カプリチオーソ
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2-3 綿花即興曲(1)

「わったー、わったー、わったわたー。もっふー、もっふー、もっふもふー♪」

 ルンルンと声を弾ませながら、日課になって来た生徒会の仕事を黙々とこなす。

「もっふーふもったーらわっさーわさー。わっさーさわったーらもっさーもさー♪」

 口ずさんでいるのはたった今思いついた即興曲で、テイラン卿の趣味か、それともエマの心遣いか、生徒会書記室に来たら机に綿花(わたばな)一輪(いちりん)()しが置かれていたから、ついそのもふり具合を(たた)えたくなって作った讃歌(さんか)だ。

 綿花というのは、綿月(わたづき)と名するだけあって、この時期ドレッセン王国の大半の地で芽吹く、白くてふわふわした綿(わた)みたいな花をつける植物の事だ。

 綿月の始まる前後から芽吹きだして、大体綿月の半ば、十五日ごろに、一斉にタンポポの綿毛みたいにふわふわと風に乗って舞い出す。

 この国の名物の一つでもあり、地面に降り積もった大量の綿花のモコモコ具合に感極まった子供が、勢い余ってダイブして堅い地面で怪我をする、なんて事件は毎年各地で頻発する。

 当然、リリも経験済みだ(しかも過去三回)。

 ぱっと見、大きな綿の実みたいな外観だけど、実際は風に舞うくらい軽くてスカスカな、タンポポの綿毛に近いものだ。

 当然、人間一人の体重を支えてくれるほどの弾力性があるはずがない。

 えぇ。ないですとも。

 知ってるけど、見たら飛び込みたくなるのだ。

 仕方がないじゃないか。

「だってもっふもっふなんだもの~♪」

 ふんふふん、と第一楽章を切りあげ、よし! と、先だっての会議で副議長が筆記した決定内容の清書を終えた紙を掲げてみたところで、じぃーっ、と扉に肩を預けてこちらを見つめる生徒会長様の冷たい視線に気が付いて、「きゃひぃ!」と情けない悲鳴を上げてしまった。

「ッ、でんっ、かっ! いつから扉っ」

「作業効率が上がるのであれば、君がこの部屋で何をしていて、何を歌っていようが一向に構わないが……書記室の扉は案外薄いことを、知っているか?」

「わふっ!」

 何ですって、と見やった先で、思いがけず頬が真っ赤に染まった。

 どうしよう……王子様の後ろでどん引いた顔をしている生徒会役員諸君の顔が目に浮かぶようだ。

 うそだ。そんなに響いてた? いくら扉が薄いったって、隣の部屋だぞ? しかもあのだだっ広い生徒会室に、本当に歌声が響いていた? そんなまさか。

「いやいや、まさかっ」

「“わさったらもさる”、というのは、どういう状況だ?」

「……」

 うん。聞こえてたんだね。反省します。

 そう肩をすくめて反省していたら、クスリとかすかな笑い声みたいなものを聞いた気がして、チラリと視線をあげた。

 いやまさか。この人がこんなくだらないことで笑うはずはないけれど。

「君はあれだな。小さな頃、綿花の山に飛び込んで大怪我をしたクチだな」

「……」

 えぇえぇ。否定しませんとも。それはもう、盛大に飛び込みましたとも。

 一度はスオウの目の前で飛び込んで、小さくてかわいかった頃のスオウを真っ青にさせて慌てふためかせたこともある。

 うむ。若かった……。

「安心しろ。他の役員は皆、下の会議室だ。君の独り言は私しか聞いていない」

「それを早く言ってください!」

 羞恥(しゅうち)で死ぬところだったじゃないか、と安堵のため息を吐く。

「書類は?」

「おかげさまで“効率よく”終わりましたよ」

 皮肉のつもりでそうズイと仕上がったばかりの清書の書類を突き出したら、ツカツカと部屋に入ってきたユーシスが早速書類を取り上げて内容を確認しはじめた。

 自信満々に突き出しては見たけれど、不備とかなかっただろうか? まだ確認してないんだけど、本当に大丈夫だろうか?

 そうテスト結果を待つ子供みたいにドキドキしながら待っていたら。

「よくできている」

 おもむろに……それはもう唐突に、くしゃっ、と頭を撫でまわされたから、ビックリして目を見開いてしまった。


 何? 何だこれ?


「……」

 ふっ、と微笑んだ無駄に端正な面差しに、ポカンとして。

「引き続き議事録用の清書も頼む」

 そう颯爽と背を向けて生徒会室に戻ってゆく王子様に。

 その無駄に様になった後ろ姿に、空気を食んだまま硬直した。

 ぐちゃぐちゃにかき乱された髪が無駄にふわふわと頬を撫でて。

 この目に移った光景が、非現実的に脳裏に焼き付いて。

 じんわりと感じた熱に、急激に頬に朱が灯ったところで、ようやく見開いていた目が、パチリ。パチリ、と瞬いた。


 何、今の。

 何だ、今の。

 もしかして、レアスチルゲットした?

 成功報酬?

 そういうこと?

 いや、でももっふもふ歌ってたらもっさもさゲットって。

「…………」

 あれ。これ絶対変だよね?

 雑用ポイントでご褒美って、これ、まさかの雑用……いや、調教ルート?

 ちょっ、キリエさん。どこ? 教えてくれない、キリエさん!

 これ大丈夫? ねぇ、大丈夫なの?!

 もしかして。

 もしかしなくても、まさか。



「わっさわさか?! わっさわさが駄目だったんですかッ、殿下!」


 思わずそう叫んだリリに、隣の部屋(でんか)からの返答はなかった。





【キリエさんの攻略ノート】

①まじめに仕事をこなして好感度あっぷ! >恋愛(ハッピー)ルートはこれ一択にゃ

②ふざけた歌で効率度あっぷ! >ここで雑用(バッド)ルート選択とか有り得ないにゃ……

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