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第9話 ダイアウルフ

「何だこいつ!?」


 リアーロは、ポラが召喚した金色の生物をじっと観察する。


 それは、卵だ……。金色の卵だった。どっからどう見ても卵だ……。大人が抱えて持つほどの大きさだ。


 リアーロは混乱していた。間違いなく先程の鳴き声は卵から聞こえてきた。


「クーちゃん。ご飯だよ~。お食べ~」


 ポラが指示すると金の卵は「ピュイ!」と鳴き声を上げて自力でコロコロと転がっていった。


 そして、オークの胸の上に乗っかった。


 リアーロは不思議な生物についてい色々聞きたいことが、いくつもあったが、何が起こるのか目が離せないでいた。


「ピュイー!」


 卵がひときわ大きく鳴くと乗っかっていたオークが砂の城ように崩れキラキラと光る何かに変わって空中に漂っていく。そして、その光を金の卵が吸い取っているようだ。


「おい、ポラ。あれは何だ? あんなの見たことないぞ」


 現在お食事中らしい金の卵を指差しポラにたずねた。


「よくぞ聞いてくれました先生! あれはドラゴ……」


 なにか、言いかけて固まるポラ……。


「えっと……。これは、ミステリーエッグっていうペット用の魔物です! 何が生まれるかわからない不思議な生き物です! 名前はクーゲルブリッツ略してクーちゃんです」


 ドラゴ……。金色……。単独金竜討伐勲章……。


「そうか、ペットのクーちゃんか、無事に生まれるといいな」


 ポラが、とんでもないことをしている事に薄々気がついていたが、リアーロは何かあった時に、知らぬ存ぜぬを通すためポラの言い分に乗っかることにした。 


 オークの死体を食べ終わったクーは、ポラの周りをゴロゴロと転がっている。どうやら懐いているようで、甘えるように足にすり寄ったりしている。とりあえず危険はなさそうだと安心した。


 リアーロは、金の卵のクーを気にしながらもダンジョンの探索に戻ることにした。


 リアーロが先頭を歩き、ポラがあとに続くその後ろをゴロゴロと金の卵が転がりながらついてくる。


「……アレしまったりできないのか?」


 リアーロがそういうとポラは、悩んだ様子で答えた。


「クーちゃんは、魔力がすごいから、送り返すと魔力が厳しいです……。一緒に行動しちゃダメですか?」


 目をうるうるさせてリアーロを見つめるポラ、その後ろではクーが「ピユィィィ」と悲しげに鳴いている。


「はぁ……。わかったよ、こいつが何か聞かれたらちゃんと説明するんだぞ」


 ポラは明るい笑顔になり「はい!」と良い返事をして、クーは「ピュイ♪ ピュイ♪」と楽しげに鳴いた。


 奇妙な仲間が増えた一行は、ダンジョンを歩き回り、この階層の二種類目の魔物と遭遇した。


 グルルルル! その魔物は、唸り声を上げながら一定の距離を取る。その距離を保ったまま円を書くようにゆっくりと二人の周りを回る。


「ダイアウルフですね」


 ポラは、今にも飛びかかってきそうな灰色毛皮の狼を見る。四足状態でも背丈は腰よりも高く、体長は人の大きさを超えるほど大きな狼だ。爪は鋭く牙は長い、革鎧ぐらいなら引き裂いてしまいそうだ。大きくてふわふわな尻尾をゆらゆらと揺らしている。


「そうだ、素材部分は牙と尻尾だ。動きが素早いし、体が柔らかいから思ったより回避するぞ注意し……ろ……」


 ダイアウルフは素早い身のこなしが特徴でヒットアンドアウェイを徹底する手強い魔物だ。


 しかし、ポラの前ではその実力も発揮できなかったようだ。


 リアーロが、ダイアウルフの身のこなしを説明している途中で、ダイアウルフの腹の下の地面が槍状に隆起すると、腹に突き刺さり背骨を砕き背中からとび出た。


「ナイス、ポラ。今回の講座は、ダイアウルフの牙の外し方と尻尾の下処理だ」


 リアーロもポラの攻撃に慣れてきたようで、言葉に詰まらずすぐに講座を開始した。


 いつものように処理袋から道具を取り出す。今回使うのはナイフと骨切鋸(ほねきりのこ)だ。


 骨切鋸(ほねきりのこ)は、三角形の金属板の一番長い辺がノコギリ状になっているものだ。刃は、大きく普通の鋸より硬い。大きさは手のひら二つ分ほどで、三角形の広い方の辺に木製の柄があり鉄板と柄がビスで止められている。


「まずは、牙だな。蜘蛛の牙と違ってこいつの牙は顎の骨と一体化しているから根本がない」


 リアーロはナイフで唇を切り落とした後に歯茎を削り取り、牙と顎の骨がよく見えるようにした。そして、骨切鋸を上顎の一番大きな牙がついている顎の骨に当てた。


「牙の根本は切らず顎の骨を縦に切り顎の骨ごと持っていけば買取価格が上がる。牙の根本を切るのは初心者がやりがちなミスだ」


 ギゴギゴ、ギゴギゴ。顎の骨に鋸を引き、根本に顎の骨がついた状態で切り落とした。テンポよく4本の大きな牙を顎の骨ごと切り離した。


 切り取った顎の骨突きの牙を鞄にしまうと腰を伸ばし次の作業へと移る。


「……次は尻尾だな」


 無残な姿になった顔から目を背け、フサフサとしている尻尾を手にとった。


「爪や毛皮も使えそうですか?」


 ポラは、毛皮や爪に目もくれず尻尾に移動した事を疑問に思った。


「こいつの爪は、何層にもなっていて、先が折れると剥がれる仕組みになってるんだ。その特徴のせいで、死後の魔力の通わなくなった爪はペラペラと剥がれてしまうんだ」


 リアーロはそう言うとダイアウルフの爪をひと撫でした。すると表層がずるりとずれて薄い爪がペラリと一枚だけ剥がれた。


「それと、毛皮なんだが、毛皮としても革製品としても人気が絶望的だ。買い取ってくれるところは無い」


 お尻の部分のゴワゴワの毛をつまむようにいじりる、その目はもったいないと言いたげだった。


「だけど尻尾だけは、フサフサしていて、毛も柔らかいから売れる」


「そうなんですか、残念ですね」


 ポラの返事を聞くと、リアーロは、尻尾の根元に鋸を引き、切り落とした。


「この尻尾はこのまま売ってもいいんだが一手間かけると値が上がる」


 尻尾の切り口の皮を少し裏返すように剥がし、骨とつながってる筋をナイフで切っると骨と皮が離れた。


「死後硬直する前が一番骨が抜きやすいから、先にやっておくと買取値段が上がるんだ」


 尻尾の毛皮の端を左手で、露出した骨を右手で握り左右に思いきり引っ張ると、ズルリと骨が抜けた。


「これで、講座は終わりだ」


 ポラは、金の卵のクーが狼を光にして食べるのを見届け、リアーロは骨が抜けた尻尾をカバンにしまった。


 ポラは、リアーロがクーに目もくれずソワソワしながら、あたりを見回しているのが気になったが、第三階層の最後の魔物を求めて探索を始めた。



 ◆


ダンジョン素材採取教本 第1巻


著者ポラ、監修リアーロ


 目次

 第8項 ダイアウルフの牙と尻尾 ……31

 初級 牙の外し方        ……32

 中級 尾の切り取り方      ……33

 上級 尻尾の骨抜き       ……34


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