エピローグ
「ただいまっ!」
真綾さんが明るい笑顔で事務所の玄関をくぐる。
彼女は今日―――釈放されていた。
「おかえりなさい!」
僕と森野さんはクラッカーを鳴らし、それを出迎えた。
「ありがとう二人とも!心の友よ!」
真綾さんは僕と森野さんに抱き付いてきた。
「あ……だ、大丈夫ですよ。当然のことをしたまでですから……」
「貴方がいなくなったら、部が潰れる。そしたらお金が無くなる。それを回避しただけ」
「何でもいい!兎に角ありがとだぞっ!」
「これから先、それは仕事で返して」
森野さんは人差し指と親指をくっつけ、お金のマークを作る。
「分かった!真綾は頑張るぞ!」
珍しく真綾さんがやる気に満ち溢れていた。何とも喜ばしい限りである。
「良かったですね、そう言えば高遠さんも釈放されるんですよね?」
「労役がきつかったのか、暫く入院治療が必要みたいだけどね~。いつか、帰って来るんじゃないかな」
真綾さんが懐かしそうな顔をして、そう言った。
すべてが順調に進んでいた。
何とも甘酸っぱい青春の風景、ここで終われば―――何とも気持ちのいいものなのだが……。
◆
「なぜ、僕の仕事が増えているんです?」
事務所の机に座り作業しながら僕はぼやく。
答えは自明だったのだが、二人に聞かせるためにあえて僕は口に出した。
「だって~信士くんが居ないと、何も出来ないし?」
あれからというもの、真綾さんの僕に対する依存が強くなった。
頼まれごとが増え、それが僕の本業にまで侵食するのは容易だった。
「治そうという気はないんですか!?そのコミュ障なところ!」
「ちょっとずつ、ちょっとずつね?そのうち治すから、信用して?」
にっこり笑顔で答えてはいるが、改善する気は現状まったくのゼロであることは僕にも分かる。
「はぁ……」
「溜息つくなら、うつるから外でして」
「……森野さん、信用ってなんでしょう?」
「金」
「……そうじゃなくて」
「だから君の給与を、上げようと思う」
「へ?」
「ちゃんと働きに応じて支払う額を増やす。それが、信用しているということ、違う?」
「は、はいまあ」
「目に見えない事だからこそ、目に見えるものでしか返せない。ロジック」
森野さんはにやりと笑った。
「……そういえば、森野さん」
「なに?」
「どうしても、一つだけわからないことがあるんですけど……でも、失礼かもしれないから聞かないでいたんですが……」
「……別にいい。今回のボーナス代わりに答えてあげる」
出来ればそのトレードはしたくないが、元々ボーナスに期待していないのでいいか。
「お二人は、その姉妹なんですよね?本当にその、森野さんはお金だけで、真綾さんと付き合っているのですか?わざわざこんな学園まで一緒についてくるなんて、他にも何か理由があったり、とか」
真綾さんはきょとんとした顔を、森野さんは渋い顔をする。
「本当はその、真綾さんのことを……」
「違う」
森野さんは呆れた、というような態度で僕を冷ややかな目で見る。
「お金だけよ。この子に隠れている金銭的価値のために私はいる。それにそんなことで嘘をつけば、この子は気づく、でしょう?」
「だね~」
そう言って二人して、笑う。
金だけだと言い切る関係なのに、それは情だけよりも強そうに、僕の目に映った。
「貴方の尺度で物を計るのはやめること」
「はい、すみませんでした」
でも、森野さんはああは言っているが、目先の金で動くわけではない。「将来の」という括りで僕や真綾さんと付き合っている。そこに有る種の情がある―――と思いたい。
「さあ、それ以上の答えを見つけたければ、もっと働くこと」
「はい!……それじゃあ出かけてきます」
「いってらっしゃい!」
僕は真綾さんの声を背中に受け、外へと飛び出した。
金が全ての金融学校―――金剛寺学園。その中で僕はまだ、駆け出したばかりの新米税務士だ。
これからも金で苦労し、人付き合いで悩むこともあるかもしれない。
―――でも。
僕は今、初めて信用出来る仲間と共に、ここにいる実感があった。
どこまで行けるか分からない。
でも、それを不安には思わない。
僕は僕の進む道に、何一つ揺らぐものがないことを確認しながら、前へと歩き出した。




