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とある個人事業主の税務相談 その4

「ん、誰かな~?」


 竜太郎が部屋から顔を出す。


「あ、僕が出ますから!」


 今、竜太郎に出てこられたら、真綾さんがへそを曲げて帰ってしまうこと請け合いである。

 僕は足早に玄関へと向かう。

 真綾さんは既に部屋の隅で冷蔵庫脇に入る体制で待機していた。


「はい、どちら様でしょうか?」

「今すぐここを開けよ。児島よ」


 ドアの向こうから時代がかった台詞廻しが聞こえて来た。


「あの、児島は今手が離せませんので、ご用件は?」

「今すぐ開けぬと、ただでは済まぬぞ」

「いやそんな横暴な、こちらにも事情というものがありまして……」

「に、逃げるぞ、信士くん!」

「へ?」


 後ろから真綾さんの叫び声を上げる。


「いいから開けんかぁ!」


 その瞬間ドアが凄い勢いで開け放たれた。というか、ドアが吹き飛んだのだ。


「ぶべし!?」


 痛い!ってか重っ!?。僕は飛んできたドアの下敷きになり倒れ込んでしまった。


「何だ、鍵は掛かってないようじゃの。入るぞ」


 いや、絶対掛かってましたよ鍵?


「むぎゅ」


 頭まで埋まった全身ごと、ドア越しに踏んで僕の上を通っていく人物がいた。


「痛い痛いっどいてっ」

「何じゃ、それぐらい我慢せよ。それに対して重くはないぞ、我はな」


 何とかドアの隙間から顔を出し、上の人物を見る。


「え?」


 そこに居たのは美しいフリフリのついた紅い着物ドレスに身を包んだ、でるとこでまくりのすらっとしたモデル体型、身長は僕と同じか、少し高いくらいだろうか?焼けた小麦色の肌をした銀髪碧眼の女性だった。

 この場にえらく場違いな、見た目で外国人だと分かるその容姿と着物のコントラストの違いが妙な色気を醸し出していて思わず息をのむ。恐らく僕と同じ学園生徒なのだろうが、高校生より上の大学生といっても通じるくらいの大人びた雰囲気を兼ね備えていた。しかもこの位置からは黒のTバックがガン見えである。


「何覗いておるのじゃ。その目玉追徴課税でむしりとるぞ?」

「見せてるのそっちですよね!?」


 ふん、と彼女が鼻を鳴らしたかと思うとドアを片手で持ち上げて僕の上からどかしてしまった。何者だこいつ……!?

 もう一度彼女の顔をじっくり見ようとした時、僕の頬を掠めた何かが床に刺さった。


「法皇院ダリア(ほうおういんダリア)じゃ。名刺は取って置け」


 僕のすぐ後ろに刺さっているのは名刺だった。てか名刺って床に刺さるものなのだろうか?

 彼女は僕の横を通り過ぎ、そのままリビングへの扉を開けて入っていってしまう。


「頼もうっ!」


 威勢よく彼女は部屋に入っていく。

 僕は慌ててその後を追った。

 リビングに入ると、何と真綾さんが窓から飛び降りようとしていた。


「な、何しているんですか!?」


 僕は思わず駆け寄り真綾さんを後ろから抱き留める。とても華奢な体で思わず折ってしまうのではないかと力加減に戸惑う。


「あわわわわわあわわあわわわ……」

「何じゃ、真綾ではないか。と、いうことは今回の相手は森野ではなく、お主か」

「な、何の音だい!?今のは……」


 仕事部屋から恐る恐る竜太郎が顔を出す。


「何これ」


 竜太郎は壊れたドアを見て、口を開ける。


「そ、そこの人がぶっ壊しまして……」


 と僕は法皇院ダリアと名乗った人物を指さす。


「え、何このエロビッチねーちゃんが!?……じゃあ慰謝料としてその胸修理代×一万回揉ませて?」


 竜太郎はこの異様な事態でも全く動じていなかった。ある意味大物である。


「エロビッチではないわ!」


 言うが早いか見事な金的蹴りが竜太郎の股間にヒットし、天井まで飛び上がる。


「ぶン殴るぞ貴様」


 殴られた方がマシだろそれ。憐れ竜太郎は床の上で蛙のようにうずくまっている。


「竜太郎様!?」「ひ、酷い!こっちこそ慰謝料を……」「ドアの修理代もですね……」


 部屋から出て来た竜太郎アシスタンツもこの光景を見て抗議の声を上げる。


「黙ってろ小娘共」

「ひ!?」


 尋常ならざる殺気が法皇院ダリアから発せられて、アシスタンツは黙って後ずさるしかなかった。正に蛇……いや、虎に睨まれた何とやらである。


「ふん、勝手にしろ。それ以上に税金を頂いていくだけじゃ」


 僕は抱えている真綾さんにそっと耳打ちする。


「……誰なんですか、あの人」

「に~げ~る~ぞ~!」

「あ、危ないですから暴れないで下さいよ!」

「あいつはっ……あいつはこの学園最悪の学園税務官なんだっ!」

「学園……税務官?」

「随分とご挨拶じゃな、真綾よ。知らぬ中でもあるまいに」

「うぐっ……」


 真綾さんは怯えたように涙目で頭を抱えて縮こまってしまった。これでは全く話にならない。


「相変わらずのポンコツっぷりじゃのう。では我が自ら名乗ろう。法皇院ダリア、学園の税務を取り仕切り、部活動から税金を徴収する役目を担うのが我『学園税務官』じゃ。今日は、税務調査の目的で来訪した。宜しく頼むぞ」


 こんなでたらめな破壊力の暴力人間が、学園税務官なのかと僕は驚きを隠せなかった。一応真綾さんは面識があるみたいだが、何か、仕事以外にも関係があるのだろうか?


「じゃあ……貴方が今回の税務調査を担当する?」

「その通りじゃ、では早速始めようか」

「え、で、でも通常、税務調査は事前に来訪を通知するようにと……」

「したぞ?一週間前にの。まさか貴様、知らなかったのか?」


 初耳である。というか最初に竜太郎はこれを教えるべきだったと思うのだが。僕は恨みがましい目で竜太郎を見るが、涅槃に旅立っている彼は何も答えようとはしなかった。


「ところで、お主は何者じゃ?児島竜太郎……はここに寝ておるようじゃし」

「あ、ぼ、僕は本日から真宮寺真綾税務士事務所にお世話になっております。葉山信士、と申します」

「ふん、挨拶出来るだけ、そこの豚女よりマシじゃな。引き篭もって飯を食むだけの置物よりはの」


 どうやら、真綾さんに対して何かしらの悪意を持っているような感じが言葉の端々から伝わって来る。二人には過去に、どんな因縁があったんだろう?


「さて、紹介は終わった。では税務調査を開始する」

「……あの~」

「何じゃ小僧」

「そうは言いましても、依頼人もその、倒れていますし、こちらもまだ準備が出来ていませんので……」


 この状態で始められても困る。現在役立たずを二名抱えた状態で僕一人、就任一日目で税務官を相手にして、果たして大丈夫なものだろうか?


「口答えする気か」


 法皇院ダリアに思い切り睨みつけられ、威圧される。


「む、無闇な暴力は税務調査に置いては、マイナスかと」

「……ほう、良く言うわ。だがそれは『まともな納税者』と『まともな税務士』だけが口にしていい言葉じゃ!お前らのようなルールを守らんゴミに何しようがこちらの勝手じゃろう?」


横暴すぎる。何様のつもりだろう。


「貴様今何と言った!?」


 しまった。つい思ったことが口をついて出ていたようだ。


「おい、真の字。いつまでそうしておる。このネギ坊主の監督者はお前じゃろうが。ちゃんと躾けをせい」

「……真綾……だもん」


 後ろ向きで縮こまったまま、真綾さんは涙声で呟くようにそれだけ返事をする。


「ほんっっとうにうざいなお主はッ!」


 この人、沸点低いなあ。


「まだぬかすかネギ坊主!」

「あ、いえいえいえいえいえいえっ滅相もございません!」


 またしても口に出していたようだ。命が惜しければ口は慎んだ方がよさそうだ。


「もういい。では単刀直入にとっとと済ませようではないか。この男、大分儲かっているようなので、税金貰うことにした。とっとと払え」


 そう言うと彼女は胸の谷間から出した算盤を弾き、こちらに見せる。


「……あの、まだ税務調査も終わっていませんが」

「大体こんなもんじゃ!払うもん払ってとっとと終わらせとけばよい!」


……横暴過ぎて、何かちょっと、腹が立ってきていた。命は惜しい、惜しいのだが、それ以上に僕には大事なものがあった。


「一言、宜しいでしょうか?」

「……命が惜しくないならな」

「……そりゃあ当然、惜しいですけど、そういう問題じゃありませんから」

「……ほう、申してみよ」

 値踏みするかのような視線。この学園へ来て、何度となく受けたその視線のおかげか、逆に覚悟は決まった。


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