第54話【盗賊姫】アリシア
教授とラックさんが見回りに行った。
本当は僕と教授が行く予定だったのだけど、リリアンさんが微笑んで
「仕事とプライベートは分けられるんですか?」
とエンさんとラックさんに微笑んでいたので見回りと待機を逆にした。
そんなリリアンさんは何やら紙束をめくっている。
「あ、やっぱりありました。
男達は初犯のようですけど、彼女はお尋ね者です。
【盗賊姫】ことアリシア。
北の国ノースの出身のハーフドワーフ。
容姿の特徴が一致してますし、手口からして多分そうだと思います。」
その手配書、手口まで書いてあるんですか?
「はい、不意打ちで背中を斬りつけ金品を要求して回復魔法と催眠魔法を使用して去る手口です。」
人的被害は出さないようにしてるんだな。
「そうさ、アタイがアリシアさ。」
「ん?アリシア?まさか、アリシア・アーツか?」
「・・・そんな女は知らん。」
アリシア・アーツさんの性別についてエンさんは言っていない。しかし、盗賊姫はアリシア・アーツなる人物が女性だと言った。なので彼女はその人物の事を知っているのだろう。
「俺がそく・・・今の職務に着く前、ノースの国に行った事があって、その時にある貴族の娘が・・・まあ、妾の子なんだが、行方不明になったという話があった。そんで、帝国が建国された頃、同盟国に捜索願が出された。」
エンさん今、うっかり即位って言いかけたな。
「まさか、盗賊に身を落としていたとはな・・・」
エンさんが困惑している。
「嬢ちゃんには前にも言ったが・・・この国以外は貴族の娘でも罪を犯せば犯罪奴隷になる場合もある。」
「エンさん、ノースの国に引き渡しますか?」
この国には犯罪奴隷も含めて奴隷制度がない。帝国の法律は転生者達の現代世界の法律に近いので、この女盗賊の場合、禁固刑となる。
(建国に転生者が一枚噛んでるな・・・。)
「一先ず帝国で取り調べてからだな。帝国では被害の報告がなかったから直ぐに引き渡すことになる筈だ。うーん・・・でもな・・・。」
エンさんの今の反応からすると、ノースに引き渡すと犯罪奴隷として扱われる可能性の方が高い様だ。
まだ、手配書を見ているリリアンさん、
「あ、ALIVE Onlyって書いてありますね。」
と言った。
ノースの貴族様の計らいかな?
たまにギルドに手配書が貼り出されているが、手配書は大抵生死を問わないと書いてある。
「犯罪奴隷にでも何でもしやがれ!あんなクソみたいな実家に帰るよりはマシだ。」
「そんなこと言ってはダメですよ?家族は居るんですよね?」
教授と周囲の見回りに行っていたラックさんが戻ってきた様だ。
「お前には関係ないだろ?」
「関係ないですよ。でも私は物心ついたには両親がいなかったので・・・」
「・・・ったく、調子狂うぜ。・・・オッさん、クソ親父は元気にしてんのか?それだけは教えてくれ!」
「オッさん・・・まだそんな歳じゃないんだが・・・探索願いの事は知っているが、お前の父親は知らないぞ?貴族の娘って事と名前と容姿だけ聞いただけだしな。」
「アンタ、皇帝だろ?式典とかで見たことあるぞ。
ノースの国王は元気にしてっかって聞いてんだよ!」
「俺は皇帝なんかじゃねーよ。
冒険者エン・シュウリツ。よく似た別人だ。」
彼女は本当にお姫様だった。
それと、エンさん。もう隠す意味ありますか?




