第38話 冒険者に絡まれるリターン
さて、次の仕事の話をしよう。
「指名依頼があるとの事ですが・・・」
「あぁ、話は女房から聞いているな?
依頼主は魔法学園の理事長。内容は遺跡の調査隊の護衛だ。報酬は応相談になってるんだが・・・」
愛称はウィズなのか。
「ですが、何です?」
「いやぁ・・・実はな・・・」
ギルドマスターが何かを言い淀んでいる。
「何ですか?まさか指名依頼が他にあるとかですか?」
と嬉しそうにお姉ちゃんが言った。
「あぁ、そのまさかだ。皇帝陛下から依頼があってな・・・。向かう場所は同じなんだ。本来ならあの方を優先して欲しいが・・・」
あのお方って皇帝陛下か。
隣にいるお姉ちゃんの表情を見てみた。
・・・お姉ちゃん、お願いだから嫌そうな顔をしないで・・・。
普通なら権力のある人を優先するんだろうけれど、あのお方はそういうのは嫌うと思ので、僕はこう言った。
「エンさんの性格からして自分を優先しろとは言わないのでは?」
「いやぁ、そうなんだが・・・」
「指名されたので受けます。(向かう場所が同じなら両方受けでも構いませんよね?)」
お姉ちゃんは初めての依頼でやる気はあるみたいだ。(あのお方の依頼は嫌そうにしてるけど、頼られて悪い気はしてないみたいだ。)
「本当にいいのか?その分、難易度は上がるんだぞ?」
護衛対象が増える。しかもこの国の要人が1人増えるのだから当たり前だ。
「サクッと話を聞きに行っちゃいましょう。」
そうだね。
エンさんには悪いけど、さっさと済ましてララさんとリリさんと話をしたい。
指名依頼は大切だけど、折角できたこの世界の友人を大切にしないとね。
「そういえば、あの方なんだが、今日は屋敷にいないそうだ。用があるらしくてな。明日の夕方には帰ってくるらしい。」
なんだ、いないのか。
「解りました。明日の夕方に依頼内容の確認に伺う事にします。」
とお姉ちゃん
こうして明日の放課後の予定は決まった。
「これから先、2人で行動するならパーティを組んどけ。組んでおくと割といい事もあるぞ。」
僕達は頷いて失礼しますと言ってギルマスの部屋を後にした。
受付に戻り依頼の掲示板を見たが、条件が3人以上のパーティでしか受けられないものしか残っていなかった。
こればかりは仕方がない。
パーティを組まないと受注できないものもあるのか。
「ギルドマスターの言った通り2人で申請だけでもしておきましょう」
「そうだね、ラックさん。」
相変わらずリリアンさんの所は空いているのでそこでパーティの申請をした。
「リーダーはどちらにしますか?」
あ、そこから考えてなかった。
「ラックさんお願いします。」
とお姉ちゃん方を向き言った。
お姉ちゃんは頷いた。
「パーティの名前はどうしますか?」
とリリアンさん。
「エルフルズとかは?」
「「ダサいです。」」
・・・はっきり言われてしまった。
しかも、リリアンさんにまで・・・。
「じゃあ、《国境なき冒険者達》は?」
これなら大丈夫・・・だよね?
「あ、それは駄目ですね。」
え?なんで?
「かつて同名のSランクのチームがありまして・・・どこの国でも英雄扱いなんです。どなたもあなた方に縁のある方ばかりですよ。」
え?まさか・・・
「そうですね。メンバーの一部ですけど、うちの祖父母、ハント夫妻、エン氏、それとウェスティンの受付のツノの生えた人・・・何さんでしたっけ?」
「コルトさんですよ。って皆さんそんな凄い人達だったんですか?」
「はい。父と母は冒険者時代の事を話しませんが、ギルドに来る冒険者さん達の話からすると何度か災害クラスのAランク以上の魔物を退けてますからね。しかも単騎でやってのけるらしいですよ?」
「実際、エン氏も影の狼を単騎で討伐してましたしね。」
影の狼の単騎討伐、お姉ちゃんも達成したよね?と思ったが、こわい顔(良い笑顔)になりそうなので言うのをやめた。
日頃からお世話になっている方々を怒らせないように気をつけてようと思ったマナミであった。
「他の種族の方とも組もうかなと思っているので《友情の船》はどうですか?」
「クス・・・最初のエルフルズが嘘みたいですね。マナミさん。」
とリリアンさんが笑いながら言った。
(お姉ちゃんは頷いて用紙に書き込んでいる。)
「受理しておきますね。注意としては個人個人ではウェスティンの扱いです。パーティではウチの所属となります。」
そうなんだ・・・。お祖母ちゃん怒るかな?
「多分、怒りますね。ギルドマスターに。」
いざという時はギルドマスターを盾にしよう。
依頼を終えた冒険者達が僕達のパーティの話を聞いていたらしく、引っ切り無しに押し寄せたので、
お姉ちゃんは
「私達に勝てたらね」
と言って風のエルフ無双を始めてしまった。
「お父さんに報告しなきゃ・・・」
御免なさい、リリアンさん・・。
僕は唐辛子味の水を無重力状態の時と同じようにして襲いかかって来る冒険者達の口に押し込みながら、そう思った。
「お父さん、リリアンです。ギルド職員としてお話があります。」
「まさか・・・あの2人絡みの事か?」
「はい。」
報告を聞いたギルドマスターは絶句したそうだ。
ギルドマスターと受付嬢
「リリアン、今回は何が起きた?」
「御二人が作ったパーティに入りたいと言う方が殺到しまして・・・ウチの所属の冒険者127名、他所の所属が90名。
治療に回されました。」
ギルドマスターは驚いていた。
「・・・ウチのギルドって所属何人いたっけ?リリアン覚えてるか?」
「先日除名になった方々を除くと129人です。」
ギルドマスターは青い顔をして、
「何で今日に限って全員帰ってきてんだよ・・・」
と思わず叫んでいた。
そう、2人のエルフは知らなかった。
このギルドの所属の冒険者達をたった2人で制圧してしまった事に。




