第30話その2 受験者ブラック・ネーム
直接話したのは10年ぶりだろうか?
だからって泣かないでよ、お祖母ちゃん。
コントさんとマナミさんもここに居るのだから・・・。
お祖母ちゃんが落ち着いたところで改めて冒険者に成りたいと私はギルドマスターに願い出た。
「試験内容は・・・そうだね。お前がやりなマナミ。」
・・・え?
お祖母ちゃんかコメットさんが相手をしてくれるんじゃ・・・
あぁ、マナミさんの実力も見たいのか。
昨日見たステータスでは実力の差はかなりあった。
魂が分離した私たちの違いはステータスと固有スキル〈ムゲンノマドウソウセイ〉。
どんなに差があっても正直な所、マナミさんを相手にするのが怖い。
今まで聞いたことのない様な魔法を創り出し、柔軟で自由な発想で魔法を使いこなす。
初心者の魔法使いなのに無詠唱、しかも魔法の発動を触媒をなしで魔法を使ってくる。
決して油断はできない。
「これよりブラック・ネームさんの試験を開始します。」
とマナミさんが宣言し終えるのと同時に私は詠唱を始めた。
先手必勝!
「風の契約により私とともにありし者、私に力を貸したまえ。」
開放!風のエルフ
制限時間は100秒。
魔法には相性がある。
属性毎の相性は
火→風→土→雷→水→火
闇⇄光
マナミさんなら風のエルフとどう戦うのか考えてみた。
風のエルフは風属性の精霊になるので炎に弱い。
おそらくマナミさんはそれを狙ってくる。
必然的に固有魔法の《火炎》は確実に選んでくる筈。
マナミさんの身体が少し揺らめいた。
おそらく固有魔法の《火炎》を透明の|鎧|にしたのであろう。
次は《重力の檻》。
風属性の魔力で空中にいる私の自由を奪いにくる。
そうしたら《魔法封印》を使ってくる。
同名の魔法があるのだが、一般的な方は詠唱ができなくなる。
ただ、マナミさんのは一時的に魔力の値を0にするという魔法。魔力が無いと魔法を使うことができなくなる。
魔法が使えない状態だと近接戦闘になるけど、マナミさんの方が強いと思う。
前にオリ何とかって名前の冒険者に見事な蹴り上げをしてたしね・・・。
私がこれを乗り切るには・・・再びあの試験官の気持ちになって考えてみた。
魔法の効力を逆にするとか・・・?
うん、彼女なら思いつきそうだ!
固有スキル:ムゲンノマドウソウセイを起動。
『創りたい魔法をイメージして詠唱をして下さい。』
そう何かが語りかけてきた。
自分で詠唱も作るのか。
マナミさんみたいには素直に無詠唱って事にはならないのか・・・。
詠唱はこんな感じでいいかな?
「大いなる魔力の理に逆らいし我が小さき魔力。反転せよ!反転する魔法」
『固有魔法:反転する魔法を習得しました。
このまま発動します。』
と頭の中に流れてきた。
くっ!
魔力が底を尽きて元の姿に戻ってしまった。
固有魔法は、普通の魔法よりかなりMPを消費するみたいだ。
マナミさんが《重力の檻》を使ってきた。
本来なら重力によって動けなくなる筈だが、《重力の檻》により私の身体は重力がない状態となった。
反転する魔法が成功したみたいだ。
予想通り続けてマナミさんは《魔法封印》を使用。
マナミさん曰く、この魔法は一時的に魔力の値を0にする事で魔法を使えなくするとの事。
私に魔法封印は効いているのだけれど魔法は使えているみたいなので何かしらに反転したみたいだ。
詳しくは後でマナミさんと検証する予定。
「え?重力魔法の中で・・・浮いてる?」
マナミさんの意表をつくのには成功したようである。
マナミさんは少し考えてから
「もしかして反転とか逆転ですか?」
と言った。
たった少し見て考えただけでも理解できるのか。
流石、人族の有名な魔法使いがヘッドハンティングしようとしたり、お祖母ちゃんが孫にしてしまう程、気に入ったりする人物なだけはある。
「まだ、続けますか?」
「いや、やめておきます。」
彼女はかなりMPを使う固有魔法を3つ発動したのだからMP切れを起こしてるのだろう。
美味しくないという表情をしながら回復薬を飲んでいる。
こうして試験は私の勝利で終わった。
「これで、私もCランク冒険者ですよね?お祖母ちゃん。」
あれ?お祖母ちゃんが放心状態に・・・。




