第001話 魔を知り人を知り己を知る
魔法陣というものは極めてデリケートなものです。
わかりやすくいうなら精密機械といってもいいです。
進みすぎた化学は魔法と見分けがつかないというなら、進みすぎた魔法は科学と見分けがつかないといっても違いはありません。
魔王城
そこはまるで絵画の世界に登場するような巨大で堅牢な砦に守られた禍々しい建造物である。幾千もの種の魔物がそこで暮らし繁栄と衰退を繰り返す。屈強なオークやゴーレムが扉を守り、城の上空をドラゴンが飛び交う。そんな風に思われているかもしれないが、実際には当時の建築家によって作られた堅牢な町である。魔王城というのはあくまで人間によって名前が付けられたものであり、魔物たちが生活する場所は城下町として記されている場合が多い。
実際には本城と呼ばれる魔王が住んでいる城が存在しており、そこのことを魔王城と呼ぶのが正しいのである。それ以外の魔王城と呼ばれているものは王国というのが正式名称となるだろう。
そんな魔王城の一室。本棚には人間が読むと発狂しそうな本が立ち並び、いかにもな雰囲気を醸し出している場所で若い男性と老婆が話し込んでいた
「若様。マジックアカデミーというのをご存じでしょうか?」
「ご存じではござらぬ」
「では一度通ってみてはいかがでしょうか?」
「それで、マジックアカデミーとはなんだ?」
「人間が魔法を学ぶための施設でございます。ぜひ若様には人間のことを知っていただければとう老婆心からのご提案でございます。」
「確かにいずれは人間界を使っての賭博を行うかもしれない。だが次期魔王とはいえ人間など指先一つで肉塊となり果てるぞ。制御できるとはいえ隠すのは骨が折れるぞ。」
「その点については問題ありませぬ。こちらの抑制の指輪をしていただければ魔力の量を制限することができるのでございます。」
「なるほど、確かに一度に使う魔力が少なければバレる心配もなくなるというわけか。簡単な魔法であっても使う魔力が大きければ大災害になるという問題があるからな」
「左様でございます。魔力を1の消費で済む魔法に5の魔力を使うというのは魔力の無駄使いでございます。同じ5の魔力を使うにしても、それにあった魔法を使わなければ威力が半減してしまうものでございます。無尽蔵に魔法を使うというのは魔王様や魔法に特化した魔物に許された特権のようなもの。一部に人間にも近いことはできるようですがね。」
「防御呪文に至っては魔法で補強する形になるから基本的に無駄にはならないな。もっとも防御呪文は魔力の消費が激しいから連発なんてできないのが難点だ」
「追加の説明ありがとうございます若様。魔老人にしこたま教え込まれたタイプでございますか?」
「魔術の基礎から夜の女の堕とし方までいらないことから重要そうなことまできっちりと教えられたよ。」
「あやつも早く若様の子が見たくて仕方ないのです。」
「老い先短いっていいつつあと何億年生きるつもりだ。」
「未来のことなどわかりませぬ。それに第一線を引いた身としては恋愛沙汰に関してうるさいのでありますよ。おそらく魔物だろうと人間だろうと、気になったおなごを篭絡して自分のものにしてしまえという策なのかもしれませぬ。」
「誰を嫁にするかという話は三百年くらい先にしてもらう。だが、マジックアカデミーというのには興味が湧いた。人間の社会というのを知るのも重要なことなのには違いない。となると・・・一年くらい見てみるのもいいだろう。」
「まことでございますか!ではさっそく転送の方を致します。」
「すぐに向こうに飛ばすの?ちょっと聞いてないんだけど」
「安心してくださいませ。この杖で若様の頭をフルスイングすることで完了致します」
「事件だよね。間違いなく事件が起きたよね。ケルベロスのおまわりさんが来ちゃうタイプだよね」
「いえいえ。別に若様を亡き者にするということではございませぬ。転移というのは本来、膨大な量の魔力を使うのです。この年老いた婆にそれほどの魔力に耐えられる体はございませぬ。そこで若様の血を媒体に転移を行おうという算段でございます。」
「なにか引っかかるけど、つまり血が必要ってことだな。そういうことならはっきり言った方がいい。背後で思いっきり兜割りなんて噴水になってしまう。」
そういうと若様はテーブルのナイフを魔力で強化して腕に軽く押し付ける。ナイフの刃はたやすく皮膚を切り綺麗な鮮血を流させた。魔力を多く含んだ血液は、それだけで種族を問わずあらゆる生物を魅了する。魔物の繁栄の一側面の真実でもある。
「そのくらいで結構でございます。転移先の座標は頭に刻みこまれておりますのでご安心を。あちらに付きましたらまず抑制の指輪をしていただいてくださいませ。あとは適当に歩いて散歩がてらお楽しみください。では、若様の冒険に魔の祝福がありますように!!」
「そんじゃ行ってくる」
血液が浮かび上がり陣を形成し始める。ゆらゆらとした血液は次第に固定し薄く伸び、正規の方法ではない転移魔法の陣が空中に描かれ徐々に安定化を始めた。魔法陣は一瞬だけ青白く光り、対象者と共に弾けて消えてなくなった。
魔王は知るのだ。偽りの世界で行われている真実の嘘。
そこにしかない真実よというのを
魔物図鑑002 オーク
別に姫騎士やエルフにいやらしいことはしないし、他の種族に対して凌辱や侵略といった行動は行うことはない。その見た目から人間からは嫌われているが雑食でありながら基本は草食であることはあまり知られてはいない。その屈強な肉体故に番人としての活躍が多く家族思いな一面が見受けられることがある。
余談ではあるがオークの鼻は魔物の中でも非常に敏感であるため迷宮の出口や地上への出口を臭いを知るものも多くいる。もちろんできないものもいるので過信してはいけない。