あたなと私が変わった日
私の隣にはいつもあなたがいる。
付き合ってるわけじゃない。
恋愛感情を抱いていないと言えばうそになる。
でも、私のこの気持ちは秘めたまま。
永遠にあなたに伝わることはないでしょう。
お酒臭いあなたに肩を貸して。
私は慣れた手つきであなたの部屋へあがる。
「んふふ~また君に介抱されちゃった。」
ふにゃふにゃと笑う。
いつもならそんな風に笑わないじゃない。
閉じているように見える目をこちらに向ける。
「今日は泊まってく?」
甘えたような口調でそう言う。
「駄目よ。明日も仕事じゃない。」
「俺は休みだから問題ない。」
あなたはね。
私は仕事があるの。
そう言って背を向けた瞬間。
「わっ!」
あなたに腕を引っ張られ、私はあなたの腕の中。
腕を振りほどこうにも身動きが取れない。
やっぱり男性には敵わない。
「離して。」
「やだ。」
そう言いながら、私の首元に顔をうずめてくる。
待ってよ。
私とあなたはそういう関係ではないでしょう?
戸惑う私と何も考えていなさそうなあなた。
「ん・・・。」
私の肩に噛みつくようにキスを落とす。
そして、首、耳。
「ちょ、ちょっと!そういうことはしないで!」
大きい声をだしたせいか、あなたは少し嫌そうに眉をしかめた。
「うるさい・・・。」
拒む私を強引に抱きしめ、おでこに、頬に、キスをした。
だんだんと緊張してくるからだ。
あなたとこんな風になったのは初めてではないけれど、いつもはうまく逃げてきた。
なのに、どうして今日はいつもみたいに離してくれないの?
これ以上近づいてしまったら。
これ以上あなたを知ってしまったら。
好きという感情を抑えきれなくなる。
あなたにこの気持ちを知られてしまう。
怖がる私をよそにあなたはとうとう、唇にキスをした。
漏れる吐息。
慣れた様に女性に触れる。
他の女と同じなんだ。
今まで一番の友達としてあなたの傍にいたけれど。
あなたにとって私は、あなたの周りにいる女の人と同じなんだ。
痛む心。
流れる涙。
「どうして泣いてるの?」
心配しているような、していないような瞳で私を見る。
「あなたには関係ないことよ。」
うそばっかり。
私がピノキオなら、鼻がぐんと伸びているはずね。
目に見えてうそを吐いているのがわかるのに。
私はピノキオじゃない。
あなたにうそを吐いているかどうかは、私にしかわからない。
「・・・そう。」
あなたは私の涙を手でそっと拭うと、私の手を引くようにして寝室へ向かった。
あぁ、これであなたと築いてきた”友達”という関係も崩れてしまうのね。
私の瞼、鼻に優しくキスをした。
そんなワレモノを扱うように私に触らないで。
いつもそんなんじゃないでしょ。
急に知らない人になった気分よ。
何度も何度も名前を呼び合う。
激しさを増す息。
近くなる距離。
あなたとの今までが終わった日。
朝、いつものように目を覚ます。
知らないベッド。
当り前よね、昨日はあなたと寝たんだもの。
隣で子供のように眠るあなた。
瞼にかかった前髪を払ってあげると、私は家を出る支度を始める。
もう二度とここに来ることはないだろう。
昨日、あなたとのすべてが終わってしまったのだから。
寂しさと切なさを感じながら、シャツに腕を通す。
「もう行くのか?」
後ろから声がした。
起きたばかりで、まだちゃんと目覚めていないあなたが立っている。
昨夜とは別人みたい。
そうよ。
私は、こっちのあなたをよく知っている。
「当り前でしょ。私は今日も仕事なんだから。」
そうか、と言ってあなたはコップに注いだ水を飲んだ。
「そうだ。帰りに迎えに行くから、仕事終わったら電話しろよ。」
え?
なによそれ。
「なんでよ。あなたは私の彼氏じゃないでしょ?」
なんであなたが迎えにくる必要があるのよ。
振り返ったあなたは、勢いよくズカズカと迫ってくる。
私を壁まで追いやると、ポケットに入れていた片手を壁に突いた。
「俺のこと好きなんでしょ?」
にやりと口角をあげた。
言葉を失う私に、「図星。」と小さな声であなたはつぶやいた。
「俺もお前のこと好きだから。」
今日から付き合おう、と照れ臭そうにあなたは言った。
「言うタイミング、俺なりに伺ってたんだけど。お前全然、隙ねぇし。」
きまり悪そうにそっぽを向くあなた。
それが何だか愛らしくて私はあなたの頬にキスをした。
あなたは驚いた顔をして、嬉しそうに笑った。
「お前って意外と大胆なんだな。」
今日から私はあなたのもの。
今日からあなたは私のもの。