変態と言うべきか変質者と言うべきか
BLではないですからねっ!!
「ただいまー」
疲れを声に滲ませ、部屋へと入って行く。
そこで俺が目にしたのは――
「おかえりなさい〜。俺にする?俺にする?それとも…お・れ?」
「ちょ、おま、それ……」
男の裸エプロンでした。
そもそも、なぜ俺の部屋に男がいるのか。
それは裸エプロンの男がルームシェア中の幼馴染みの龍だからだ。
いくら昔から女装趣味があったからといって、まさか裸エプロンでいるとは誰も思うまい。
俺も今の今までそんなことが起こるとは思っていなかった。
「俺にする?俺にする?それともお・れ?」
「その格好何」
「ダーリン冷たいんだからぁ〜」
ダーリンと言われた瞬間寒気が走ったのは言うまでもないだろう。
冷たいと言いながら、俺の頬をすごい勢いでつつく…いや、刺している指は何が言いたいのだろうか。
むしろ、俺に言わせろ。
謎しかねぇよこの状況。
「龍。何この状況」
「もぉ〜望ったらつれないんだからぁ……」
説明することなくトボトボとリビングへと戻る龍。
その後ろ姿は……
「ただの変態だろ……」
「まぁ、説明するからこっち来いよ」
そりゃ行くよ。
ここ俺ん家でもあるしな。
ただ……裸エプロンの状態で男声出されましても……。
俺がリビングに行くと龍はソファに裸エプロンのまま座っており、その前には大きなダンボールがあった。
「見ればわかる」
龍に言われるがまま、俺はその空いているダンボールの中を見る。
缶詰、レトルト、サバイバルナイフ、ドライフルーツ、ロープ……なんだこれ。
掘り起こしていくうちに指先に紙が当たった。
取り出してみるとそれは手紙だった。
『望へ』
つい数年前まで一緒だった母の字だった。
若干嫌な予感がしながらも、龍に急かされ手紙を開く。
『元気にしていますか?
そろそろ彼女の2人や3人出来たころかね。ダンボールには必要そうなものと、うちには必要ないもの入れておいたから、一緒に住んでるであろう大切な人と分け合って使いなさい。
なお、エプロンは私の自作だから使ってもらってね♡』
あのクソババア……。
わざわざ作ったのかよ……。
桜色の生地で、腰には大きなリボンができる。
極めつけは胸元のレースでできた大きなハート。
誰でも着るの嫌だろ、龍はおいといて。
「てことで俺がもらいました!似合ってるでしょ〜?」
コロコロと声を変えるこいつはすごい。
すごいが、無性にイラつく。
銃があれば躊躇わず撃っているだろう。
「女物をお前が着てどうするんだよ」
「しょうがないからぁダーリンの彼女になってあげる」
「願い下げだ」
「ひっどぉい……」
泣く真似をする望は気持ち悪い。
ただ、泣き真似をしているところも気持ち悪いのだが、それ以上に体格にエプロンが合わずチラチラと肌が見えるところだ。
「とりあえず……服着てくれ」
「着てるじゃない、エ・プ・ロ・ン」
わざわざ、強調する理由を知りたい。
いや、それ以上にこんなことしなければ普通にイケメンなのに裸エプロンをする気になったのは何故だ。
疑問しかねぇ。
「もういい……飯は?」
「俺」
「アホ」
真顔で返事するやつがあるか。
こっちは仕事終わって疲れてんだよ。
その気持ちに気づいたのか龍はため息をつき、キッチンへと行った。
「適当でいいかー?」
「あぁ」
これだよ。いつもの雰囲気。
裸エプロン以外の日常が戻ったと思ったのも束の間で
「お待たせしました〜愛の篭ったハートのオムライス。召し上がれ」
龍は俺を苛つかせる天才かも知れないとこの時本当に思った。
女に生まれればよかったんじゃないかとすら思えてくる。
「頂きます」
「無視するなんて意地悪〜。でもそんなところも好きだよダーリン」
「今日もうまいなハニー」
俺の言葉に固まる龍を見て、もう女扱いでいいかと思った。
男だと思わなければ、裸エプロンなんてどうってこと……あるわ。
洗脳されてんじゃねぇか。
そんなことを考えていると、龍がもじもじしながら少しずつ俺に近寄ってきた。
反射的にオムライスを持ちながら俺も龍から同じだけ距離を取った。
「ダーリン……あーん」
諦めたのか少し離れたところで目を閉じ口を開けている。
俺は少し迷った挙句、冷蔵庫に行き緑の物体を取り出し龍の口に入れた。
「……辛っ」
「反応薄っ」
「わさび入れるなんて……愛の刺激かなぁ?」
涙目になりながらもキャラを突き通す龍。
俺は無視してベッドルームに行き、ドアから顔を出して一言だけ言った。
「寝るから入ってくんな」
次の日――
「おはよう、ダーリン」
また水色の裸エプロンに変わっていた。