人生の分岐点
「いりゃいいりゃい!?」
「構ってちゃんオーラ出すなめんどくさい」
「ら(出)してません。らふら(慰)めて欲ひいオーラならら(出)してます」
「一緒だボケ」
ぐぐぐ、と力を込められダメだって鼻血出るって!と叫びかけた所で荒々しく手を離された。わ、すごーい。鼻って長時間鷲掴みにされたらへしゃげるんだーとか関心する。
「しゃーないなー酒のつまみ程度にはなるかぁ。話聞いたげるから昼メシ奢って」
「今昼の3時ですよ」
「腹減ったー」
昼メシってかお茶じゃね。そんなツッコミも聞き入れぬまま、ズルズルと連行された。
「編集一年目なんてそんなもんだから」
この人が、話が早くて良かった。学生時代から、それは変わっていないらしい。にしても、言葉に飾り気がなく直球極まりないと、バッターだってそんな豪速球受け止められるはずもない。
「で、ですよねー…」
「ま、たまーに、ごくまれーに、1000人にひとりくらいの割合で、編集者になってすぐ担当貰える人もいるけど、それって生粋のやり手か、もしくは大概コネ入社のどっちかよ」
「お色気使ってもダメですか」
「窪んだコンクリートみたいな胸して何言ってんだか」
まな板どころか窪んでるの!?確かに高校時代から下着のサイズはほぼ変わってないけどもだな。見下ろす限り区切れのない絶壁に愕然とする。
「あんた、そんなに担当欲しいの?」
「…担当が欲しくない編集者なんていますか」
「あたし、別に嫌味じゃないけど、自分は割とそつなく何でもこなす方だと思うのね。そんなあたしだって、まともに編集者になってから自分のページ持たせてもらうまで、数年かかったよ。ま、雑誌の記事と書籍の担当じゃ話がまた違うんだろうけどさ」
「…不安なんですよ。私はむしろ先輩とは逆で、どっちかっていうとって言うか普通に不器用だし、考え無しに行動するし、そんなだから編集長も私を養成してくれてるってこともわかってます。でもいつまで…ただ漠然と毎日過ごしてるだけじゃあ、私何のために雑用してんだか分かりません」
「…赤川」
「もっと具体的で明確なものがなきゃ…今歩いてる道の先が真っ暗なんじゃないかって」
不安です。言葉にすれば、遅れてふつふつと感情が込み上げて来た。そして同時に痛感する。普段何の気なしに過ごしていた日々の中、自分は自分をそう案じていたのかと。