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猫は目を瞑っていた


男が消えポツンと取り残された一匹の猫

もとい、菅原雛(すがわらひな)


雛の頭の中では幾つもの疑問がぐるぐると駆け回り収集がつかない。

(…きっ、消え、た?消えた!?、???何?どういうこと!?えっ?)

混乱の為かその場をぐるぐる、ぐるぐると回っていると、上の方から声がした。

ピタリと立ち止まり、声の方に顔を向ける。

「どうした?落ち着かないのか?まあ、仕方ないだろうけど、此れからは此所に居て良いんだからな?」

そう言ってしゃがみこんで私を抱き上げると兄はソファーに凭れる様に自分も座り、膝の上に私を載せ、兄は猫である私の頭を撫で続ける。

兄の膝の上に載せられ、撫でられるうち、うつらうつらと心地好い眠気に捕らわれながら雛は此れからはの事をうすぼんやりと考えていた。

(…私、このままでも別に良いかなぁ…どうせ、死んじゃってるし…アイツだって、別にやらなくても良いって言っていたんだし…このまま、兄さんの側に居られるんなら…いっそ、このまま……)

そこまで考えたあたりで雛は重い瞼を持ち上げられず、睡魔に負けて眠りに堕ちた。



微睡みの中で鼻腔をくすぐる母の料理の匂いを感じ鼻がヒクリと動いた。刺激を受けた意識は次第に色々な音を聞く。足音、食器を出すカチャッ、という音、それから、話し声、覚醒しだす意識で会話の方に聞き耳をたてる。


「……−−があんな事になったばかりだというのに、もう生き物を拾って来て…少しは情緒を持って母さんや父さんに気を使えないのか?」

「…っ、でも、父さん、アイツ家の前でずっと鳴いていたんだよ、ほっとけないじゃないか」

聞き耳をたてていた雛は自分についての会話だと分かると意識がしっかりと覚醒した。

『!?父さん!そんな言い方ってないじゃない!恵兄だって父さん達の事を考えてないなんてこと絶対無いのは解ってるでしょ!恵兄が行き場のない生き物を拾うのはそれと全く関係ないんだから!』

言いながら立ち上がり、声のした方、恵と父がいる方に向かう。二人の側まで来た所で、目線の低さに気がついた。

自分が猫であった事を、そして、二人には今の自分の言葉は意味をなさない事も。


「はぁ、全く、…その猫もお前の味方のようだな…」

突然起き上がったと思ったら「ニャー!ニャー!!」鳴いて、庇う様に恵兄の足下までよって来た猫に毒気を抜かれた父はそう言って、自室へと戻った。

すると、恵と父のやり取りを見ていた母が恵へ弁明する形で、やんわりと取りなす。

「恵君、お父さんも解っているのよ、ただ、タイミングが悪かっただけなの。だから、その子も追い出したりはしないは

さ、御飯の仕度手伝って頂戴」

「うん」と頷いて兄さんは私の頭をポンポンと撫でてから母さんと一緒に御飯の準備を手伝い、その後、何事もなく、2日が過ぎる。


時折、悪魔を名乗るあの男が姿を現しては、くだらない話しをして消える様にいなくなる。

「どうだい?考えてみるきになったかい?」と、こんな具合に現れる時いつもこう言って現れ、そして、その気がない事を告げると全く残念ではなさそうに「それは残念」と言い、それからあの、ニンマリとした笑顔を浮かべる。その度に底知れない寒気を感じ、本能的に猫である全身の毛を逆立たせて仕舞う始末…

更には苛々する事に、突然現れるこの男の姿は兄や母、父には見えていない様なのである。毛を逆立たせ「ニャーニャー」鳴き出す私を見て家族は不思議そうに此方を見ていた事で気が付いたのだが、その時の私のいたたまれなさといったら…

後々、考えると確かに最初、玄関先に居たときも、兄は私と向かい合っていた男を目にも留めず私しか見ていなかったのだから、気付く要素は幾らでもあった筈なのに私は自分の事で精一杯で気付くのに遅れて仕舞ったのだ。


猫としての生活に若干飽きはじめた今日この頃、私はある計画を立てた。

それは、『兄の学校での様子を見てみ隊』である。

朝食をいち早く食べ終えた私は気付かれない様に兄の鞄の中に潜り込んだ。

大変だったのが内側から鞄のファスナーを閉める事だったのだが、根気よく爪と歯を使い分けた結果2、3センチだけ残して閉じられ、兄にも気付かれずに学校まで来る事が出来た。



学校に着いた兄は鞄を自分の席の横に引っ掛け、自分の席につくと、兄に挨拶を交わす声がちらほらとする。

此所まで順調に事が進んだものの、兄や周りの人に気付かれないで、どうやって鞄から出たものか…



そう、思案に耽って居るとなんだか様子が変わった様で、足音が騒がしいと思ったら今度は人の気配が急に遠退いたのである。

(あれ?もしかして今日って全校集会だった?)

全く曜日の感覚を忘れていた雛はそこで気を取り直して早速鞄から出ようとする。入る時よりも出る時の方が楽に抜け出せられたのだ。これは最初からファスナーが少し空いていた、というか、絞められなかったと言うか、まあ、そのお陰で手を隙間に出して拡げ、それから思いきって顔を出して、力一杯出ていったのだ、猫だけあって目一杯拡げなくとも出られるあたり流石である。



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