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閑話「レーヌの溜息」

結局は恋、だったのだろうか。

彼の姿を見る度に湧き上がる想いを冷静に分析すると。

でも自覚することなく、そして告げられないまま時が過ぎてしまった。

今、まさに命を失いそうになっているのにこんな事を思う自分に笑ってしまう。


半年前のあの洞窟、絶体絶命の危機に颯爽と駆けつけ助けてくれた、彼。

いつも賢明なのに懸命で。

手先は器用なのに生き方が不器用で。

そして誰にでも優しいのに敵には怖いくらい非情で。

そんな在り方が可愛くて……守ってあげたくなる。

ルナの冗談に、あたふたと返答する姿。

依頼で仲良くなった村娘に言い寄られ、困った笑顔で眉を寄せる姿。

弓を構え前を見据える凛々しい姿。

思い返せば万華鏡のように脳裏に描く事ができる、その振る舞い。

どれもが全部、大切な宝物だ。


よく自分はポーっとして見られる。

でも何も考えてないわけじゃない。

むしろ色々考え過ぎてどうしていいか分からなくなってしまう。

だけどあの日。

洞窟で出会ったあの瞬間。

もっと彼を知りたいと思った。

もっと彼といたいと思った。

だからお礼を口実に強引に誘ってしまった。

迷惑じゃなかったか後で訊いてみると「前に似たようなことがあったから驚きました」と苦笑混じりに話してくれた。

穏やかに話す彼の口調がとても懐かしそうで……少し、妬けた。

まるで今はいない誰かを想うようだったから。

彼の心の中に誰かがいるのを知ってしまったから。

それでも譲りたくないと思った。

これは彼に対する、最初で最後の我儘。

ルナの誘いもあったけど、きっと理由をつけて自分は彼と行動を共にしていたと思う。


神に身を捧げた訳じゃなく、孤児ゆえに寺院で育てられた自分。

厳粛で静けさに満ちた毎日が嫌いだった訳じゃない。

でも何かを変えたかった。

そうでなければ変えられないものが欲しかった。

だから飛び出してしまった。

安寧に満ちた鳥籠を。

しかしそこは世間知らずの聖職者。

悪い奴らには絶好のカモだったのだろう。

絡まれるだけでただオロオロするしかない自分。

もし最初にルナに助けてもらえなかったら自分はどうなっていたのだろう?

慰み者にされるなら幸運。もしかしたら命を落としていたかもしれない。

有り得たかもしれない過去に総毛立つ。

孤児という共通点はあるも、大人しいという仮面を纏う自分と違い、気に喰わない事には反発する彼女は絡んでいた奴らを叩きのめし、最後に自分の頬を張った。

自分を大切にしない奴は嫌いだよ、と。

その時のルナの姿は絶対的な輝きを以って自分の世界を照らしつくした。


命を失おうとするこの瞬間。

取り留めもなく次から次へと思いに駆られる。

これが走馬灯というものなのかな?

よく、分からない。

疲労で朦朧とする意識の中、傍らに昏倒し荒い息をついているルナの姿を見る。

法力を振り絞り、何とか命は取り留めた。

でも戦うことはおろか、起き上がることもできまい。

今は彼が前衛を務めてくれているもそれも時間の問題。

ダンジョンの守護者に襲われ、自分達は死んでしまう。

それは凄く悲しいこと。

でも最高の仲間と最高の時間を過ごせた日々に悔いはない。

……いや、これは嘘。

やっぱりもっと一緒に過ごしたかった。

もっとお話をしたかった。

彼の傍に、いたかった。

だから徐々に沈みゆく思考を紡ぎ、お別れを告げる。

きっと届かない。

叶わない想いを。


シャスティアくん……もう会えなくなっちゃうね。

でも、不思議とさみしくないよ。

みんないっしょだからかな。

こどくじゃない。

ねえ……

またあえたら

こんどこそ

いうね

きみのこと……

まえから……

だいす……




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