表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/61

14章 推論する正体

「ミラナさん、ここは私に場を任せてもらえますか。

 試してみたい事があるんです」

「構わないけど……まずはアメちゃんの治療を行いたいわ。

 早くしないと手遅れになる」

 ギリっ、と唇を噛み締める。

「いえ、今なら大丈夫です。

 アメトリさ…アメトリのお蔭で奴の攻撃の正体ネタが判明しました」

「本当? 連続近接転移じゃないの、あれ」

「いえ。もっと安っぽい手品ですよ……今、その正体を暴きますから。

 だから安心して治癒へ回って下さい」

「……分かったわ。奴をお願いね」

 しゃがみ込みアメトリへ法術を施すミラナさん。さて、

「相談事は終わったカネ? そろそろ攻撃を再開したいんダガ?」

 律儀に相談が終わるまで待っていたフラッグに私は尋ねる。

「何故、そんなに余裕なんですか?」

「ああ? 何かね、君ハ?」

「アナタの能力は初見殺し。判別する前に私達を皆殺しに出来た筈なのに」

「生物的弱者に身構えてどうスル。

 それにまるでワタシの能力が理解できたような口調ダネ?」

「推測はできます。それよりも知りたいのは、アナタ達魔族の動機です。

 どうして村を襲った際に、人々を殺めたのです?

 アナタ達が宿る苗床とするなら生かして捕らえた方が都合がいいのに」

「ハハハ、君は何も分かってナイネ」

「?」

「我ら魔族は人の情動を喰らうのダヨ! 

 君達人間は知らないだろうが、人の欲望は甘美ダ!

 怒り、妬み、嫉み、恐怖。

 どれもが素晴らしい福音に満ちて我らを潤ス。

 まあ強いて云うなら楽しみだから、と答えておこうカ」

「そうですか……ならば、その愚かな驕りこそがアナタの敗因になるのでしょうね」

 先程までの自分の事を振り返り、厳かに告げる。

「戯言を抜かすな、小僧ごときガ。

 ならばワタシの一撃を避けてミヨ!」

 またも消え去り、奴の笑いだけが廃墟となりゆく村に反響する。

「だから……もう、見えていますよ」

 呆れた溜息を零し、宣言した私でなく隣りにいたミラナさんの首を刎ねようとしたフラッグの頭を全力で蹴り飛ばす。

「き、貴様! 何故ワタシの姿ガ!」

「いちいち解説するのも何ですが、まあいいでしょう。

 アナタの本来の姿は霧状形態なのでしょう?

 普段は不可視なまでに薄まっていて物理攻撃を無効化し、攻撃時にのみ結合力を高め実態化する。

 確かに使いこなせれば最強でしょう。

 だが、今のこの村。

 そしてアメトリの放った呪文の後の事を考慮できていない時点で、アナタの敗北は決定的です」

 指摘した通り、燃え盛る村で温められた空気。

 それだけでなく急激に冷やされ、吹き荒れた大気。

 並みの人間ならともかく、一里先を見渡す弓手の目は誤魔化されない。

 奴が動くたびにレンズの様に屈折する光を追えばその居場所は分かる。

「しかしそれでも居場所が分かるだけだロウ?

 いかんともし難いレベルの差はどうする気ダネ?」

 狼狽した態度から余裕を取り戻し嘲るフラッグ。

 確かに上級呪文にすら耐える奴を「撃ち倒す」術はない。

(でも封じることはできる!)

「アメトリ、地属性の呪文を!」

 傷が癒された事により昏倒から目覚め、隙を伺っていたアメトリに指示を出す。

 その為の長口上!

「うん!『基は始原にして至言たる不変の定理。我が血の値を以て地の智となさん。

 汝が名は等価たる刀渦なり』<ブレードヴォーテックス>!」

 触媒として流れ出てたアメトリの血が発光し、その量に値する鋭い大地の刃となる。

 それは高速回転しながらフラッグを切り刻む渦となり始める。

「ハハハ! こいつは大したものダ!

 だがこの程度ならあと数発は耐えられ……むっ……?」

「いえ、アナタの負けです」

 呪文の効果発動後。

 縛鎖に掛けられたかのごとく鈍重な動きとなるフラッグ。

 そればかりか足元から徐々に崩れ去り、形を崩してゆく。

「これ……は……?」

「霧であるアナタは火に弱い。だから村を襲撃した際に竈の不始末などで炎上し始めた家には近寄りたくなかった。

 いや、近寄れなかった、というのが正解でしょうか。

 村の端々に残っている死体、火元に近いそれこそが証拠となっています。 

 素体が必要なら回収する筈ですし。

 ああ、それと今のアナタの状態ですが、急激に全身の水分を失い消滅中です。

 先程のアメトリが放った地属性の呪文は、アナタを傷付けるのが目的じゃありません。

 アナタにレジストさせ、粉末状になった土に水分を吸わせる為だったんですよ。

 もっとも呪文で消滅してくれれば一番でしたがね」

 言って、嘲るように奴を見下ろす。

「いかがですか、侮っていた人間にコケにされるのは」

「き、貴様! このワタシに向かってナ」

「いいから黙れ」

 無造作に足を踏み下ろし、フラッグの腕を砕く。

「お前に殺された人々はもっと苦しんだんだ。

 だからお前も苦しめ。

 そして有益な情報のみ吐け。それ以外は許さん」

 瓦礫へと手を伸ばし、火が燈る角材を抜き出しフラッグの体へと押し付ける。

「ぎゃあああああああああああああああ!!

 やめやめやめやめめめめめめめめめめ!!」

「違うだろう? お前が喋っていいのは情報のみだ。

 言え。残りの人々をどこへやった?」

「いういういうううううううううううう!!

 だからやめめめめめめめめめめめめめ!!」

 懇願するフラッグから火を離す。

「の、残りの人間はここから西にある洞窟にイル。

 本当ダ! 嘘じゃナイ!!」

「ああ、信じるとも」

 慈愛の笑みを浮かべ、頷く。

 安堵したように顔を上げるフラッグ。

 その眼球へ角材を突き刺す。

「あああああああああああああああああ!!」

「でもお前、まだ隠しているだろ?

 例えばもうひとりいる仲間の存在、とか」

 その瞬間驚愕を通り越し、畏怖するような顔で尋ね返すフラッグ。

「何なんだ、お前! 何者なんだ、貴様ハ!?」

「ただの人間さ。

 ……愚かで弱い、必死に足掻く、な」

 告げてポーチから発火瓶を取り出し放り投げる。

「さよなら。賢くて偉大おばかな魔族さん」

「馬鹿ナ……このワタシがこんなとこロデ……」

 燃え上がる炎の中、フラッグは自らの滅びを理解できないように消滅していった。

「さ~早く生き残りの人々を救出しにいきましょう!」

 明るく宣言し振り返った私の前。

 どこか怯えたような眼差しの二人がいた。

「……あっ……」

 また、やってしまった。

 野盗団から村を守る護衛任務を受けた時の事。

 襲い来る野盗を撃退した後のルナとレーヌの顔。

 それが同じ顔をしていた。

 私は……僕は多分、どこか壊れているんだろう。

 明確な悪に対する時、自分が自分でないように歯止めが利かなくなる衝動に駆られる。

「すみません……気持ち悪いですよね、こんな奴……。

 ……今まで、ありがとうございました。

 私はこれから洞窟へ向かうので、お二人は一度ホームへと戻られっむぎゅっ!?」

 何も言わずミラナさんに熱く抱き締められていた。

「シャスくん、昼間も言ったよね?

 君の強さも、弱さも、全てをひっくるめてみ~んな君なんだから、って。

 それは今も変わりないよ……少し驚いたけど、ただそれだけだから。

 ね、アメちゃん?」

「うん。っていうかワイルド系なシャティア君もいいわー(溜息)。

 何かこう命令されたくなるっていうか、ゾクゾクする。

 あれ? もしかしてMなの、自分?

 はあ……マジでミラナルートなのが残念。ルート変更希望」

「あ、あの~二人とも? 

 ここはもっとシリアスなシーンじゃないんですか?

 私の本性を垣間見た二人が恐怖に慄き距離を取る、みたいな」

「え~だって、ねえ?」

「うん。正直マジ制裁モードのエメリアのが怖いよ?

 っていうかキレた時のメルが一番ヤバい」

「わたし達が心配したのはシャスくんの言動の方」

「そうそう、駄目だよーホント。ああいう英雄譚的ちゅうに言動は程々にね?

 さすがにそっちはおねーさん達も引くわ」

「は、はあ……すみません。以後、気を付けます……」

 何か的の外れた指摘に、私は当惑しながら謝罪するのであった。


非情なシャスの対応すら笑って受け流す「水晶の聖檻」のぬくもり(クオリティ)。

制裁モードのエメリアやキレたメルの話も余裕があったら書いてみたいです。

閑話などリクエストがありましたら感想欄に記載願います。

(評価もして頂けるとテンション上がります)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ