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11章 崩壊する平穏

「まったく規格外にも程があります。そもそも新人ルーキーとは……」

 夕食の席、共に食卓を囲みながらもメルは今だ得心がいかないように呟き続ける。

「でもさ、それだけ頼りになる子がきたんだし、ラッキーじゃない。

 おまけに顔も可愛いし」

 夕食のシチューとパスタに舌鼓を打ちながら応じるアメトリさん。

「でも実際問題、困るわねー。

 シャスくんには従来セオリー通り後衛で火力担当になってもらう?

 それとも前衛不在時は恵まれた敏捷さを活かし、回避専門型の前衛になってもらう?

 援護があれば、並みの相手なら相当持ちそうだけど……シャスくんは希望ある?」

「そうですね、基本皆さんにお任せしますけど……まだ連携の呼吸も分からないので、その都度指示を頂ければ、こっちで判断し動きたいです」

 小首を傾げ思案するミラナさんの質問に、私は夕食を口元へ運ぶ手を止め答える。

「う~ん。状況に応じてかなー。

 あんまり初期から雁字搦めにしちゃうと動き辛いし……」

「そうそう、基本はわたしの魔術でドーン! でいいじゃん。

 戦闘は火力だよー」

「その安易な考えが周辺に被害を及ぼすんです、とメルファリアは指摘します」

「だってさー手加減苦手なんだもん」

「貴女はホームにくる被害請求書を見ないからそんな口を聞きやがるんですね、とメルファリアは憤怒を堪えて抗議します」

「しょうがないでしょーワザとじゃないしー」

「まだそんな口を叩きますか、このー」

「まあまあ、二人とも」

 口調ほど険悪でもなくじゃれ合う二人。

 そんな二人を諌めるミラナさん。

 穏やかな夕食。

 だが、そんな調和は荒々しく解き放たれた扉により打ち壊された。


「助けて……下さい……」

「サリア! どうしたの、そんな血だらけで!」

 扉に凭れ掛かる様に荒い息をつくのは、血だらけで傷だらけの神官衣を身に纏う少女。

 驚きの声をあげたミラナさんが急ぎ駆け寄り回復法術を唱える。

 しかし余程の重傷だったのか、傷が塞がって若干顔色が良くなり呼吸が落ち着いていくも、快癒には至らない。

「知り合いの娘?」

「同じ寺院出身の娘なんです……いったいどうして……」

 尋ねたアメトリさんに痛ましげに首を振りながら法術を施行し続ける。

「わたくしの事は……いいんです。

 ミラナねえさま……村が、皆が襲われました……」

「どういうこと!? 

 貴女とシスターテルマは確か、最北のノースエンドの村に派遣された筈よね?」

「はい、今日の夕方まで、何の変哲もない、神の愛に満ちた日常でした……。

 ……それが、それが急に!!」

 情緒が不安定なのか、涙を浮かべしゃくり上げる。

 無理もあるまい、私と同年か幾分幼いくらいの年頃だ。

 普通の日々を過ごしていたならば、あんな傷を負うこともあるまい。

「落ち着いて。ゆっくりでいいから……事情を聞かせてくれる?」

 血で汚れるのも構わず、安心させるようにサリアを抱き締め、その髪を撫でる。

 胸元で嗚咽を漏らしていたサリアも徐々に落ち着きを取り戻してきた。

「はい、本当に急だったんです。

 シスターと夕食前の神への祈りを捧げていたら、大きな悲鳴が聞こえて。

 急いで外に出たら、皆が……虚ろな顔をして歩いてて……

 その歩みを止めようとした人達が次々と化け物に襲われて……

 わたくし達も突如襲われて……

 シスターが「転移で逃げなさい、早く!」って叫んで……

 咄嗟に浮かんだのが、以前遊びに来た本拠地ここしかなくて……

 ごめん、ごめんなさい……」

 巻き込んだ事と村の惨状を思い返したのか、再び震え涙を浮かべる。

「大丈夫よ、安心して。わたしの傍にいる限りは絶対に貴女を守るから。

 それで、どんな化け物だったの? ゴブリン? オーガ?」

 これは重要な質問だ。

 その返答によって対策も戦い方も変わってくる。

「いえ、わたくしが知るありとあらゆる妖魔とも違います。

 あれは……あの異形の姿はまるで、古に封じられし……」

 そこで口を閉ざすサリア。

 だが、ミラナさんは強い決意を瞳に秘め尋ねる。

「見たのね、サリア」

「はい、姉さま。でも、そんな筈が……

 彼のモノ達は「神々の黄昏ラグナロードの地」に封じられている筈。

 そんな馬鹿な事は……」

「まだ推測でしかないけど、多分間違いない」

 ゆっくりと立ち上がり、

「メルファリア、各機関とエメリアへ救援の伝達を!」

「もう施行中です、とメルファリは即答します」

 運命石で出来たカフスで<囁き>を行いながら答えるメル。

「流石ね……それとアメちゃん、シャスくん。力を貸してくれる?

 これからすぐにでも救援に向かいたいの」

「勿論。ミラナが求めるならいつでも」

「同じく」

「ありがとう。恩に着るわ」

 唇を噛み締め、頭を下げる。

「それでミラナ、もしかして襲撃者って……」

「ええ、恐らく間違いないわ。

 サーフォレム魔導学院の漆黒の魔人が危惧していたことがついに始まった。

 伝承にいう「神々の呪縛を受けし異形の精神生命体」即ち」

 息をつき、

「『魔族』よ」



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