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10章 表示する力量

「ただいま~」

「ただいま戻りました~」

 薄暗い闇の帳が舞い降り、誰彼の顔も見分け辛くなる、まさに黄昏時。

 私はミラナさんに促され、本拠地ホームの扉を少し照れながら開けて声を掛ける。

 暖かい暖炉と燭台の明かり。

 食欲を誘う美味しそうな夕食の香り。

(ああ、だからホームなのか……)

 静かで安寧とした空間。

 調和に満ちたこの空間に軽い郷愁ホームシックを感じる。

「おかえり~デートはどうだったー?」」

「おかえりなさい、二人とも。

 王都探索の首尾はいかがでしたか、とメルファリアは質問します」

 今朝方に比べ若干顔色が良くなったものの、相変わらずテーブルへぬいぐるみの様に

突っ伏し(タレ)たままなのに、ニマニマした笑顔でアメトリさんが。

 グラスを磨く手を止める事無く、バーテンダーにも似た服装に着替えてるメルが同時に返答する。

 そして互いを見やり

「なに言ってんの、メル」

「貴女こそ、そのゴシップ好きなところは何とかなりませんか、とメルファリアは忠告します」

「だって年頃の男女なんだよーいいじゃん、妄想くらい」

「あのねーシャスくんが困ってるでしょ?

 今日はわたしの我儘に付き合ってもらったんだもん。

 むしろお礼をいうのはわたしの方よ」

「いや、僕…じゃなく私も楽しかったですよ。主要施設に顔通しも出来たし」

 半日を振り返る。

 王都にある冒険者組合や魔術協会等への挨拶。

 装備や魔道具等の良品店の紹介。

 今日一日で得たものは限りなく大きい。

 いや、照れ隠しはよそう。

 ミラナさんと散策し過ごした時間。

 無心に帰り、純粋に楽しかった。

「はあ……シャスティア君はミラナルート一直線か~。

 結構タイプだったけど、フラグ立たないキャラだねーきっと」

 魔術用語の暗号(暗喩?)だろうか?

 意味不明な単語を交え、項垂れながら呟くアメトリさん。

「それは重畳でした。では、シャスティア。

 エメリアからも頼まれていることですし、夕食前に少しお時間をよろしいですか?」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 これからの事だろう。促されるまま席に腰掛ける。

 対面にメルが座り、その奥にミラナさん。

 何だか面接みたいで緊張する。

 いつもの無表情ぶりにキリっとした交渉人としての佇まいを残し、メルがゆっくりと口を開く。

「ではシャスティア。これから貴方の事を少々調べたいと思います。

 まず初期表示で構いませんので、冒険者カードを提示して頂けますか?」

「は、はい」

 冒険者なら誰しもが持つカードに軽く魔力を通し、自己証明と認識を行うと共に記載内容を表示させる。

 冒険者カードとは冒険者組合に属する際に発行される薄い魔導銀のプレートである。

 持ち主の力を常に読み取り、自らのレベルやクラス、能力値や装備、奥の手であるスキルなども表示される。

 よって表示を行う際には本人の意思と魔力が必要となる。

 希少価値もあるプレートなので、冒険者となった初心者の一番目の仕事はプレートを盗まれない事であると豪語する者もいるくらいだ(再発行はかなり難しい)。

 初期表示とはレベルやクラス、能力値のみをプレートに映し出すことが出来るモードである。

 依頼を受ける際にもよく要望されるので、特に拒否感はない。

「では失礼します、ネーム「シャスティア・ノルン」。

 クラスは「アーチャー」、レベルは……「76」! ですって!!」

 メルが驚いたように声をあげる。

「あの、何か問題が……?」

「大ありです。シャスティア、何ですかこのレベルは?」

「その……一生懸命頑張って上げたんですけど、ギルドに入るには低過ぎますか……?」

「逆です。貴方はこの王都の高位冒険者の平均レベルをご存知ですか?」

「いえ、知りません」

「80、です。王都最強クラスのエメリアでさえそのレベルは92。

 貴方は冒険者となって1年半で王国最高峰の冒険者達に並び立とうとしてるんですよ?

 どれほどの修練を積んだのだか知りませんが、少しは異常を自覚できますか?」

「いえ……その、すみません」

 憤然とするするメルに何故か平謝りをしてしまう。

「そうなのよね~シャスくん。実はかなりの実力者レベルなのよね」

 苦笑するミラナさん。

「ミラナ……貴女、知っていましたね?」

「ええ、今日一緒に挨拶回りに行った時にね。

 わたしも驚いたんだもん。

 メルの驚くとこも見たいな~って」

「なかなか良い性格をしてますね、貴女も」

 こめかみに指を添え、ジト目になるメル。

「大陸最高の魔術師「漆黒の魔人」や「顕刃の剣士」とも交渉してきたメルでも、思わぬ角度から攻められるとびっくりするよねー」

 とアメトリさんも同意している。

「まあ、レベルが高いのは問題ありません。

 正直驚きましたが、新たな仲間を迎える上では歓迎すべき事でしょう。

 問題なのはシャスティア、貴方の能力値です」

 言ってプレートを反転させ私に見せ返す。

「筋力C 体力C 魔力D 

 AからFまである力量表示の内、これくらいは常識の範囲内だから理解できます。

 ですが 器用A 敏捷A+ そして 精神(意志)S! 

 何ですか、このふざけた表示は!!

 エメリアでさえ能力値の最高はA+です。

 プレートの誤植でないなら生体魔力を感知する機能そのものが壊れているのかと疑うくらいです」

 ますます苛立つような言動。

「これらの事象を的確に判断するに、シャスティア。

 貴方が騙っているのでなければ、貴方は歴代でも最速に近い、

 1年半でBBダブルクラスに値する冒険者です」

 どこか疲れたように告げるメルであった。


 

 

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書き溜めた分はここで終了となりますが、これからも頑張って

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