9章 散策する王都
「ここが王都の商店街を象徴する鈴蘭通り。
そんなに広くはないけど、主だった物はほとんどここで調達できるわ。
ほら、道の端々に鈴蘭が植えられているでしょ?
あ、あそこに見えるのが武具で有名なボルタック商店。
冒険者の足元を見る阿漕なやり方なので、別名ボッタクリ商店ともいうけど。
あとそこの屋台で売ってるクレープがすっごく美味しくの!
生クリームが多くて……少し食べ過ぎちゃうのが玉に瑕かな」
私の一歩先を歩きながら、楽しそうに王都を案内してくれるミラナさん。
小春日和の陽光が降り注ぐ中、冬の到来を告げる風が時折彼女の黒髪をくすぐる。
以前隊商の護衛で王都を訪れた時は、こんなに周りを見渡す余裕もなく王都を離れた。
徐々に賑わい始めた街。
逸れない様に気をつけつつ彼女の後姿を追う。
つい数日前に死闘を繰り広げたのが嘘のような穏やかさ。
突如脳裏にルナとレーヌの姿が浮かび、胸を締め付けるかのような衝動に駆られる。
「シャスくん? 大丈夫?」
反応がなくなったのを感じ取り、ミラナさんは振り返り心配そうに尋ねてきた。
「ええ、大丈夫です。
ただ……何だか申し訳ない気がして」
「……激戦の後だもん。まだ思考と身体が落ち着かないと思う。
それに二人の事もまだ気に病んでいるのでしょう?
シャスくんは……優しいから。
でも、今は静養するのが大事。ね?」
「頭では理解してます。けど……」
「もう~わたしと出歩くのはつまらない?」
「そんなこと!!」
少し頬を膨らませ、上目遣いに私を見上げるミラナさん。
そしておもむろに、
「えい」
と私の手を握る。
「な! え、あの」
「あはは♪ やっと素のシャスくんになったね。
……無理しなくていいんだよ?
君の強さも、弱さも、全てをひっくるめてみ~んな君なんだから。
仲間と離れて寂しい、心配。
それは当然。
でも……前を見て歩かなきゃ、あの娘達に怒られちゃうよ」
「そう……ですね。確かにその通りだ」
脳裏のルナが「やっと分かったのかい、坊や」と苦笑し、レーヌに至っては「愚鈍を通り越して大馬鹿ですぅ~猛省すべきですぅ~」と私を攻め立てていた。
「ありがとう、ミラナさん」
彼女の目をしっかりと見つめ、頭を下げる。
「うん。わたしも元気なシャスくんを見たいな。
だけどさっきまでの袖のない反応は許せない。
シャスくんが飽きるまで、もっと付き合ってもらうからね」
悪戯めいた笑みを浮かべ手を引くミラナさん。
私は……僕はやっと愛想でない笑みを返し、その手を握り返した。