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短編小説

実は引きこもりだったシンデレラ

作者: うわの空

 むかしむかし、あるところに引きこもりの美少女がいました。

 彼女の名前は、シンデレラ。

 彼女は人目が怖くて、外に出ることができません。

 いつも暗い顔で下を向きながら、家の中で過ごしていました。


 優しかった母親は、彼女が幼いころに病気で死んでしまいました。

 その後父親は再婚し、継母と2人の姉がシンデレラの屋敷にやってきました。

 その継母は、父親が死ぬと本性を表し始めました。

 継母は自分の娘たちだけを可愛がり、シンデレラのことを召使のように扱ったのです。

「シンデレラ!ご飯はできたのかい!?」

「シンデレラ!屋敷にホコリがたまってるじゃないか!」

 継母と義理の姉たちは、彼女にいつも雑用を押しつけてきます。

 気の弱いシンデレラはそれを断ることもできず、毎日毎日家の中で雑用をして過ごしていました。



 そんなある日。お城で舞踏会が開かられるという案内が、屋敷に舞い込んできました。

 義理の姉たちは大はしゃぎ。きれいなドレスをあれこれ試着してみては、王子様と踊る練習をしています。それを横目に見ていたシンデレラに向かって、

「シンデレラ。あんたは来なくていいんだからね。あ、来れないか。外に出るのが怖いんだもんね?あはははは」

「シンデレラ。あんたは来なくていいわよ。あんたみたいな奴が家に寄生してるって知られたら、私たちが王子様に嫌われちゃうわ!あ、その前に外に出られないんだっけ?あはははは」

 義理の姉たちはそんなことを言って、シンデレラを馬鹿にしました。


 シンデレラは悔しくて、涙を流しました。

 けれどもどうしても怖くて、外に出ることができません。



 舞踏会当日、継母は言いました。

「あんたはここで雑用をやってなさい。私たちが家に帰ってくることろには、仕事を全部済ませておくんだよ!」

 そう言い残すと、継母と義理の姉たちは王子様のいるお城へと向かいました。


「もしも私があそこに行けたなら、何か変わるかしら…」

 仕事が一段落したシンデレラは屋敷の窓からお城を見て、溜息をつきました。

「…違うわ。私が変わらなきゃ。屋敷ここから一歩でも外に出られるように、ならなきゃ」

 シンデレラは、お城に向かう自分の姿を想像しました。きっとお城の中には、たくさんの人がいるでしょう。それを考えただけで、シンデレラの足はすくんでしまいます。

 外に出るのは、どうしても怖いのです。

「…残りの雑用をやっておかなくちゃ」

 シンデレラはふらふらと、キッチンへ向って歩き出しました。そんな時でした。


『おまえも舞踏会に行ってみなさい』


 シンデレラの目の前に、ふくよかな体格の魔法使いが現れました。


「ひっ!」

 他人が怖いシンデレラは、いきなり出てきた魔法使いを見て尻もちをつきました。そんな彼女を見て、魔法使いは優しく微笑みました。


『大丈夫ですよ、シンデレラ。私があなたに魔法をかけてあげましょう。私の魔法にかかってる間だけ、あなたは人の視線が怖くなくなるでしょう。ただし、魔法は12時で解けてしまうの。それまでに屋敷に帰ってきなさい。残りの雑用は、私がやっておいてあげるから』


 そう言うと、魔法使いはシンデレラに魔法をかけました。


 魔法をかけられたシンデレラは、ぱっと明るい顔をしました。

「…本当だわ。なんだか、人のことが怖くない!」

 シンデレラは急いで、ドレスの支度をしました。もしも自分も舞踏会に行けたならと、自分で作っていた立派なドレスがあったのです。ところが、

「…ちょうどいい、靴がないわ」

 長い間引きこもっていた彼女は、成長した自分の足に合う靴を持っていませんでした。彼女は昔の靴を色々と引っ張り出し、

「…これならなんとか履けるわ」

 小さな靴のかかとを踏んで、舞踏会へと向かいました。



 舞踏会に向かうと、美人のシンデレラは王子様に声をかけられました。そしてたくさんの人の前で、王子様と踊りました。魔法にかかっているシンデレラは、皆から注目されても怖いとも何とも思いません。

 義理の姉たちは、王子さまと踊っている美しい女性が、引きこもりのシンデレラだとは夢にも思いませんでした。


 夢のような時間は、あっという間に過ぎていきました。


 やがて、鐘のなる音が聞こえました。その音は、12時になるという合図です。

 魔法の解けたシンデレラは、周りを見回して青ざめました。たくさんの人が、こちらを見ているのです。シンデレラは恐怖に耐えきれず、引き止める王子様を振り払って走りだしました。

 

 逃げる途中、かかとを踏んでいた小さな靴を片方だけ落としてしまいましたが、魔法の解けたシンデレラには拾う余裕なんてありませんでした。



 後日、王子様とその侍従が、シンデレラの屋敷にやってきました。侍従が持っているのは、シンデレラの落としてしまった小さな靴です。

「この靴を履ける、もしくはもう片方を持っている人物を探しているのですが…」

 侍従が言うと、継母は眉をひそめました。

「そんな古めかしい小さな靴…」

 そこまで言ってから継母は何かを思いつき、義理の姉たちを呼びだしました。そして、王子様たちには聞こえないよう小さな声で言いました。

「なんとしてでも、あの靴を履きなさい。そうすれば、王子様と結婚できるわ!」

 義理の姉たちは頷くと、小さな靴に挑戦し始めました。


 その様子を、シンデレラは後ろから誰にも気づかれないよう覗いていました。その手には、もう片方の小さな靴。

 この靴を持って王子様のところに行けば、そうすれば…!

 けれども魔法の解けたシンデレラは、王子様も、王子様の侍従と会うのも怖くて仕方ありません。シンデレラは涙をこらえながら、義理の姉たちが靴を履こうと悪戦苦闘している様子を静かに見守っていました。 


 結局、義理の姉たちは小さな靴を履くことができませんでした。

「この屋敷に、他に女性はいませんか?」

 王子様の質問に、継母は少しだけ考えてから

「いいえ?他にはだれも」

 意地の悪い笑顔で、そう言いました。それを後ろから見ていたシンデレラは、小さな靴をきつく握りしめました。


 私が、言わなくちゃ。

 私が、外に出なくちゃ。

 

 シンデレラは一歩、外に踏み出そうとして躊躇しました。王子様が、侍従が、外が、怖くて仕方ありません。シンデレラは震えながら、それでも


 …私が、変わらなくちゃ!


 前へと、外へと歩き出しました。



「あ、あの、王子様…」

 シンデレラのその小さな声を、王子様は聞き逃しませんでした。奥から出てきたシンデレラを見て、継母と義理の姉たちはぎょっとしました。シンデレラはそんな3人には気づかないふりをして、王子様から少しだけ視線をそらしながら、小さな声で話し始めました。それが、彼女の精一杯でした。

「あのとき王子様と一緒に踊っていただいたのは、…そして、その靴を落としたのは私、なんです。これが、もう片方の靴です…」

 シンデレラが握りしめているもう片方の靴と、シンデレラの顔を見て、王子様はあのときの美しい女性がシンデレラだと確信しました。

「…あなたをずっと、探していましたよ」

 シンデレラが顔を上げると、そこには王子様の優しい笑顔がありました。



 シンデレラは震えながらも、王子様と一緒に屋敷の外へと踏み出しました。

 久しぶりに見る大きな空には、きれいな虹が、かかっていました。

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