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知らない気持ち①

 

 ラブコメといえば、何が思い浮かぶだろうか。

 美少女転校生との新たな出会い、幼馴染との気持ちのすれ違い、陰キャの大逆転人生。確かにそれは世界のどこかに転がっていて、俺は見たことなんてないがそんなのは運勢の問題。じゃあ要は、俺に書けるラブコメってのは、大逆転もハーレムエンドもクソもない、平凡な恋愛話くらいだろう。



 「あんたさあ、何書いてんの?」


 高校2年の春、ある休み時間に俺はある女子に話しかけられていた。 

知ってるか?女子に話しかけられることなんて現実じゃずっと面倒臭いことだって。俺は目の前に立っている女子をすっと睨みつけた。


 「お前に関係ねえだろ。」


 そう言った後、その女子の顔を見て反省の心が膨れ上がった。

 俺に笑顔で話しかけてくれた錦桃李にしきとうり。俺が突っぱねてしまったせいでその笑顔は引いていった。 そして桃李も俺を睨み返した。


 「あっそ......。」


 それだけ言っていつもの女子グループに戻っていった。


 情けねえ......。こんなしょうもないことで他人に当たって何がしたいんだ俺。小説を打つ手が早まった。

 やっぱり俺の文は多分現実逃避のためにある。

 こんな時まで、周りの人から冷たい目を感じるこの時まで文を打つ手が止まらないって言うのは、文を書いているのをバレるのが恥ずかしいながらに、自分が先ほどしてしまった行動を忘れたいからだ。


 俺の休み時間は誰と話すこともなくすぐ終わる。金にもならないこんな趣味に時間を費やして。

 ちょうどそんな趣味にも飽きがきてしまっていた。


 「付き合ってください!」


 だから放課後、あのシーンを見た時、今までに感じたことのなかった新たな興奮が、俺を襲ったのである。



 「よお恭弥きょうや、今日は珍しく随分と早い登校だな。」

 「いや〜、昨日寝れなくてさ。」


 佐藤淳也さとうあつや、俺の唯一の親友にして生徒会長。そして俺の所属する文芸部の部長を務めてくれているめっちゃいいやつである。


 「寝れないって......。珍しいな。なんかあったのか?」

 「いや.......別に何にもなかったよ。」

 「何だよ面白そうだったのに、教えてくれてもいいだろ?」

 「いや、普通に無理。」


 桃李が告白されているのを見て変な興奮に包まれただなんて、そんな変態みたいなこと言えるわけがないだろ、まず自分でもよくわかんないし。

 でも、確かな興奮を感じて、昨日は徹夜で文章を書いちまったんだよな。


 「何だかおかしなやつだ。何グヘグヘ笑ってんだ?」

 「違うし、別に笑ってないし。」

 

 『変なやつ』淳也の独り言は思いっきり僕に聞こえていた。ちなみに結構傷ついた。


 俺たちはいつもこんな感じ、互いに一番に気にかける仲の良い関係を作り上げることができていて、この親友がいるからこそ俺は安心してぼっちの学校生活を送れると言うわけだ。


 いつも通り登校しているわけだが珍しく重い空気が流れた。淳也は何か悩んだ顔をしていたのだが心を決めたかのように俺に話しかけた。


 「そういえば恭弥、聞きたいことがあったんだ。」

 

 珍しいな、質問なんて。

 神妙な顔つきをしている淳也によほど大事な話なんだろうと悟る。何の話だろうか。


 「ああ、どうした?」

 「その、昨日桃李が告白されてるのを見ちまってよ。」


 ぶふぉっt。

 昨日から心に留まっていた話を急に親友から出されつい口から汚いものが出ちまった。


 「あ、ああ。......そっか。まあやっぱあいつモテるもんな。」


 親友から話されるとは思っても見なかった急な話題に僕は平常心を保てず一旦立ち止まって呼吸を落ち着かせた。


 「どうした?やっぱ変だぞお前。」

 「いや、いいんだ。淳也話を続けてくれ。」


 これ以上攻められるとボロが出ちまいそうだ。


 「まあいいけど。そんでお前はどう思ったんだ?」

  

 何でこいつこんな鋭いんだよ!もしかして俺が寝不足な理由バレてんのか?

 

 「いや、別に何とも。」

 「.......ん、そっか。」


 淳也はやはり下を向いて何か考え込んでいる。もしや俺の興奮がバレたのかと思ったが違うようで少し安心だ。


 「俺、立花りっかが好きなんだ。」


 「.......は?」


 急な淳也の告白に俺は固まった。これか、さっきから思い悩んでたのは。いや......立花?あの立花が好きなのか?

  

 「正直立花はモテるだろ?めっちゃ告られてるし、いつも嫉妬しちまうんだ。多分これは好きってことなんだろうなと思って恭弥にも聞いてみたってわけだ。で、どうだ?やっぱ嫉妬とかしちまうか?幼馴染だから。」

 「俺と桃李はお前らほどの幼馴染ってわけじゃねえけどな。嫉妬とかはないよ。でもやっぱずっと小さい頃から一緒にいる恭弥と立花からしたら嫉妬しちまうってこともあるんじゃないか?」

 「じゃあ、俺はまだ立花が好きってわけじゃないかも知れねえってことか、そっか焦りすぎてたわ。」


 隣で納得する親友にこれでよかったのだろうかと思う。多分こいつは立花のことが好きだ、でも親友として立花と付き合うと言うのはやめてほしかった。立花は確かにいいやつだ。でも男癖が悪い。今までの男も浮気でつくづく振られてきたぐらいにしてあまりおすすめはできなかった。立花は告白を絶対受けると言うことでも有名だしとにかくおすすめはできなかった。


 「一旦、自分の気持ちを確かめ切れてからの方がいいんじゃないか?」

 「そうだな、そうするよ。」


 俺の一存でもしかしたら立花とカップルになっていたのかも知れない。そう思ったら何とも居た堪れなかったが、まだ時間はある。多分間違いない判断なはずだ。

 とぼとぼと歩く淳也に歩幅を合わせてゆっくり歩いていると前にうちの高校の制服の女子二人が見えた。


 「おい恭弥!淳也!遅いよもうっ!」

 「まあ、あいつらはいつものことだけどね。」


 そう、俺の昔からの女友達である、茶髪をいつもポニーテールにまとめ、運動神経抜群、明るく元気で活発の可愛い系女子、錦桃李と、先ほど話題に上がった金髪ロングでギャルっぽさがあるが成績優秀、大人で男グセの悪い橘立花たちばなりっか、その人である。


 「おはよ。」

 「うんおはよう。」

 

 何か圧を感じる挨拶だ。なんだ桃李のやつ。


 「桃李は遅刻したってのに謝罪の一つもないのか?って言ってるんだよ恭弥。」

 「な、何言ってんの立花!私ちょっとそれは思ったけどあえて言わなかったんじゃない!」

 「ふ〜ん。態度にはめっちゃ出てたけどね。」


 朝、この交差点で合流すると一気に騒がしくなる。桃李はコミュ力お化けで通りがかりの先輩なんかにもよく挨拶するぐらいにして、それと聞き上手な立花が合わされば話題なんて尽きないのだ。


 「二人は本当に仲がいいよな。」

 

 何だか珍しく淳也がため息をついた。まあ言わんとしてることはわかるのだが。もうちょい俺に相談したいことがあったとか、そんなとこだろう。


 「なあに淳也?珍しく元気ないね、火曜の朝なんてめっちゃ気分あがんないんだからもっと元気に行こうよ元気に。」

 「淳也のことだし昨日徹夜でアニメでもみてたんじゃない?ずっと明かりついてたし。」

 「......そんなことねえよ。」

 「いやあ、そんなとこでしょう。淳也の生態なんて私たちにはお見通しなんだから。」

 「......あぁ?」

 「いや何でそんなに喧嘩腰なの!」


 淳也は立花と話すのに少し緊張していたようだったが普段通り話せたことで緊張が解けて元気が出たようだった。心配かけてくれんなよ本当。


 「それで恭弥の方は......それこそ寝不足そうだね〜。」

 「いや、そんなことはねえよ。」

 「とか言っちゃって!顔色悪いよ?」

 

 近い!桃李の顔が近くて不覚にもドキッとしてしまった。まあこんなのにも慣れたもので最近は何とも思わなくなっていたのだが、多分あれだ、昨日の告白の時の桃李の顔が脳裏にちらついてしまったからだ。


 「昨日桃李に強く言っちゃったの反省してて気まずいから話しづらそうにしてんじゃないの?」

 「.......いや流石に違うでしょ。あんなこと気にされても困るよ、だって学校で話しかけると同級生がうるさいとかで会話禁止されてる中で私が話しかけたんだから私が悪いんだし。」


 私が悪いなどと言いながら前を歩いている桃李はあまり反省してる感じはしなかったが......。昨日のは正直俺が悪い、昔から仲良くしてくれてる桃李相手だからといってあんなに突っぱねるのはよくなかった。

 親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったものだ。実際昔から俺の青春に花を添えてくれているのはこいつだし。


 「いや、俺が悪かったよ。あんな突っぱねるつもりはなかった。」

 「ふ〜ん。」


 俺が素直に謝るとは思っていなかったのか何か俺を疑うような目線を向けてきた桃李だったが不意にニコッと笑ったので、つい目を逸らしてしまった。

  

 「今日は可愛いじゃんあんた。何の変化があったんだか知らないけど。」


 桃李は嫌なやつだ。男子高校生にとっちゃ可愛いだなんて一切褒め言葉ではない。


 「......何だお前。」


 俺は精一杯言い返したが


 「恭弥珍しいね。ガチで照れてんじゃん。」


 と、立花に笑われてしまった。


 やっぱ俺も昨日からおかしいのかも知れない。昨日桃李が告白されているのをみてからと言うものずっと心をギュッと握られている感触がしていた。

 桃李のあの顔、みたことない顔だったな。


 会話がひと段落して立花と話す桃李の顔を少しの間見ていた。やっぱり昨日の表情はあいつの今日の顔とは、いつもの顔とは少し違っていた。


 

 「恭弥、ご飯一緒に食べない?」

 「......立花。」


 昼休み、思ってもみなかったやつに声をかけられた。


 「何?恭弥もしかして誰か期待してた?」

 「......いや。」

 「何だ。冷たいやつ。」


 無言で立花は少しの間俺をじっと眺めていたが何か思い立ったかのように僕の手を取った。

 

 「ほら!行くよ!」


 彼女に手を引かれ、やれやれとついていく。校庭からはサッカーをする元気な男子高校生の声が響いていた。


 「それで、どうしたの?こんな急に声かけてきて。」

 「いや、いっつも話してんじゃん別に不思議なことでもないでしょ?」

 「......まあ、互いにおまけみたいな。」

 「へえ?幼馴染愛強いもんね恭弥くんは。」

 「.......え?」

 「いや〜桃李もいい幼馴染を持ったよな、私とは違って。」

 

 立花に連れられて屋上に来た。そしたら急に変なことを喋り出した。

 立花は遠く向こうを見て悲しそうに、誰か俺とは違う何かに語りかけるようにそんなことを口ずさんだ。


 「......で、そんなことで呼び出したの?というか実際違うよ、俺はそんなに桃李への愛なんてないし。」

 「ああ、そっか。」

 

 立花は残念そうに俺に目を向けた。何か普段とは違ういやらしい目線にが震えた。


 「......桃李、付き合うんだって。」

 「え?」


 何だかよくわからないが急に突きつけられた現実に驚きを隠せなかった。

 桃李に彼氏?いやそんな様子はなかったしあんな普段通りだなんてことあるのか?

 

 「......まさか、嘘でしょ桃李に限ってそんなわけないでしょ?」

 「へえ?やけに自信があるようで。」


 立花は不敵な笑みを浮かべる。

 

 「昨日告白されているのを覗き見ていたようだけどね。」

 「......何でそんなことを知って!!」

 「やっぱりか〜、だと思ったんだよね。」

 

 立花はまたしてやったりとこっちを見た。これは別にその場面を見たと言うわけではないようだ、はめられたと言うことだろう。


 「それで動揺してんでしょあんた。可愛いとこあんじゃん。」

 「......そんなに態度に出てた?」

 「うん結構はっきりと。」

 「......まじか。」  


 よりにもよってこの女にバレるとは。嫌な予感しかしない。 

 

 「そんじゃ〜さ、手伝ってあげる。あんたが桃李と付き合うの。」

 「え?何で急にそんなこと。それに桃李は彼氏ができたんじゃないの?」

 「......な訳ないじゃん。嘘だよ〜??」


 こりゃまたなんだこいつは。訳のわからないことを言い出した。全くそんなしょうもない嘘をついて何がしたいと言うんだ。

 何が面白いのかよくわからないが笑っている立花を少しの間、美味しい外の空気を吸いながらじっと見ていた。

 いつもとは違う立花の様子。普段はこんな感じじゃない、もっと清楚系なやつなのだ。それが何でこんな話にになってるんだ。


 そして俺は思った。俺の周りの女子は、なぜこうもまともなのがいないのだろうか。と



 少し経って

 

 「おお、遅かったね恭弥。」

 「......ああ、少し遅れたよ。」


 ちなみにこいつだ。俺の周りで一番まともじゃない女。錦桃李にしきとうり、先ほど紹介したように俺の幼馴染、そして多重人格のひどいやつである。

 あのあと昼休みは弁当を食べて過ごして五、六時間目は何となく終わり、一直線に帰宅して今ここである。

 俺の幼馴染様は偉そうにうちの冷凍庫にあったであろうソーダ味の棒アイスを口に頬張っていた。絵面だけは本当に絵になる。やってることは下劣なのだが。


 「恭弥!」

 「いてっ......!何だよ。」

 

 急に背中をバシンっと殴られた、アイスを食べ終わってダル絡みにきたとか、そんなとこだろう。こいつの力は男並みなので俺は冷静に対応できるほどにまともではいない。ただ、俺には作戦があった

 

 「桃李っ!毎度毎度なんなんだよっ。」

 「あひゃひゃひゃひゃっ。くすぐったいって〜、恭弥〜勘弁して〜!」


 押し倒してこちょこちょしてやる。こいつはこちょこちょにめっちゃ弱い。反応もいいしやってやりたくなるのもそうなのだが、何かやられた時はいつもこうやってやり返してやっている。


 「......ふう〜、やっと終わったよもうこちょこちょ好きなんだから。」

 「桃李が俺の家で毎度毎度好き勝手するからだろうがっ!」


 ああ、特大な違和感の正体はこれか。俺はついに気づいてしまった。

 ここまで見てきて思っただろう、そう、俺が最初に桃李にあんな反応をしたのもあれが本当の桃李ではないと知っているからである。こんなクソガキ相手にしたくはない、学校で話しかけられたくないのもそんな理由だ。

 彼女の横顔を見て思う、何であの告白を見た後彼女のことが引っかかったのだろうって、でもそんなのはわかっている。確かに美しいがそう言う柄じゃない、そう、そうなのだ。俺が思い描くラブコメのヒロインはこいつじゃない、幼馴染の家に入り浸って勝手に冷凍庫を漁るようなやつじゃない、俺が描く理想論ラブコメのヒロインは、恋愛ってもんは、

 

 「こんなやつがやるもんじゃないっ!」

 「......急にどうした?」


 そう言うことなのだ。

 


 

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