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リピート  作者: 羽越世雌
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プロローグ

 十二月五日(月)五時五十分、夜明け前の道路をゆっくりと車を走らせている。自宅を五時二十分に出て、途中コンビニに立ち寄り、雑誌や食料を購入し、職場に向かう。あと五分くらいで到着する。この季節、夜明けにはまだ一時間以上もある。車は少なく、ストレス無く運転できるので、この時間に出勤する。職場に1番乗りをし、他の人が来るまでの間、仕事に集中することにしている。今日は雪交じりの雨が早朝から降っていて、視界がよくない。音楽を聴きながら、いつもの経路で車を走らせていると、飛火野にさしかかってきた。

 奈良公園内の春日大社の西側に位置する広大な芝生が広がる空間である。昔も今も奈良を愛する人々のくつろぎの場所。今は暗くて何も見えないが、季節ごとにすばらしい景色が広がる。特に冬、雪が積もったり、霜が降りた朝の風景は一見の価値がある。その飛火野を左手に道路が北から南へ縦断している。また、右手には和歌にも頻繁に登場する、浅茅が原と呼ばれる園地が広がっている。木々が生い茂る傾斜地を中心に、奈良公園内唯一の梅の名所片岡梅林、また美しい鷺池に浮かぶ浮見堂なども含めたエリアとなっていて、奈良公園内随一の景勝地とも言える空間となっている。

 ワイパーが作動した直後、突然、左前方のヘッドライトの灯り端で何かが動いた。「あっ。」反射的にブレーキに足が動く。案の定、鹿が一頭飛び出してきた。奈良ではたまにあるアクシデントである。慣れたもので難なく回避できると思った瞬間に、「えっ。」更に車の直前にもう1頭。フルブレーキをかけるが間に合わない。衝撃があり、車が急停車。

 その鹿は見たことも無い真白な鹿。確かに目が合った。真っ赤な目でこちらを見ていた。急いで外に出で状況を確認するが、衝突したはずの白い鹿の姿はどこにも無かった。私はしばらくの間ヘッドライトの光の中で雪交じりの雨の中に打たれながら、呆然と立ち尽くしていた。



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