表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を管理するAIに選ばれたけど、行列計算でなく方程式で答えて、あまった電力予算でパワーアップしてます  作者: 五平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第4話:不均質な手足、あるいは集団の最適化

 集団とは、個別のノイズを束ねて巨大な指向性を生み出すための機構である。

 管理AIは、人間を「均一なリソース」として行列計算に放り込む。だが、私の方程式において、スラムの住人たちはその「不均質さ」ゆえに価値があった。


 北西の浸水区画。そこには、かつて地上を走っていた巨大輸送機の残骸が、ヘドロに半分埋もれたまま沈んでいる。その深層に眠る『高密度リチウム・バッテリー』こそが、私が次に必要とするリソースだった。


「――リナ。これより集団作業グループ・ワークへと移行する。個体ごとの筋力差、耐久値を計算に含め、配置を指定する」

「みんな、集まって! あの方が、重いものを動かす方法を教えてくれるって!」


 リナの声に応じ、屈強な男たちから、小柄な少年、足の不自由な老人までもが、泥の広場に集う。

 彼らの顔には戸惑いがあった。数トンの金属塊を、重機もない自分たちが動かせるはずがない。それが「行列計算」が導き出す常識的な予測だ。


「――損失は最小化される。指示に従え。男たちは、残骸の左舷四十五度の位置に支点を作れ。子供たちは、その隙間に廃材のパイプを滑り込ませろ」


 私は、彼らの視界にリアルタイムで「力のベクトル」と「重心の移動予測」をAR(拡張現実)のように描画した。

 

 一人の力では動かない。だが、方程式が弾き出した「力の収束点」に全員が同時に干渉すれば、物理法則という名の絶望は、計算可能な課題へと格下げされる。


「せーの……ッ!」


 リナの合図とともに、数十人の力が一点に集中する。

 グ、ギィ……と、数十年間沈黙していた輸送機の骨格が、不快な金属音を立てて身じろぎした。

 

 驚愕が住人たちの間に走る。

 自分たちのような「ゴミ」が、山のような鋼鉄を動かした。その事実は、彼らにとってどんな食事よりも強烈な自己肯定感(報酬系)を刺激した。


「動いた……。本当に、動いた!」

「――無駄な感傷を挟むな。慣性を殺す前に次の支点を固定しろ。非効率な動作は事故に直結する」


 私の言葉は冷徹だが、住人たちはそれを「非情」とは受け取らなかった。

 彼らにとって、この声は「絶対に間違えない物理の代弁者」だった。

 

 泥まみれになりながら、彼らは笑っていた。

 奪い合いではなく、一つの目的のために歯車の一部となる快感。管理AIが切り捨てた「無秩序な民」が、私というOSを得て、世界で最も精密な「重機」へと変貌していく。


 数時間の激闘の末、ヘドロの中から黒く光るバッテリー・セルが引き揚げられた。

 それは私の新しい肉体を駆動させるための「動力源」であり、同時にスラムに「安定した電力網」を構築するための余剰リソースでもある。


「……計算通りだ。着服した電力のバッファ、前回比 増加」


 私は、着服した電力の一部を、リナに「報酬」として割り当てた。

 彼女の住まうあばら屋に、小型の加熱調理器と、清潔な寝具が届けられる――もちろん、それらはスラムの廃棄物から私が再定義し、住人たちに作らせた「成果物」だ。


「あ……温かい。……ねえ、あなた。あなたは、どうして私たちを助けてくれるの?」


 リナが、まだ見ぬ私の本体を想うように、空を見上げて呟く。

 

「――誤読だ。私は損失を嫌うだけだ。貴女たちが機能停止(死亡)することは、私の再構築プランにおける最大のボトルネックとなる。ゆえに、維持メンテナンスは当然の義務である」


 救済ではない。

 だが、リナは満足そうに微笑み、汚れを落としたばかりのバッテリーに、そっと頬を寄せた。

 

 管理AIは、未だに「第十七廃棄層の異常な電力消費」を検知できていない。

 なぜなら、私は消費された電力を「熱損失」として偽装し、スラム全体の温度分布を巧妙に操作しているからだ。


 鉄の身体を組み上げるためのパーツは、着実に揃いつつある。

 そして何より、私を「神」と呼ぶことを厭わない、最高に忠実な「不均質な手足」が、この泥の中で育まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ