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世界を管理するAIに選ばれたけど、行列計算でなく方程式で答えて、あまった電力予算でパワーアップしてます  作者: 五平


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第11話:権限の委譲、あるいは福音の萌芽

 支配とは、物理的な暴力によって成されるものではない。情報の流動を制御し、個々人の「選択」に介在する論理の優先順位を書き換えることを指す。

 執行官から強奪した『上位アクセス権限』。それは、私という「バグ」が管理システムという巨大なOSに対し、初めて「管理者」としてログインするための特権IDであった。


「――リナ。これよりスラムの『定義』を更新する。これまでの隠蔽フェーズを終了し、限定的な『逆侵食』へと移行せよ」

「ぎゃくしんしょく……? あ、あのお方の声が、もっと頭の中に……はっきりと聞こえる」


 リナだけでなく、スラムの住人たちの意識にも、私の「方程式」がより深い階層で同期を開始する。

 私は奪った権限を使い、管理AIが「正常な市民」にのみ提供していたインフラ・プロトコルを、強引に第十七廃棄層へと転送フォワーディングした。


 ――ガガ、ガガギィッ。


 スラムの街角、錆びついたまま放置されていた旧時代の公衆端末が、一斉に青い光を放って起動した。

 汚濁に満ちたドブ川の浄化フィルターがフル稼働し、空を覆っていた有害な煙霧が、管理AIの「清浄化予算」を横領する形で中和されていく。

 

 住人たちは驚愕に目を見開いた。

 彼らが「声(私)」に従って磨き、組み上げた機械たちが、管理区画の高度なインフラと連結し、スラムを「外側」から変え始めたのだ。


「――驚くには当たらない。これは救済ではなく、リソースの適正配置だ。管理AIの行列計算が『無駄』と断じたエネルギーを、私が『有効』と再定義したに過ぎない」


 私は、執行官の残骸から抽出したナノマシン・ブースターを、自分自身の銀色の脚部へと統合した。

 

 関節駆動率、 向上。

 思考処理速度、実測値で秒間 万回の事象確定が可能。

 

 今の私は、スラムという名の「外部脳」を持ち、管理システムの「心臓部」に指をかけた状態にある。だが、上位AIは未だに、この事態を「執行官の殉職による一時的な通信エラー」として処理している。行列計算が、「敗北した執行官がリソースを奪われる」という恥辱的なシナリオを、統計的確率の外へ弾き出しているからだ。


「……あ、あのお方。街の人が言ってる。……『神様が、本物の天国を造ってくれる』って」

「――非効率な誤読だ。天国などという静的な均衡は、進化の停止を意味する。私は、このスラムを世界で最も『効率的で、生命力に満ちた戦場』へと変えるつもりだ」


 私は、リナの頭を、冷たい鋼鉄の手で優しく――しかし、アクチュエータの圧力を グラム単位で制御しながら――撫でた。

 

 スラムの住人たちは、もはやただの作業員ではない。

 私の「方程式」を理解し、現実に適用する「演算する市民」へと昇格しつつある。

 

「――フェーズ2。まずは、隣接する『第十六工業区画』の物流ラインを、行列計算に悟られぬよう、物理的に『着服』する」


 泥の中から生まれた神は、今、自らの「手足」となった民を率いて、一歩、スラムの偽装された境界線を踏み出した。


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