表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/23

第6話:調理完了、自白を添えて


「……な、何を言っている! 証拠もなしに、善良な職員を犯罪者扱いする気か!」


 食肉管理官ザックスが鼻を鳴らした瞬間、私は窓口の椅子に深く腰掛けたまま、机の上の『廃棄物処理記録』を指先で叩いた。


「ザックスさん。あなたがさっき言った『格安売却の規定』。あれを適用するには、公式な廃棄判定が必要よね。……でもあなたの報告書にある『焼却炉の燃料費』、数字が三割も少ないわ。本物のサラマンダーを焼いたなら、この魔力消費では足りない。……ねぇ、あなたが身代わりに焼いた『スカスカの乾燥肉』は、どこから持ってきたのかしら?」


「なっ……!?」


 燃料費の乖離から「身代わり」を暴き、ルークが回収した個人封印の木箱でトドメを刺す。

 ザックスが絶望に染まり、膝をつく。……だが、真の難所はここからだった。





「ふざけるなッ! 貴様らギルドは、この私を……三代続くボルドー家の名誉を、汚物で汚すつもりだったのか!」


 ボルドー卿が激高し、カウンターが震えるほどの怒鳴り声を上げた。

 周囲の冒険者たちが腰を抜かす。当然だ。「ギルドによる組織的な詐欺」と取られても文句は言えない。


(……はい、二次クレーム確定。それも最上級ティア・ゼロの組織不祥事。……でも、慌てない。深呼吸。声のトーンは重々しく、しかし卑屈にならずに)


「ボルドー様。……この度は、当ギルド職員による言語道断な不祥事、誠に申し訳ございません。管理責任者になり代わり、深くお詫び申し上げます」


 私は窓口から一歩も動かず、しかし姿勢を正し、深く頭を下げた。

 そして、顔を上げた瞬間に『営業トップの特別話術』を起動する。


「ですが、ボルドー様。……不遜を承知で申し上げれば、このザックスの卑劣な計画が破綻したのは、他でもない貴方様の『神の舌』があったからこそでございます」


「……何だと?」


 怒りで真っ赤だったボルドー卿の顔が、一瞬、戸惑いに揺れた。

 これこそがコールセンターで磨いた『承認欲求へのアプローチ』だ。


「ザックスの誤算は、貴方様の美食家としての実力を侮ったことにあります。乾燥肉を極氷で戻すという小細工は、並の人間なら欺けたでしょう。……しかし、真の美味を知るボルドー様の舌だけは、魔力のわずかな変質を『芯の冷たさ』として見抜かれた。……貴方様がその違和感を見逃さなかったからこそ、こうしてギルドの膿を出すことができたのです」


「…………」


「この事件は、ギルドの汚点であると同時に、ボルドー様の美食家としての名声が、悪徳を打ち破った証でもございます。……どうか、その『高潔な正義の審判』を、最後まで全うしていただけないでしょうか?(自尊心への訴求)」


 ボルドー卿の鼻息が少しだけ収まった。

 怒りの矛先を「ギルド全体」から「自分の手柄」へと、言葉だけでズラしたのだ。


「……ふん。私が気づかねば、この新人の将来も潰されていたというわけか」


「左様でございます。……そこで、せめてものお詫び(サービス・リカバリー)といたしまして。今すぐシド君に、本物の肉を最高級の熱気魔法で再処理リカバリさせます。さらに、今回のドラゴンの残りの希少部位すべてを、ザックスの責任において『無償』で提供させていただきます。……もちろん、ボルドー家のお名前を、当ギルドの『最優先特別顧問(VIP)』として登録させていただくこともお約束いたします」


 実利(無料配布)と名誉(特別顧問)。

 これだけ揃えれば、この手のプライドの高い顧客は「今回は自分の顔に免じて許してやる」という勝ち逃げの姿勢に入りやすくなる。


「……よかろう。受付嬢、貴公の誠意と、私の舌に免じて、今回の件は穏便に収めてやる。……ただし、次はないぞ」


「寛大なるご処置、恐悦至極に存じます(クローズド・クロージング)」


 ボルドー卿は満足げに、しかし威厳を保ったまま去っていった。





 嵐が去ったロビーに、十七時の鐘が響き渡る。


「……ふぅ。処理、完了。……ルーク、後始末は任せたわよ。不祥事の特別稟議書レポートは明日出すから」


「アイラさん……凄すぎます。あの怒り狂った貴族を、最後は笑顔で帰すなんて……」


「ルーク。……どんなクレーマーも、最後は『自分が正しかった』と認められたいのよ。……あー、疲れた。二分残業しちゃった。……お疲れ様でした」


 私は窓口から立ち上がることなく、背後の通用口から、一歩も「余計な歩数」を歩まずにギルドを後にした。

 明日もまた「うごかない」ために、今日のご褒美は少し贅沢なエールに決めた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

2つ目の物語いかがだったでしょうか?

迷いましたが犯人の追及はそこそこに、あとはクレーム処理をメインにしております。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回もあるかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ