表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/52

第45話:強制解約(アカウント凍結)と、一斉ルーティング

 


「やれ! その生意気な受付嬢の首を刎ねろ!!」

 村長の血走った絶叫が、ギルドの一階フロアに木霊した。


 抜刀した『暁の剣』のリーダーと、村長の護衛の男たちが、殺意を剥き出しにして私の窓口へと殺到してくる。

 大剣が空気を切り裂き、私の首元へと迫る。隣の窓口で、ルークが「アイラさんッ!」と悲鳴を上げて目を塞いだ。

 ギルドマスターのバーンズが助けに入ろうとするが、距離が遠すぎる。


 だが。

 私は椅子に深く腰掛けたまま、瞬き一つしなかった。

『営業用スマイル・タイプS(絶対零度の処刑宣告)』を寸分違わず顔面に貼り付けたまま、手元の端末(魔導水晶)に備え付けられた【赤いボタン】を、静かに押し込んだ。


「……当窓口における『暴言および暴力行為カスタマーハラスメント』への対応マニュアル。第三項、第二号」


 私が冷ややかな声で呟いた、まさにその瞬間だった。


『ドガァァァァァンッ!!』


 私の背後——ギルドの奥にある『関係者以外立入禁止バックオフィス』の重厚な扉が、爆発的な勢いで蹴り破られた。


「——そこまでだ、愚か者ども! 武器を捨てて床に這いつくばれ!!」


 怒号と共に雪崩れ込んできたのは、全身を銀色の重鎧で包み込んだ数十名の『王都騎士団・特務制圧部隊』。

 さらにその後ろからは、法衣を纏い、対魔術用の退魔剣を構えた『異端審問局』の特別捜査官たちが、冷徹な足取りでフロアへと展開した。


「な、なんだと!? 王都騎士団!? 異端審問局だと!?」

『暁の剣』のリーダーが、迫り来る大剣の軌道を慌てて止め、驚愕に見開いた目を向けた。


「物理的な暴力イレギュラーに対する、コールセンターの最も効果的な回答ソリューション。……それは、現場のオペレーターが応戦することではありません」


 私は一歩も動かず、床に押し倒されていく男たちを冷たく見下ろした。


「【上位の権力機関への一斉転送エスカレーション・ルーティング】です。……窓口の人間が、わざわざ手を汚す必要などないのですよ」


 私が先ほど押した赤いボタン。

 それは、ギルドの窓口で「対応不可能な物理的脅威」が発生した際、王都の治安維持機関へ直通で警報アラートを鳴らす、緊急エスカレーション・システムだ。

 ……もっとも、私は彼らが今日、この窓口で暴れることなどデータから完全に予測シミュレートしていたため、一時間前から彼らをバックオフィスに待機ホールドさせていたのだが。


「ぐはっ……! は、離せ!! 俺たちはAランク冒険者だぞ!!」

 リーダーの男が暴れるが、熟練の騎士数名にマウントを取られ、あっという間に魔封じの手錠をかけられた。

 村長の護衛たちも、異端審問局の放った拘束魔法によって、ただの一振りもできずに床に転がされている。


「罠だ! これは罠だ!! こんな不当な逮捕が許されるものか!! 私は『霧の谷』の代表だぞ!!」

 床に顔を押し付けられながら、村長が醜くわめき散らす。


「不当な逮捕、ですか」

 私は微かに首を傾げ、カウンターの上に置かれた小さな魔道具——『音声記録用の魔導石』を指先で弾いた。


「村長様。当ギルドの窓口でのやり取りは、サービス品質の向上および、今回のような【悪質なカスタマーハラスメント】の証拠保全のため、すべて録音・記録(ログ化)されております。……先ほどの『生贄の儀式』に関する自白も、私に対する明確な『殺害予告』も、一つ残らず完璧な音質クオリティで保存されていますよ」


「……あ、あぁ……ッ」

 村長の顔から、最後の希望が抜け落ちていく。

 証拠ログは絶対だ。それが残っている限り、いかに彼らが権力や弁護士アドボケイトを使おうと、言い逃れは不可能である。


「アイラ殿。見事な手際だった」

 騎士団の部隊長が、兜を脱いで私に敬礼した。


「事前の通報通り、これより彼らの身柄を『連続殺人および邪教崇拝』の容疑で王都の地下牢へ移送する。……それと、良い知らせだ」

 部隊長は、ニヤリと笑って村長を見下ろした。


「君の提出してくれたデータに基づき、我が騎士団の精鋭部隊が、すでに『ワープゲート』を経由して霧の谷へ強襲突入レイドをかけている。……先ほど通信が入り、地下に蠢いていた巨大な魔物を討伐し、生贄にされかけていた若手の冒険者たちも、全員無事に救出したとのことだ」


「な、なんだと……!? 我らが神が……討伐された、だと!?」

 村長が、絶望のあまり白目を剥いて叫んだ。

「お、おのれぇぇッ! 貴様ら、自分たちが何をしたか分かっているのか! あの神の怒りを鎮めねば、村が……! 我が霧の谷が滅びてしまうのだぞ!!」


「……自分たちの村(利益)を維持するためなら、他人のコストを消費してもいいと?」

 私は、心の底からの軽蔑を込めて、氷のような声で彼を切り捨てた。


「それは『経営』とは呼びません。ただの『寄生』です。……貴方の村は、とうの昔に破綻バンクラプトしていたのですよ」


 私は手元のファイルから、一枚の真新しい羊皮紙を引き抜いた。

『クライアント契約・即時解除通知書』。

 悪質な顧客との関係を永遠に断ち切るための、究極の書類だ。


「……これにて、本件の事実確認ファクトチェックおよび、すべての対応プロセスを終了いたします」


 私は羽ペンを手に取り、美しい筆記体でサインを書き込んだ。


「霧の谷の村長様。ならびに『暁の剣』の皆様。貴方たちの当ギルドに対する甚大な規約違反、および詐欺、殺人未遂行為を重く受け止め——」


『カーン、カーン、カーン……』


 王都の時計塔が、十七時の鐘を鳴らし始めた。

 私の定時。そして、悪党どもの社会的生命が完全に終了する合図。


「当ギルドと霧の谷とのクライアント契約(SLA)、および貴方たちのアカウント(冒険者資格)を、これより【即時解除(永久凍結)】といたします」


 ダンッ!!

 私は、一切の未練も情も込めず、通知書にギルドの真っ赤な【無効(VOID)】のスタンプを叩きつけた。


「連行しろ!」

 部隊長の号令とともに、泣き叫ぶ村長と、絶望に顔を歪める『暁の剣』のメンバーたちが、次々とギルドの外へと引きずり出されていく。


「……ルーク。マスター。事後の調書作成と、救出された新人たちへの補償手続き(フォローアップ)は、明日の朝のタスクにしておいてください」


 私は、一秒の遅れもなく立ち上がり、デスクの上を完璧に片付けた。

 時計の針は、十七時一分。


「あ、アイラ君……! 君は本当に……!君のその洞察力がなければ、さらに多くの若者が犠牲になっていた! 君は英雄だ!」

 マスターが涙ぐみながら私の手を取ろうとする。


「英雄などではありません。私はただ、数字のバグ(不自然なアンケート)を修正デバッグしただけの、一介の事務職員(SV)です」

 私はマスターの手を華麗に躱し、窓口のシャッターに手をかけた。


「それに、私にはこの後、王都の法律よりも重い『絶対的な予定スケジュール』が控えておりますので。……本日の窓口業務は、これにて終了シャットダウンです」


 ガラガラガラッ!!


 私は一気にシャッターを下ろし、呆然とするマスターとルークを背に、ギルドの裏口へと向かった。


(……間に合ったわ。王都ホテル最上階のラウンジ、十七時三十分の予約。私の『洋梨のクリスタル・タルト』が、宝石のような輝きを放って私を待っている!)


 醜悪な嘘と、血に塗れた因習村の闇。

 それらをすべて論理の刃で切り刻み、外部機関へと丸投げ(ルーティング)した私の心は、今、極上のスイーツを迎えるための完璧な空腹状態ベスト・コンディションに仕上がっていた。


「……悪質なアカウントは、さっさと凍結バンして甘いものを食べるに限るわね」


 私は夕暮れの王都の街へ、一切の迷いなく、優雅な足取りで踏み出した。




最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ