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ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


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第21話:最終監査:暴かれた8人目

 

 16時55分。

 終業まで残り5分。事務職が最も「巻き」を入れる、一日の総決算の時間です。


「……セレン様。羽ペンのインクが掠れていますよ。……。力を抜いて、あなたの本名を、その『歴史の修正依頼ログインフォーム』に刻んでください」


 私の促しに、セレンは震える手で『セレン・アリス』と署名しました。

 直後、彼女の手元にある七枚のギルドカードと、彼女自身の署名が共鳴するように発光し、隠し部屋のメインコンソールが十年の眠りから覚醒しました。


 ---


【マスターキー:全世界への一斉送信ブロードキャスト


 > **システムメッセージ:**

 > **【管理者権限:アリス(継承者:セレン)を確認。全データ・アーカイブを展開します】**


「なっ、何だ!? ギルド中の魔導スクリーンが勝手に……!」


 広間でうろたえていた代理人たちの悲鳴が、通気口から聞こえてきます。

 広間、王都、そして全世界のギルド窓口に設置された掲示板。そこに映し出されたのは、十年前、ジャイルズたちがアリスを嵌め、不正に財産を奪い、一人の少女を「死者」として隠蔽した生々しい現場記録ログの数々でした。


「……これが、アリス様が遺した『宝箱』の正体です。金銀財宝ではなく、『真実を全世界へ同時配信する強制パッチ』。……。さあ、ルーク。代理人の方々を窓口までエスコートしなさい。最終的な『清算』の時間です」


 ---


【最終監査:窓口での処刑】


 私は広間の窓口へと戻り、カウンター越しに腰を抜かしている代理人たちを見下ろしました。

 彼らの【残響の波紋】は、もはや濁った灰色すら通り越し、真っ黒な「絶望」に染まっています。


「あ、アイラ事務官! これは誤解だ! その記録は捏造で……!」


「ジャイルズ様。……。見苦しい言い訳は、サーバーのログを汚すだけです。……。現時刻をもって、皆様のギルド加盟権限を『永久剥奪(ブラックリスト登録)』。さらに、十年にわたる不正利得の返還請求、および隠蔽工作に伴う重過失致死未遂罪を適用し、本部の司法局へ全データを転送しました」


 私はスタンプを、これまでにないほど力強く、しかし正確に書類へ叩きつけました。


「皆様は物理的に死ぬことはありません。……。ですが、今日この瞬間から、この世界のあらゆるギルド、あらゆる商店、あらゆる銀行の窓口において、皆様の名前は『存在しない不審者』として処理されることになります。……。それが、あなた方がセレン様に行ってきた仕打ちの『事務的な倍返し』です」


「……あ、ああ……!」


 代理人たちは、魔法で攻撃されたわけでもないのに、その場に力なく崩れ落ちました。

 社会的地位、資産、信用。事務職の手によってそれらすべてを「削除」された彼らにとって、それは死よりも残酷な宣告でした。


 ---


  【終業のシャットダウン


 セレンは、隠し部屋から出てきて、呆然と窓口に立ち尽くしていました。

 モニターに映し出される、若かりし頃の母・アリスの笑顔。そして、そこに添えられた一文。


『私の愛する娘、セレンへ。……。世界があなたを消そうとしても、この記録だけは嘘をつかないわ』


「……。終わったのね、本当に」


「ええ。十年前の未完了チケット、これにて全てクローズ(解決)です。……。セレン様、新規登録の手続きは完了しました。……。明日からは、正当な冒険者の娘として、堂々と表玄関からログインしてください」


 17時00分。

 極北の静寂の中に、終業を告げる鐘の音が響き渡りました。


「……ふぅ。オンタイムです。……。ルーク、後片付け(シュレッダー)を頼みますよ。私はこれから、冷え切った体を温めるための『残業代相当のココア』を淹れますので」


 私の表情に、ようやくいつもの事務的な安堵が戻りました。


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