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ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


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第20話:解読された遺言(マスターキー)

 


 16時50分。

 隠し部屋の冷たい空気の中、私は拘束されていたルークの縄をペーパーナイフで事務的に断ち切りました。


「むはっ! ぷはっ! ……あ、アイラさん! 遅いですよ、怖かったんですから!」


「文句は報告書レポートに書いてください。……それより、セレン様。その手に持っている『七つの断片』……。それが、アリス様が遺した『マスターキー』の起動コードですね」


 セレンは、奪い取った代理人たちのギルドカードを、まるで最後の一手を指すチェスの駒のように並べていました。彼女の瞳には、十年の孤独が凝縮されたような、凍てつく光が宿っています。


「そうよ。この七枚のカードを、この端末コンソールに通せば、私はギルドの全権限(管理者権限)を手に入れる。……そうすれば、母を『犯罪者』として記録した汚らわしいデータベースを、この世界の記憶ごとすべて消去デリートできる」


「それが、あなたの『クローズ(解決)』ですか?」


 私は一歩、彼女へ近づきました。


 ---


【七つの宝箱:真のアクセス権】


「セレン様。あなたが復讐に燃える理由は理解しました。……ですが、あなたがやろうとしていることは、ただの『データの破壊』です。それは事務職プロの仕事ではありません。……アリス様が本当に遺したかったのは、そんな暴力的な上書き(オーバーライト)ではないはずです」


「……何がわかるっていうのよ! 母は裏切られ、名前を奪われ、死んだことにされた! 記録に残らなければ、生きていたことにならない……。それがこの世界の、事務的な『真実』でしょう!?」


 セレンの叫びに、ルークが息を呑みます。

 しかし、私は懐から一枚の、カビ臭い物理的な紙を取り出しました。

 それは、ルークが命がけで回収した、十年前の『バックアップ台帳』。


「ルーク。あなたが地下で見つけたあの黒塗りの名前……。私が特殊な透過魔法で解析スキャンしたところ、興味深いログが復元されました。……セレン様。アリス様は亡くなる直前、このギルドのメインサーバーに『隠しファイル(隠し遺言)』をパッチとして当てていました」


「……隠し、ファイル?」


「ええ。解錠に必要なのは七人の代理人のカードだけではありません。……八人目。『社会的に抹殺されたはずの、あなたの署名』が揃って初めて、真のデータが解凍(展開)される仕組みです」


 ---


【事務官の救済策:新規ログイン】


「アリス様は、あなたを『復讐者』にしたかったのではない。……あなたに、『正当な名前(ID)』を返したかったのですよ。セレン・アリス。あなたが自分の手で『私はここにいる』とログインを試みない限り、この宝箱システムは、本当の真実を誰にも見せません」


 私はセレンの前に、真っ白な『新規登録申請書』を差し出しました。


「……何よ、これ。今さら、ギルドの末端として登録しろって言うの?」


「いいえ。これは『復讐の終わり』と『正当な権利の行使』のための手続きです。……。セレン様、私の窓口時間は残り10分を切りました。……。あなたがこれを書き上げ、正当な権利者としてログインするなら、私は本部の監査官として、十年前の『不正アクセス』をすべて告発し、あなたの母の汚名を、公式の記録ログとして永久にクリーンアップすることを約束します」


 窓の外では、吹雪がクライマックスを迎えようとしていました。

 セレンの震える手が、私の差し出した羽ペンに触れます。


「……。本当に、母の名前を直してくれるの?」


「私は事務職です。……。間違ったデータが残っているのは、生理的に耐えられない(バグを許さない)だけですよ」


 16時55分。

 物語は、最後の五分間。窓口での「最終決算ファイナル・クローズ」へと雪崩れ込みます。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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