表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/53

第19話:システムの中の幽霊(ゴースト)

 


 16時40分。

 終業シャットダウンまで残り20分。

 私はカウンターの外、冷え切った石造りの床を踏みしめていました。窓口という「防壁」がない状態は、事務職としては非常に心許ないものですが、今は背に腹は代えられません。


「……ひっ、ひぃっ! 幽霊だ、幽霊が来る!」


 錯乱したジャイルズが、壊れた蓄音機のように叫び続けています。私はその横を通り過ぎる際、冷徹に言い放ちました。


「ジャイルズ様、叫んでもカロリーを消費するだけです。……幽霊など存在しません。そこにいるのは、十年間、皆様が支払いを拒み続けてきた『負の遺産(未払い残高)』そのものですよ」


 私は管理端末の画面を空中へ投影プロジェクションしました。そこには、ギルド全体の「空気循環システム」のリアルタイム・ログが表示されています。


 ---


【解析:環境データの異常値】


「ルーク、聞こえていますね? あなたを助けに行くついでに、この『バグ』の正体を解説して差し上げます」


 私は誰もいない暗い廊下に向かって、淡々と喋り始めました。


「魔法で姿を消し、システム上のステータスを『死亡(NULL)』に書き換えれば、ギルドの監視魔法セキュリティからは逃げられます。……。ですが、『建物全体の代謝』までは誤魔化せません」


 私は画面上の一点を指差しました。


「見てください。この三日間、誰もいないはずの『中央通気ダクト』の二酸化炭素濃度だけが、常に人間一人分(約40,000ppm)の排出量で推移しています。さらに、旧館のボイラーを止めた後、温度センサーが微かに感知した『36.5度』の熱源移動。……。あなたは魔法の幽霊ではなく、この建物の『血管ダクト』を住処にしている、ただの不法居住者です」


 暗闇から、カチリ、と小さな音が聞こえました。

 それは、昨日セレン(偽物)が持っていたものと同じ、特注の万年筆のキャップを開ける音。


『……本当に、嫌な女。事務官なんてみんな、融通の利かない機械だと思ってたのに』


「最高の褒め言葉として受領アクセプトします」


 私は通気口の直下、分厚い壁の「隙間」の前で足を止めました。

 そこは図面データ上では「耐力壁」と記載されていますが、構造計算上、不自然な余白がある場所。


「……ここにいますね。『八人目』のセレン様」


 ---


【隔壁の向こう側】


 私が隠し扉のレバーを事務的に操作すると、石壁が音を立ててスライドしました。

 そこは、わずか三畳ほどの狭い空間。

 壁一面に、十年前から今日に至るまでのギルド内の「盗聴ログ」と「監視記録」が、古い紙媒体でびっしりと貼り出されていました。


 その中央で、本物のセレン――十年前の英雄アリスに生き写しの、しかし瞳に深い憎しみを湛えた少女が、椅子に深く腰掛けていました。


 彼女の足元には、猿轡を噛まされ、ぐるぐる巻きに縛られたルークが転がっています。


「む、むぐーっ!(アイラさん!)」


「ルーク、無事ですね。……髪に埃がついていますよ。マイナス5点です」


「……。余裕ね、事務官さん」


 セレンは、手にした万年筆をナイフのように弄びながら、私を睨みつけました。


「この十年間、私はこの壁の中で彼らの『汚職の声』を聞き続けてきた。……。今日、この場所で全員のギルドカードを物理的に破壊し、彼らの社会的地位を『削除デリート』してやる。……それが私の復讐よ。邪魔をしないで」


「復讐は個人的なタスクであり、私の管轄外です。……。ですが」


 私は自分の腕時計をタップしました。

 16時50分。


「あなたの復讐劇のせいで、私の『定時退勤』が脅かされている。……。これは、全事務職に対する宣戦布告と見なします」


 私は手元の端末で、ある「予約送信スケジュール」をセットしました。


「セレン様。……。ここから先は、感情論ではなく、『契約の履行』の話をしましょう」


 私の背後で、パニックに陥った代理人たちが、自らの罪をなすりつけ合う醜い罵声が、通気口を通じて響いてきました。

 解決のクローズ・タイムは、すぐそこまで迫っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ