第18話:中間決算(ミドル・クローズ):罪人たちの自白
16時30分。
旧館の電源が落とされ、ルークとの通信が途絶してから15分。
私は暗闇の中、予備の魔導ランタン一つで窓口に座り続けていました。
「……ルーク、返信がないのは減点対象ですよ。ですが、あなたが命がけで『同期』させた断片的なデータ……確かに受け取りました」
私は手元のメモに、ルークが最後に叫んだ名前を書き記しました。
十年前の報告書、黒塗りにされていた受取人の名前。……そこには、『セレン・アリス』と記されていました。
(やはり。あの少女の名前は偽名ではなく、英雄アリス様の正当な血筋……本名だったわけですね)
私は呼び出しベルを三度、静かに、しかし威圧的に鳴らしました。
生き残った五人の代理人たちが、怯えた顔で広間に集まってきます。
「……何の真似だ、受付嬢。ルークという小僧はどうした?」
ジャイルズが震える声で尋ねます。
「ルークは現在、物理的なアーカイブ(旧館)にて、皆様の『不備』を修正するための作業に従事しております。……。さて、皆様。これより緊急の中間監査を開始します。全員、カウンターの前に並びなさい」
私は冷徹な事務官のオーラを全開にし、彼らを一列に並べさせました。
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【中間監査:十年前の『不正アクセス』】
「現在、本件の手続きは致命的なシステムエラーにより『無期限凍結』の状態にあります。理由は、皆様が十年前、アリス様の『死亡』に際して行った、大規模なデータ改ざんです」
「な……何を馬鹿な! 私たちは正当な手続きで……!」
マリウス商人が叫びますが、私は【残響の波紋】で、彼の声に混じる「油ぎった嘘の灰色」を正確に射抜きました。
「マリウス様。あなたはアリス様の隠し資産を横領するため、偽の請求書を乱発しましたね。
ファスト医師。あなたは『事故死』に見せかけるため、虚偽の死亡診断書を発行した。
エレノア様。あなたはギルドの監査官という立場を悪用し、生存記録を完全に削除した。
……。そしてジャイルズ様、ヴァンス様。あなた方は『実力行使』で彼女をこの極北へ追い詰めた」
私の言葉が紡がれるたび、彼らの顔から血の気が引いていきます。
「……アリス様には、娘がいたはずです。皆様は財産を独占するため、その娘の存在すら『事務的に抹消』した。……違いますか?」
沈黙。
その静寂を破ったのは、ファスト医師の嗚咽でした。
「……あ、ああ。そうだ。あの娘は、アリスの死後、この建物の地下に閉じ込められたんだ! だが、数日後に見に行ったら、もぬけの殻で……! 以来、このギルドには『見えない子供』がいるという噂が……!」
「……。十年間、このギルドの『空白のスペース』で、誰かが生き続けていた。……。今、皆様を一人ずつ『ログアウト』させているのは、その時に消されたはずの『八人目』です」
その瞬間。
広間のシャンデリアが激しく揺れ、消えかけていた魔導照明が、一瞬だけ「真っ赤なエラー色」に染まりました。
『……正解。さすが王都の事務官さん、処理が早くて助かるわ』
天井の通気口から、あの日聞いた少女の声が降ってきます。
代理人たちは悲鳴を上げ、パニックに陥りました。
「……皆様、落ち着きなさい。パニックは業務の非効率を生むだけです」
私は動じることなく、虚空に向かって告げました。
「セレン様。あなたの『社会的復讐』は、事務的には理解できます。ですが、現在私の部下であるルークを不当に拘束している件……これは『業務妨害』として、見過ごすわけにはいきません」
17時まで、残り30分。
私はペンを置き、カウンターから一歩前へ踏み出しました。
窓口の内側という「聖域」から出るのは、これが初めてのことです。
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次回お楽しみに。




