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ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


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第13話:極北への左遷と、不備だらけの名簿

新シリーズです!


16時10分。

王都から魔導列車で12時間。窓の外に広がるのは、すべてを白く塗りつぶす極北の原野です。


「……はぁ。ギルド長も、人使いが荒い(ブラック)にも程があります。なぜ私が、有給休暇の直前にこんな僻地まで監査に来なければならないのですか」


私は列車の座席で、冷めきったコーヒーを啜りながら溜息をつきました。

隣では、厚手の防寒着に身を包んだルークが、窓の外の雪景色を見て震えています。


「アイラさん、そう言わないでくださいよ……。今回の『英雄アリスの遺産継承』は、ギルド本部にとっても歴史的な大案件だって言うじゃないですか」


「『歴史的』という言葉は、大抵の場合『面倒な手続きが山積み』という言葉の言い換えに過ぎません。……定時退勤。私の望みはそれだけです」


列車が駅に滑り込み、私たちが降り立ったのは、断崖絶壁に建つ要塞のような建物。ギルド極北支部。

重厚な扉を開くと、暖炉が燃え盛る広間には、今回の「継承者」として招かれた七人の代理人たちが、刺すような沈黙の中で座っていました。


私は手元の「公式招待者リスト」と彼らの容姿を照合マッチングします。


---


【七人の代理人リスト】


1. **ジャイルズ(貴族): 豪奢な毛皮を纏った中年男性。傲慢な視線で周囲を威圧している。

2. **マリウス(商人): 痩身で鋭い眼光。高価な絹の服を着込み、常に懐中時計を気にしている。

3. **ヴァンス(傭兵): 傷だらけの巨漢。重い全身鎧を付けたまま、無言で大剣を磨いている。

4. **エレノア(元ギルド職員): 厳格そうな老女。かつて監査部にいたらしく、私の制服を苦々しく見つめる。

5. **ファスト医師(医師):神経質そうに眼鏡を指で押し上げる男。医療鞄を片時も離さない。

6. **ジュリアン(若き貴族): 派手な服装の青年。退屈そうに欠伸をし、酒の質に文句をつけている。

7. **セレン(少女): 隅で小さくなっている、顔色の悪い少女。他の代理人たちから怯えるように距離を置いている。


---


「……本日から監査を担当するアイラです。さっそくですが、支部長。宿泊管理名簿を」


「ああ、これだ。……代理人は七名。滞りなく揃っているよ」


差し出された名簿を見た瞬間、私の思考回路ロジックに、微かな、しかし明確な違和感バグが走りました。


(……おかしいですね)


名簿の「合計人数」は、確かに代理人七名と、私たち派遣組、そして支部の職員を合わせた数になっています。

しかし、その下にある**「備品消費予測」**の欄。夕食の準備数、シーツの洗濯予約数、さらには「緊急用保存食」の配分計算……。そのすべてが、**「なぜか一名分、多い」**のです。


「支部長。この備品計算、一名分オーバー(過剰)ではありませんか?」


「ん? ああ、それは……ほら、私が書き間違えたんだろう。ここは雪が深くて、たまに頭がぼんやりするんだよ。ハハハ!」


支部長は笑って誤魔化しましたが、私は無言でペンを取り出し、「8」と想定される備品数のズレを、冷徹な横線で修正しました。


「事務における数字のズレは、後々の事故インシデントの火種になります。正確に(ジャスト)管理してください。……ルーク、全データのバックアップを取っておいて」


「あ、はい! 了解です!」


その時でした。

ギルドの石壁が、地鳴りのような響きと共に震え始めたのは。


「アイラさん、大変です! 外が……魔導吹雪ブリザードで、完全に視界ゼロです! 結界が最大出力で強制ロックされました! これ……吹雪が止むまで、誰も一歩も外に出られませんよ!」


ルークが叫びながら駆け寄ってきます。

17時まで、あと15分。

本来なら手続きを終えて帰路に就くはずだった私の「定時」が、音を立てて崩れ去った瞬間でした。


窓の外の闇を見つめながら、私は手元の名簿をもう一度見つめました。

七人の代理人。

彼らの放つ【残響の波紋】は、どれも一様ではありません。強欲な赤、狡猾な黒、そして……正体不明の、透き通った無色。


(……。七人の中に、偽物が混じっているのか。あるいは、この名簿の『消された一人』が、この建物に潜んでいるのか)


私の三泊四日に及ぶ、望まぬ強制残業クローズド・サークルが、幕を開けました。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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