表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

第11話:分析(ログ解析)と、屈辱の記録


16時30分。

ルークが街へ飛び出してから15分。私は窓口の「待ち時間」を利用して、一通の手紙をじっくりと見つめていました。

文字の最後、ハネの部分でわずかにペン先が止まった跡。この特有の「指癖」が、私の脳内にある膨大な顧客データベース(記憶)の一点と、カチリと音を立てて合致しました。


(……やはり、あなたですね。バース元上級監査官)


視界の端で、窓の外、向かいのカフェに座る影が動くのが見えます。

彼はこちらを見て、嘲笑っているのでしょう。ですが、その傲慢なオーラを見るたびに、私の意識は一年前の「あの日」へと引き戻されます。


---


【回想:一年前の監査会議】


それは、私がギルドに配属されてまだ一ヶ月も経たない頃のこと。

ギルド本部のエリート監査官だったバース氏は、全職員を集めた会議室で、自慢げに「次年度の予算予測報告書」を発表していました。


「……以上の計算ロジックに基づき、来季の運営費は15%の削減が可能である。これは完璧な予測だ」


百ページに及ぶ分厚い書類。誰もがその緻密さに圧倒され、拍手を送ろうとしたその時。

末席で、早く終わって帰りたい一心で資料を捲っていた私は、無意識に手を挙げていました。


「……あの、恐れ入ります。バース監査官」


「なんだね、新人の受付嬢。私の完璧な理論に、何か質問でも?」


「質問ではなく、修正依頼リクエストです。32ページの収益計算式、参照している変数が前々期のものになっています。その一点のズレで、後半の全数字がゴミ同然の誤数値になっていますよ」


静まり返る会議室。バース氏の顔が、見る間に土色に変わりました。

「バカな! 私がミスをするはずが……」と震える手でページを捲り、彼は絶句しました。

たった一人の「窓口の小娘」に、数ヶ月の努力を、一瞬で『事務的ミス』として処理された屈辱。


それがきっかけで彼は失脚し、表舞台から消えた……。


---


【現在:ギルド窓口】


「……。あの時の逆恨みが、一年越しの嫌がらせ(チケット)になるとは」


私は溜息をつき、一枚の大きな掲示板用の紙を広げました。

相手は「自分が最も正しい」と信じたい完璧主義者です。ならば、そのプライドを餌にして、自ら「窓口」までおびき出すのが最も効率的です。


私は羽ペンを取り、あえて「デタラメな新規定」を書き殴りました。


> 【緊急告知:ギルド運営基準の全面改定について】

> 本日より、予算の計上方法は「バース式」を廃止し、より簡略化した「アイラ式(適当な計算)」を採用します。今後の監査において、過去の理論は一切の価値を持ちません。


「……よし。これでいいでしょう」


私はそれを掲示板の最も目立つ場所に貼り出しました。

向かいのカフェで、バース氏が身を乗り出し、双眼鏡で掲示板を確認しているのが見えます。

【残響の波紋】を通さずとも、彼の顔が怒りで真っ赤に染まっていくのが分かりました。


「アイラさん! 戻りましたっ……!」


そこへ、全身汗だくのルークが駆け込んできました。

手には一瓶のインク。そして、ボロボロになった記録帳の写しを持っています。


「はぁ、はぁ……! 街の文具店『万年筆の家』で……見つけました! この青みのある特注インク。今も買っているのは……ギルドを解雇された、バースという男だけです!」


「……よくやりました、ルーク。これで『状況証拠』が『確定証拠エビデンス』に変わりましたね」


「それと、アイラさん。カフェの二階、さっきから変な男が……」


「ええ、知っています。もうすぐ、こちらへ『返信クレーム』が届くはずですよ」


16時45分。

ギルドの重い扉が、乱暴に跳ね上がりました。


怒りに我を忘れた「かつての知性」が、自分から罠の中へと飛び込んできたのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ